各国での準備も終わり、合同作戦会議の当日。
モーニング帝国からはQ期3名と天気組5名の計8名がマーサー王国に向かうこととなっていた。
新人は緊張で何も出来なくなることが想像できるので
会議の場に連れてくる意味は薄いと考えての人選なのである。
だが、実際のところは先輩らもガチガチに固まるほど緊張していた。
マーサー城の控え室に着いたは良いものの、妙にソワソワしている。

「どうしようハルナン、緊張で吐きそう。」
「アユミンも?私だって指が震えてるよ。」
「えー?だってハルナンはキュートさんの訓練について行ったことがあるんでしょ?」
「だから尚更よ……もう二度とあの空間にはいたくない……」
「うわぁ……」

緊張の原因はレジェンドとも言える存在である、キュート戦士団だった。
もともとマーサー王国は食卓の騎士が守護していたのだが、
そこからベリーズが抜けたために現在の主要騎士はキュートの5名のみ。
少ないように見えるが、その一人一人が団長マイミと同じくらいの実力を備えているのである。
帝国剣士が緊張するのも無理はないと言えるだろう。
そんな張り詰めた空気の中、帝国剣士に遅れてアンジュ王国の番長4名が到着する。

「あ!カナナンとリナプー、それにメイもおるやん!」
「ということはもう一人は……」

知った顔が次々と現れたので帝国剣士らはホッとした。
以前、共に戦った者同士なので心強く思っているのだ。
あの事件以降、カナナン、リナプー、メイ、タケの4人とはちょくちょく会っているため
近況などを言い合って緊張を解いていくのも良いかもしれない。
ところが、タケだと思っていた4人目は実はタケではなかった。
もっと脚が長くて、もっと大人っぽい顔をしている女性だったのだ。

「背高っ!誰!?キミ!」

大きなリアクションで驚くカノンに対して、4人目は自己紹介をしようとしたが
慌ててカナナンがその子の口を塞ぎだす。

「あははは、この子はリカコって言うてな、ウチの新人やねん。」
「新しい番長ってこと?」
「そういうこと。まだ14歳の入りたてピチピチやで。」
「えー!?見えない!」

確かに理科番長リカコ・シッツレイのルックスは、実年齢を言われなければ分からない程に大人びていた。
絵画のモデルを務めるほどの美貌でもあるため、帝国剣士らは息を飲んでリカコを見つめている。
手が速いハル・チェ・ドゥーも、声をかけずにはいられないようだった。

「君みたいな子の血でも吸えたら僕の貧血も治るんだろうなぁ・・・・・・ねぇ、吸ってみてもいい?」

第一部でも言ったような台詞を恥ずかしげもなく吐いたので、帝国剣士らは呆れてしまった。
それでも初見のリカコには効果覿面。
口をカナナンに塞がれているので身振り手振りで感情を伝えようとするが、
その両手もメイとリナプーに抑えられてしまった。

「あなたはジェスチャーするの辞めておきなさい。」
「ごめんね。でもこれもリカコのためだからね。」

後輩の行動を寄ってたかって制限する先輩番長らに、ハルはキョトンとした顔をする。

「あの~あんたら、何やってるの?」
「いや、これは気にせんといて。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「みんなもう来てたのか!感心だな。」

控え室の扉をマイミが開いたものだから、帝国剣士と番長らは一気にピリッとする。
歓迎ムードゆえにマイミは嵐のような殺気を抑えてはいるのだが、
それでもやはり伝説を前にしてリラックスすることなど出来なかったのだろう。
他の人よりはほんの少しだけ耐性のあるハルナンが声をかけるのがやっとだった。

「あの、マイミ様……打ち合わせはまだ先のはずですが、何の用でいらっしゃったのですか?
 キュートの皆様はギリギリまで休んでもらっても良いんですよ?」

じゃなきゃ自分たちの身体がもたない、といった本心まではハルナンも口に出さなかった。
出来ればキュートと顔を合わせるのは会議の場だけであって欲しいと思っているのだ。
だがマイミもここに来るだけの正当な理由を持ち合わせていたようだ。

「会議の前に伝えておきたいことがあってな。」
「伝えておきたいこと?……」
「実はオカールのヤツの機嫌が相当悪いみたいで……誰彼構わず当たり散らすかもしれないんだ。」
「!?」

オカールと言えばキュートの中で最も凶暴だと言われている狂戦士。
常に飢えており、全方位に噛み付かんとするその姿勢は脅威だ。
そんなオカールの虫の居所が悪いなんて聞いたものだから、一同は震え上がってしまう。

「ま、まぁ安心してくれ!君たちが刺激しなければ何もしないはずだ。
 もしも不当に暴行を働こうとしたならば、私が身を挺して護ると約束する!」

マイミがそう言うまでもなく、帝国剣士と番長にはオカールにどうこうする度胸など無かった。
あれだけ恐ろしいクマイチャンやモモコと同格の戦士にちょっかいかけるなんて、想像しただけで恐ろしすぎる。
出来れば平穏に、波音立てずに終わらせたい。誰もがそのように思っている。
しかし、そう上手く行きそうにはなかった。

「ごめんなさい!遅れました!」
「KAST……3名、今到着しました!」

このタイミングでKASTらが部屋に入ってきた。
トモ、サユキ、カリンは全員が全員汗ダクで、急いでここまで来たというのが伝わってくる。
だが何かがおかしい。
ここに来ると聞いていたメンバーが1人見当たらないのだ。

「あぁ、会議はまだだから気にしないでくれ。 遅刻なんかじゃないぞ。」
「それが……それが……」
「そんな青い顔をしてどうしたんだ?」
「アーリー・ザマシランが遅刻するかもしれないんです!
  途中ではぐれちゃって……どれだけ急いでも開始時刻には間に合わないかも……」

報告したサユキも、その仲間であるトモとカリンもこの世の終わりのような顔をしていた。
キュートも参加する会議に遅刻するのだから、絶望するのも当然なのだろう。
そして、KASTだけでなくモーニング帝国剣士や番長らも恐れた顔をしている。
その上。マイミですらも神妙な顔をし始めてしまった。

「まずいな……このままだとオカールは確実に激怒するぞ……
 そうなったら私でもヤツを止められないかもしれない……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アーリーが到着する前に会議の時間がきてしまった。
このまま待ち続けてもしょうがないので、一同はマイミの案内で作戦室へ向かうことにする。
正直言ってこれから出会うキュートが怖くて仕方がないが、この場面でビビったら何も始まらない。
勇気を振り絞れば乗り切れると信じて、扉を開けていく。

「遅くね?」

部屋に入った瞬間、帝国剣士と番長、そしてKASTらは獣に食い千切られるような激痛を感じだす。
瞬間的に狼が飛びかかり、腕に、脚に、腹に、そして首に噛み付くかのような「錯覚」。
これはオカールの放った殺気なのだが、
イメージやオーラと呼ぶにはあまりにもリアルすぎていた。

「こらオカール!せっかく来てくれたみんなになんてことをするんだ!」
「あ、そいつらがモーニングやアンジュの戦士なの?
 ……この程度の殺気でビビるようじゃ戦力にならなくない?
 今は恵まれてるよな。このレベルで国の代表を気取れるんだから。なぁ?」

キュート戦士団の一員、オカールの発言に一同はプライドを著しく傷つけられた。
しかしだからと言ってどうすることも出来やしない。
反抗でもしようものならば、更に噛みつかれることが目に見えているからだ。
そんなオカールを止められるのは、同格の戦士しかいない。
同じくキュート戦士団の1人であるアイリが抑えようとする。

「ダメですよ~オカール。 これでもベリーズを倒すために立ち上がってくれた戦士なんですから。
 ここで心まで折ってしまったら、本当に使い物にならなくなるじゃない。」

口調こそオカールよりは丁寧だが、ひどく冷たい目をしている。
帝国剣士その他を認めていないのは明らかだ。
だが一同はオカールとは違う意味でアイリに反論することが出来なかった。
全員が全員イナズマに打たれたかのように、彼女の魅力にシビれてしまっているのである。
一目見るだけで、少し声を聞くだけで身体に電流が走る。
アイリを目指して戦士を志したトモ・フェアリークォーツは、特に痺れているようだった。

「ううっ……このバチバチする感じが堪らない……癖になりそう。」

話は変わるが、この部屋にはオカールとアイリ以外にもう1人のキュート戦士団員が存在している。
ただ、そのメンバーは人見知りがひどいためになかなか中心に来ようとはしない。
ずっと隅っこにいようとしているのだ。

「おいナカサキ!お前もこっちに来たらどうだ。」
「ちょっと団長!そんな簡単に名前を呼ばないでよ!大勢に見られたら緊張しちゃうでしょ……」

マイミの「嵐」、オカールの「狼」、アイリの「雷」のようにナカサキだって特有の殺気を放っていた。
ところが、彼女のオーラはあまりにも特別。
珍妙すぎるイメージに、若い戦士らは驚愕してしまう。

「え?……なにあれ?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ナカサキの隣に妖精なのか怪物なのか分からない奇妙な生物がいるのを、一同は見逃さなかった。
怪物とは言ってもまるで凶暴そうではなく 
少し押せば倒れてしまいそうな程に貧弱に見える。
こんな動物はこれまで目にしたことがないので
おそらくはナカサキの放つオーラによって具現化されたものだと推測できるが
他の食卓の騎士のそれと比較するとあまりにも弱々しく、威厳が感じられなかった。
その怪物を見慣れているのか、マイミは一切触れずに別の話題を持ち出す。

「そういえばマイマイはどうしたんだ? もう会議が始まるというのに……」
「マイちゃんはここには来ないよ……もう戦えないんだ。」
「えっ!?」

オカールの発言に、マイミだけでなく他の戦士たちも驚いた。
マイマイと言えばキュート戦士団の中で最年少の戦士。
引退にはあまりにも早すぎる年齢だ。

「どういうことなんだ?」
「アンタは帝国とかに行ってたから分からないかもしれないけどさ、
 マイちゃんはメンタルをやられちまってるんだよ……ひどく落ち込んじゃって、もうずっと寝込んでる。
 とてもじゃないけど、当分は戦えないんじゃないかな。」
「そんな!!」

考えてみれば当然のことだった。
これまで仲間だと信じていたベリーズに裏切られ、更に王までも攫われている。
絶望するなと言う方が無理な状況なのだ。
伝説の存在とは言え、二十歳前の女の子には少々キツかったのだろう。

「あの……ちょっといいですか?」
「どうした?ハルナン。」

全員が沈んでいるところに、ハルナンが発言を投げかけ始める。
はじめはみな、空気が読めていない行動だと考えたが
次に続く言葉を聞いた何人かは意図を掴み取ったようだ。

「キュート戦士団からはマイミ様、ナカサキ様、アイリ様、オカール様が本日の会議に参加されるのですね。
 で、マイマイ様が欠席ですか。」
「あぁ、そうなるな。」
「モーニング帝国剣士は新人4名を除いた8名が参加します。 連絡が遅れて申し訳ございませんでした。」

この状況でハルナンが状況を報告することの意味をカナナンは理解した。
番長の責任者として、自分も報告を開始する。

「アンジュからは私カナナン、リナプー、メイ、リカコの4人が来ています。
 タケ、マホ、ムロタンの3名は防衛任務のため欠席させていただきます。
 同じく報告が遅れてすいませんでした。」
「お、おう……」

報告を受けたマイミだけでなく、その後ろにいるオカールも「欠席」するメンバーがいる事を受け入れているのを見て、
カナナンは心の中でガッツポーズをした。
マイマイが不参加である以上、「欠席」自体は責められることのない正当な行為なのだ。
となればKASTの責任者トモがやるべきことは見えてくる。

(そうか!アーリーも欠席ということにすればいいんだ!)

オカールは若手が遅刻すると知ったら激しく怒るだろう。
先ほど見せた殺気を遥かに上回った殺意を振りかざすかもしれない。
でも、欠席だったら許してもらえるのは明らかだ。
ならばその線で押し通すしかないのである。

「あ、あの!KASTからは……」
「ダメよ~。嘘ついたらバチが当たりますよ~」
「!?」

話そうとした矢先にアイリが割って入ったので、トモは衝撃を受けてしまった。
しかも今回は痺れる程度では済まない、まるで電気SHOCK!に撃たれたかのように苦しい。

「え!?う、嘘って……」
「あなた、これから嘘つこうとしませんでした?」
「そんな!アイリ様の前で嘘なんて!」
「ふぅん、その割には心臓が弱ってるみたいだけどなぁ」
「え!?ええ!?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「あなたのお仲間も心臓バクバクみたい。KASTに何かあったんですかね~?」

まるで心の中を見抜くかのような言い振りをするアイリを前にして、トモは何も言えなくなってしまった。
いや、トモだけではない。 アイリとオカール、ナカサキを除く誰もが動揺している。
マイミですら髪が額に張り付くほどの汗をかいていることからも、
今後起こりうることのヤバさが容易に想像できるだろう。

「おいおいおい!なんだよ!嘘をつこうとしてたってのか!?」

オカールの怒声を聞いた一同は、完全に縮み上がっていた。
狼に喉元を容赦なく噛み切られる思いをしているのだから、ここで元気に居られるはずがないのだ。
アーリーの遅刻を正直に話すのはマズいが、嘘が暴かれるのはもっとマズい。
その時にはイメージではなく、本当に首を斬られかねない。

「なに黙ってるんだよ!言えよ!全然ワケわかんねぇな!!
 騙そうとしてたのか!?だったら絶対に許してやんねぇ!
 どうなんだよ!おい!どうなんだよ!!」

だが本当に真実を打ち明けるべきなのか?
そうして制裁を受けた場合、自分たちの心が完全に折れてしまうのではないか?
トモがそう葛藤しているうちに、部屋の扉が開かれる。

「ごべんなざぃ~~遅れちゃいましたぁ~~!」

扉を開いたのは、最悪にも少しの遅れで済んでしまったアーリー・ザマシランだった。
いつもの美人顔が台無しになるくらいにひどく号泣している。
ここで一同は死を覚悟した。
もはや言い訳など通用しない。後はオカールの怒りをただただ受け入れるのみ。
ただの威嚇で首をかっ切られるのだから、こうなれば骨まで残らないのかもしれない。
イメージで何回殺されようがじっと耐えよう。そう考えたのだ。
ところが、オカールのとった行動は想像を超えたものだった。

「お……おい、大丈夫か?」
「うぇぇぇぇん!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
「ほらほら泣かないで、いったいどうしたの?」
「あっちの方まで行っちゃったんです~~」
「あっちまで行っちゃったの?怖かったね~もう大丈夫だからね~」
「大丈夫?……」
「うん大丈夫大丈夫。落ち着いてきた?」
「ちょっと……」
「よし、もうひと頑張りだ。」

トモは、サユキは、カリンは、そして他のメンバーらは信じられないといった顔でポカンとしていた。
てっきり激怒して暴れ回るかと思いきや、オカールは泣き叫ぶアーリーをあやし始めたのだ。
普段から小さい子供に囲まれて生活するオカールから見れば、アーリーは大きい赤ちゃんのようなもの。
ならば泣き止むように努めるのは当然のことなのである。
そんな一面を知らず呆気にとられているトモの肩をポンと叩いて、アイリがボソッと呟く。

「だから言ったでしょ~? 嘘はダメですよ、って。」
「は、はい!……なんか、自分が恥ずかしいです。」
「うふふ。気にしないで。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アーリーを泣き止ませたところで、オカールはドカッと椅子に座り出す。
優しい先輩でいるのはここまでだ。
卓に着いてからは敵の殲滅のみを考える戦士の顔になっていく。

「全員揃ったわけだし、そろそろ作戦会議を始めようぜ。
 ベリーズをメッタ切りにするためのなぁ!!」

かつて共に戦った仲間に対してそんなことを言うオカールを見て、
「フクちゃんがこの場に居なくてよかった」とサヤシは心から思った。
食卓の騎士の大ファンである王にはとてもじゃないが聞かせたくない言葉だ。
だが、今のベリーズは英雄である以前に王を連れ去った大犯罪者。
オカールが苛立つのも無理もないかもしれない。

「……アイリが議長を務めろよ。頭良いんだろ。」
「はいはい、じゃあ何から話しましょうかねぇ。」
「んなもんベリーズのぶっ倒し方からに決まってるだろ!馬鹿か!?」
「……」

結局、進行はオカールによって強引に行われることとなってしまった。
だがこのテーマは若手戦士たちにとって非常に興味深いものだ。
怪物のようなベリーズを倒すための糸口が見えるかもしれない、そう思うと勇気が湧いてくる。
カナナンもヤッタルチャンなようだった。

「いいですねぇ、それではアンジュの詳細な戦力から紹介しましょうか。」
「アンジュの?あー、いい。そんなのはいい。」
「へ?でも誰がどれだけ強いか分からないと、作戦はたてられないんじゃないですか?……」
「そっか、まだ分かってないんだな。」
「?……」

オカールは立ち上がっては机をバン!と叩く。
そして一同の注目を集めたところでこう言い放ったのだ。

「作戦はこうだ。キュートの4人でベリーズ4人をぶっ潰す。
 残りのベリーズ2人をお前ら全員で死ぬ気で倒せ。
 キュートも余裕が有ったら助けてやる。以上。」

オカールの示した戦法はとてもSHOCK!なものだった。
キュートがベリーズと戦うくだりはまだ良い。
問題なのは帝国剣士、番長、KAST全員合わせてベリーズ2人分としか認めてもらえてない点である。
少なくともこの場には16人の優秀な若手が揃っている。
それらの力を総動員したとしても2人分だと言うのだろうか。

「はは……確かに言えてますね……」

ここで口を開いたのは帝国剣士のカノンだった。
とても不本意ではあるが、そう言わざる得ない理由があった。

「だって、仮にこの場でオカール様とアイリ様の2人を倒せって言われても全然イメージ湧かないもん。
 たぶん私たちのうちの何人かを犠牲にしないと戦いにすらならないと思う。
 それだけレベルの違う相手なんだよ……
 まだベリーズ2人を倒せるって言ってもらえるだけ好評価なのかもしれない。」
「お、よく分かってんじゃん。まぁちょっと違うけどな。」
「え?……」
「倒せるとは思ってない。よくて相討ちだろ。」
「!!」

一同は悔しくって悔しくってぶち壊したい夜がある程の思いだったが、
正論ゆえに何も言うことが出来なかった。
伝説同士の戦いに参加するだけでも奇跡なのかもしれない、そう思っていた。
しかし、1人だけはそう考えていない。

「違うぞオカール!」
「あぁ!?何言ってんだよ団長!」
「ここに居るみんなだって立派に戦える。やりようによっちゃキュートだって凌げるさ!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「……根拠はあんのか?」

悲しいかな、この場にいる殆どがオカールに同調していた。
キュートより活躍出来るとか言われても、所詮リップサービスにしか聞こえないのだ。
だがマイミの言葉に嘘は一つも無かった。

「我々キュートに無くて、彼女らに有るもの……それはなんだと思う?」
「は?そんなの有るワケねーだろ。 強いて言うなら若さか?」
「そう!彼女らには若さが……」
「なるほど!私たちと違ってベリーズに手の内を知られてないってことね!」
「……ん?」

答えようとした矢先にナカサキが割り込んできたので、マイミはキョトンとしてしまった。
これでは団長としての示しがつかないので、再度ビシッと言うことにする。

「違うぞ、元気ハツラツな感じが……」
「そうか、若い子たちの必殺技を波及的に当てれば流石のベリーズも倒れるはず。」
「……いや、アイリ、そうじゃないんだ。」

今度はアイリが言葉を被せてきたので、マイミもタジタジだ。
次こそは掻き消されないように、大声を出そうとする。

「若い力で!気合を!入れれば!……」
「そういうことか!!!じゃあ全員が必殺技を使えるように猛特訓しなきゃなあ!!!」
「……」

オカールまで大声で邪魔してきたのでマイミはひどく落ち込んでいく。
嵐のようなオーラもいつの間にか梅雨のようにジメジメしてしまっている。
だが、(マイミの本意ではないとは言え)敵に対抗する指針は見えてきた。
ベリーズが把握していない新世代の台頭こそが勝利の鍵となるのである。
ところが、当の帝国剣士や番長、KASTらは一抹の不安を感じていた。
キュートの作戦を実行するには明らかに不足しているものがあったのだ。

「あのっ、私たちを活用してくれるのは嬉しいのですが……
 必殺技なんて、使えない戦士の方が多いですよ?」

ハルナンの言葉に、若手らは頷いた。
ハル・チェ・ドゥーや、一部の実力を隠している者は既に必殺技を習得しているが、
全体で見たらまだまだ使えないメンバーの方が圧倒的に多いのだ。
そんな自分たちを必勝作戦の勘定に入れられては困るのである。
そんな一同を見ながら、オカールがまたぶっきらぼうに言い放つ。

「なんだよ、まだ分かってないんだな。」
「……何が、ですか?」
「やれって言えばやれ!必殺技が使えないんなら死ぬ気で覚えろ!」
「で、でも一刻一秒が惜しい状況ですし、特訓する時間なんて……」
「時間なら有るだろ。」
「えっ?」
「ベリーズの奴らを探しながら覚えるんだよ!
 アチコチ走り回りながら身体を鍛えろ!心を磨け!
 そしてベリーズを見つけたらすぐに必殺技をぶちかませ!
 分かったか!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



無茶だが無理ではない。
何よりも王を救うという目的を果たすにはそれしかないと理解していた。
全員が覚悟を決めたのを理解したナカサキは、一枚の地図を出す。

「探すと言ってもアテが全くない訳じゃないわ。
 目撃情報によると、ベリーズはアリアケに向けて馬を走らせている。」

アリアケ、そこは海に面した町であり、
コロシアムと言われる大型の闘技場があることでも知られている。

「船にでも乗って逃げられたら厄介なのよね……一気に捜索範囲が広がっちゃう。
 だから私たちはそれよりも早くベリーズを捕まえる必要があるの。
 会議が終わったらすぐに追いかけるけど、準備は出来てる?」

このナカサキの問いに対して頷かない者はいなかった。
大急ぎでアリアケに向かいながら、必殺技を覚える。
やる事はたくさんあるが、やるしかない。

「あ、でも待ってください。ナカサキ様。」
「なに?ハルナン。」
「モーニング帝国には4人のやる気ある新人が残されています。
 その子たちも必ず役に立つと思いますので、迎えに行っても宜しいでしょうか?」
「えっと、新人でしょ? 言っちゃ悪いけど戦力になるの?」
「ベリーズ相手は厳しいかもしれませんが、活躍の場は有るはずです。
 例えば、モモコの部下と思われる少女たちを抑えるとか……」
「なるほど、団長が言ってた例のカエル使い達ね。」

連合軍の敵はベリーズだけではない。 リサ・ロードリソースら「モモコ一派」もその対象なのだ。
もしも彼女らに妨害されたらベリーズと戦うことすらままならない。
そこで新人の力が活かされるのである。

「でも大丈夫? カエルを見て腰を抜かしてたんじゃなかったっけ。」
「そこは頑張って克服してもらいますよ。」
「そんな時間どこにあるの?」
「決まってるじゃないですか。"ベリーズを探すまでの時間"です。
 多少厳しくはなりますが、ショック療法で動物大好きっ娘。に育て上げて見せますよ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



その後も会議は続き、必要な情報が出揃ったところでマイミが立ち上がった。
もうさっきのようには凹んでいない。 総大将らしき凛々しい顔をしている。
最後の仕上げとして全員を鼓舞する役割が彼女には残されているのだ。

「各国からこれだけの精鋭が揃ったんだ。私達なら絶対にやれる!
 踊るように、歌うように、熱狂しながら戦おうじゃないか!」
『Dancing! Singing! Exciting! オー!!』

鬨の声をあげた結果、戦士たちのテンションは最高潮に達した。
まだまだ課題は多いが、この分ならやり遂げることが出来るだろう。
熱が冷めないうちにアンジュの番長やKASTらはアリアケへと向かう準備を始める。
マイミだってそのつもりだ。

「頼もしいな!よし、私もすぐに馬を手配して……」
「あのー」
「なんだ?君は確か……」
「マーチャンです。」

このタイミングでマーチャン・エコーチームが声をかけてきたのでマイミは驚いた。

「どうしたんだ? 早く行かないと置いてかれるぞ?」
「えっと、キュートさんの武器、ボロボロじゃないですか?」
「!」

マーちゃんの指摘にマイミだけでなく、ナカサキやアイリ、オカールもピクッとする。
これは武器を悪く言われて怒っているわけでは決して無い。
職人でもなければ気づけない痛みに着眼したことについて関心しているのだ。

「よく分かったな。確かに我々の武器は手入れが行き届いていない。
 メンテナンスがまったく出来ない状況にあるんだ。」
「どーしてですか?やればいいのに。」
「ははは、そうだな。やればいいだけだな。だがそういう訳にもいかないんだ……
 この武器は特別製でね、『彼女』以外が調整するのは難しいようになってるんだよ。」
「?」
「『DIYの申し子』のことを知ってるかな?」
「あ!……でもその人って!」
「そう、申し子とはベリーズ戦士団の『チナミ』のこと……悔しいが、我々の敵だよ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ベリーズ戦士団のチナミは本人の技術力もさることながら、
数多くの職人たちを取りまとめる「棟梁」としての面も評価されていた。
持ち前のコミュニケーション能力によってどんな気難しい職人とも心を通じあわせることが出来るため、
自国で製造される武器の品質を加速的に向上させることに成功していたのだ。
だが今のマーサー王国にはチナミはもういない。
食卓の騎士の武器の整備についてはチナミに一任されていたので、
たとえ故障したとしても簡単に修繕することが出来ないのである。

「こんなボロでも私たちにとっては使いやすいんだ。
 新品の既製品を使うよりずっとね。」

そう言うとマイミは自身の愛用するナックルダスターをじっくりと見せてくれた。
確かに優れた造りではあるが、食卓の騎士の戦いについてこれず、あちこちダメになっている。
これでもキュートが強いのには変わりないが、ある程度はパフォーマンスが落ちるだろう。
それは良くないと思ったマーチャンが、ある提案をする。

「キュートさんの武器、マーチャンが見ていいですか?」
「?……君なら治せるというのか?」
「たぶん。」

マーチャンがそんなことを言うものだから、近くで見ていたハルはギョッとする。
そして慌てて止めに入るのだった。

「マーチャンなに余計なこと言ってるんだよ!
 すいません皆さん、この子の言うことは気にしないでください……」

ハルが必死にフォローをしたがもう遅い。
話の全てをオカールに聞かれてしまっていた。

「面白いじゃんか。ちょっとだけ待ってやるから修理してみな。
 ただし、キュートの時間を奪ってるってことは自覚しろよ?
『やっぱり無理でした』じゃ済まないことは分かってるよな?」
「……はい。」
「よし、よく言った。じゃあ案内してやるよ。
 もう使われていない『ベリーズ工房』にさ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マーサー王国きっての武器開発施設である『ベリーズ工房』にて、
マーチャンはキュート戦士団らの武器を修理することになった。
許された時間はたったの1時間。
期限内に完了しなかった場合、たとえ作業途中でもキュートは出発を開始することとなっている。
そうでなくてはベリーズらを取り逃がすかもしれないのだから、当然だろう。
そして、そうなった時はマーチャンがどんな罰を受けるのか想像するのも恐ろしい。
そのため、新人剣士を迎えに城へと戻るハルナンを除いた残りの帝国剣士らは、マーチャンを見守ることにした。
いざという時は身を挺して仲間を守る思いなのだ。

「それで、私たちKASTと番長たちが先にアリアケに向かうことになったワケか。」

馬を走らせながら、トモ・フェアリークォーツが喋っていた。
番長であるカナナン、リナプー、メイ、リカコと
KASTであるトモ、サユキ、カリン、アーリーの使命はいち早くアリアケに到着してベリーズを見つけ出すこと。
もちろん交戦となった場合は命を懸けなくてはならない。
恐ろしいが、やるしかないのだ。

「なんか変な感じだね、あの時の敵同士がこうして肩を並べて走ってるなんてさ。」

サユキは、数ヶ月前の選挙戦で直接対決したリナプーを横目で見ながらぽつりと呟く。
両陣営は当時、フク側とハルナン側に分かれて激しい戦いを繰り広げていたのだから、
今、同盟国として目的を共にするのは確かに奇妙な感じもする。
声をかけられたリナプーも、サユキを不思議そうな顔をして見ていた。

「最近のお猿さんは馬に乗れるんだ……!」
「いつか本当に潰すからな。」

元は敵だった者同士のやり取りがとても可笑しかったのか、
メンバーのうちの一人が声をあげて笑い出してしまった。

「んんんんんんんんんん^o^」
「「「「!?」」」」

奇怪な声が聞こえてきたので、KASTの4名はひどく驚いた。
突然の敵襲かもと思い、警戒して辺りを見回していく。

「い、いまの奇声は!?」
「あー、いや、なんでもないねん。」
「ぶひ。」
「黙ってなさい。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「あ、あの人達の声かも!?」

奇声の正体を知らないアーリーは、馬を走らせる延長線上に突っ立ている二人を指差した。
声の主当てクイズとしては不正解だが、謎の人物の登場に一同は注目する。

「なにあれ、怪しすぎない?……」

サユキがそのような感想を抱くのも当然だった。
2人のうち片方はどこにでも居そうな短髪の少女なのだが、
そちらではない低身長の女性の方は、人間とは思えない見た目をしていたのである。

「天使……さん?」

カナナンの言う通り、その女性には真っ白な天使の羽根が生えていた。
初めは作り物の羽根ではないかと疑ったが、ちゃんとバッサバッサと羽ばたいている。
しかも、よく見ればその天使は少しだけ浮いているようにも見える。
疑いの余地のない事実に一同は目を丸くすることしか出来なかった。
どうにかして正体を突き止めたいと思っていたところで、
天使の方から挨拶をし始めていく。

「どうも~ホワイトマナカんこと、マナカ・ビッグハッピーでーす。で、こちらが」
「マイ・セロリサラサ・オゼキングです。」
「気軽に"マナカん"と"マイちゃん"って呼んでくださいね~」

にこやかな笑顔で自己紹介する天使マナカンを、番長およびKASTはひどく警戒していた。
この2人の所属に関して心当たりがあったのだ。

「あんたら、モモコの部下やろ。」
「えっ!?なんで分かったんですか~!?」
「こんなだだっ広い草原で友達になろうとする奴なんておらへんやろ!」
「あ!確かにそうですね。」
「モモコの部下ならカナ達を足止めしようと思ってもおかしくないしな。」
「うん。うん。大正解です。じゃあ早速始めましょうか。」
「8対2でか?……いや、リサ・ロードリソースみたいに1万の味方がいたりとか……」
「そんなにいませんよ~!……せいぜい1000羽がやっとです。」

マナカがそう言った次の瞬間、カナナンの身体が一気に上空へと飛ばされる。
いや、連れてかれたという方が正しい。

「なっ!?こ、これは……」
「今夜天国に連れてってあげますからね~」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



気づけばカナナンの周りには無数の白いハトが集まっていた。
それら1羽1羽がクチバシで服を掴み、天高くへと連れて行ったのである。
鳥の力は人間とは比べてとても微弱であるが、このハト達は戦闘用に訓練されている。
それらが100羽も200羽も集まれば痩せ型の女性を10メートル程度持ち上げることくらいは容易い。
合計1000羽の鳥類、総称して「PEACEFUL」を自在に操るのがマナカ・ビッグハッピーの能力なのだ。

「カナナンを放せ!」

鳥の操り手がマナカだと判断したメイは、カナナンに危害が及ぶ前にカタをつけるべく飛びかかった。
食卓の騎士の1秒演技をして白ハトに直接ダメージを与えるという線も無くはなかったが、
それが影響してカナナンを地に落とされてはたまったものではない。
だから飼い主兼調教師のマナカにねらいを定めたのだ。
ところが、マナカにはあらゆる直接攻撃が届かなかった。

「ごめんなさいね。」
「!」

天使の羽根を大きく羽ばたかせながらマナカは天まで登る。
よくよく見てみれば白い翼は天使の羽根などではない。
白いハトが何匹も集まって、そのように見えていただけのことだ。
だがそんな単純なトリックでも効果は十分。
攻撃の届かぬ位置まで上がったマナカに弱点は無いのだ。

「カナナンさん、天使になった気分はいかがですか?」
「最悪や!今すぐ放せ!!」
「え~?残念だけどしょうがないですね。
 ハトさん達~カナナンさんのお望み通り、今すぐ放してあげて~」
「え?ちょっ、おい!」

地上10メートルという高さで、鳥たちはカナナンを掴むのを止めてしまった。
つまり、無慈悲にも突き落とされる形になったのだ。
打ち所さえ悪くなければ死ぬことのない高さだが、激痛で悶え苦しむのは避けられない。
番長の司令塔の役割を担うカナナンをここで戦線離脱させる効果は大きいだろう。
ところが、アンジュの番長たちだって黙って見ているはずがなかった。
特に新人番長は、カナナンがいつ落ちてきても良いように準備していたのだ。

「え!?あれは……シャボン玉……?」

カナナンが落ちる様を見るべくマナカが下を見下ろせば、そこには人間よりも大きなシャボン玉が膨れ上がっていた。
しかもそのシャボンは特別製。
理科番長リカコの研究の末、簡単に割れないように粘着性を大幅に強化したものなのである。
それがクッションとなり、カナナンはほとんど無傷で着地することに成功する。

「カナナンさんんんんんんんん。」
「ナイスやでリカコ。ちょっと液がベタベタしすぎるのが玉に瑕やけどな。」

自分の思惑通りにコトが進まなかったので、空にいるマナカはチッと舌打ちをした。
そして、計画のズレを修正するための計算を開始する。
マナカは人を持ち上げるのも得意だが、計算も大得意なのだ。

「あんな子、データに無かったけどなぁ……
 まぁいい。私とマイちゃんの力を合わせれば絶対に勝てるはず。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「今のなに!?おっきいシャボン玉だったね!」

マナカが苦悩する一方で、その仲間であるマイは目をキラキラと輝かせていた。
リカコのひと吹きであっという間に膨れ上がった巨大シャボンに興奮しているのだ。
マイは戦士とは言ってもまだ幼いため、目的を忘れてしまうコトが多々あるのである。

「ちょっとマイちゃん!?はしゃいでる場合じゃないよ!」
「あ、ごめんごめん。」
「マイちゃんはシャボン玉の子を仕留めて……そしたら私を妨げる子はいなくなるから。」
「はーい。」

そう言うとマイはリカコの方を向き、獲物を狙うような獣の目をし始めた。
ここにはリカコ以外にも敵は複数いるのだが、それでも任務を遂行しきる自信があるように見える。
当然、番長やKASTらはそれを許すわけにはいかないが。

「させないよ!……ベリーズと戦うには誰一人欠くわけにはいかないんだから。」

カリンはリカコを守るべく、マイの前に立ちはだかる。
そして他の仲間も同様にリカコを取り囲むような陣形を取り始めた。
マナカによる空中からの落下を防ぐにはシャボンのクッションは必要不可欠。
ゆえにリカコさえ守り通せば大きい損傷を受けることはないと考えたのである。
だがマナカだってモモコに認められた戦士。
持ち上げて落とすしか能が無い訳ではなかった。

「そんな陣形、すぐ崩してあげますよ。
  クチバシの雨あられなんて味わったこと無いでしょう?」

マナカが合図を出すことで、計200羽の白ハトが五月雨のように一同に襲いかかった。
硬いクチバシでガンガンと叩かれるので、喰らう方は堪ったものじゃない。
そんな中、トモ・フェアリークォーツはこの状況でも怯まずにしっかりと弓を構えていた。
彼女だけはリカコを守るよりも、宙に浮くマナカを撃ち落とすことを最優先に考えていたのである。

「モモコ一派のこと、だいたいわかったよ……動物を味方につけるのがアンタらのやり方なんでしょ?
 リサ・ロードリソースって奴もカエルを操ってたみたいだし、
 きっとそこのマイもそうなんだろうね。大方、ヘビでも操るのかな?
 でもさ……いくら動物が強くても飼い主がいなきゃどうにもならないよね。
 だから私はお前を射抜く!覚悟しな!!」

トモの判断は概ね正しかった。
リサが武器にする両生類や、マナカが武器にする鳥類が強いのは事実だが、
それは操り手の指示があってこその話。
リサやマナカを戦闘不能にしてさえしまえばそれでお終いなのだ。
ところが、トモの考えには一つだけ誤りがあった。
それは、マイ・セロリサラサ・オゼキングの操る動物の種類だ。

「ヘビじゃないんだよ、爬虫類を操る子はもう居なくなったんだ。」
「え!?……(いつの間に、上に!?)」

さっきまである程度の距離をとっていたマイが、
一瞬にして頭上まで来ていたので、トモは驚かされた。
そしてガードする間も無く、後頭部へと蹴りをぶつけられてしまう。

「ぐっ!!……」
「マイが操るのは哺乳類……マイはマイ自身を操るんだよ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



通称モモコ一派、正式名称"カントリーガールズ"。
リサやマナカなど、所属メンバーのほとんどが動物を利用した戦法をとっているが、
例外的にマイ・セロリサラサ・オゼキングだけは己の肉体を武器にしていた。
彼女の実父は優れた戦績を誇る戦士であり、
その遺伝子を濃く受け継いだことで、カントリーガールズ屈指の肉体派となったのである。
しかもマイは父から徹底的なコーチングまで受けている。
その結果として、マイの武器である哺乳類「マイ(自分自身)」には二種類の形態が存在していた。

「知ってる?人間の身体って細胞で出来てるんだよ?」

たった今トモを蹴り倒したばかりだと言うのに、既にマイはリカコの背後に移動していた。
全員でリカコを取り囲んでいたはずなのに、何故ここまでの接近を許してしまったのか?
それはマイが跳躍したからだ。
番長とKASTは前方、後方、そして横方向からの侵入を防ごうとしていたが、
マイはそれらではない上方向からやって来たのである。
マナカの操る無数の鳥による攻撃に神経を注いでいたこともあって、簡単に近づかれたのである。
そして、驚くべきはマイの異常なまでのジャンプ力とスピードだ。

「今のマイの細胞はね、だいたいウサギと同じなんだってさ。」

マイは父からウサギ(と、もう1匹)の戦い方を教え込まれていた。
その甲斐あって現在では実物の動物と同等か、それ以上の能力を戦闘で発揮することが可能となっている。
一瞬にして距離を詰めたのも、強烈な蹴りを放ったのも
マイがウサギ以上にウサギの力を体現しているからに他ならないのである。
そして今もこうしてリカコを蹴り倒そうとしている。

「君とは友達になれたかもしれないけど、ごめんなさいね。」

跳躍や移動に使う脚の筋力のすべてを破壊力へと変換し、
マイは力強い蹴りをぶちまける。
いかにも線の細そうなリカコはこれで倒れるだろうと、マイは確信していた。

「決まった!……あれ?」

蹴りの決まった感触は確かにあった。
しかし、その対象が異なっている。
リカコに当てようとした蹴りは、カリン・ダンソラブ・シャーミンのお腹で防がれていたのだ。

「え?……さっきまでそっちにいたはずなのに……」
「言ったでしょ?誰一人、欠く訳にはいかないって。」

渾身の一撃を受けても平気な顔をしているカリンに恐怖しながらも、
それをごまかすようにマイは反論する。

「それはもうダメなんじゃないですか!?だってもうトモって人はマイが倒したし!」
「トモはあの程度じゃやられないよ。」
「え!?」

後方で物音がしたので、マイは背筋を凍らせた。
そちらは後頭部に強い一撃をぶつけたトモが寝ているはずの場所だったからだ。

「君さぁ、戦う相手間違ってるよ。」
「!?……(ほ、本当に生きてる!)」
「肉体が自慢なのはいいんだけどね、それは私たちKASTも同じなんだ。
 こっちには私みたいな鬼がいる。猿もいる。大女もいる。
 ……そして"サイボーグ"がいる。」
「さ、細胞?なんですか?」
「ぶっちゃけ勝ち目ないよ、諦めな。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「ひどい!大女ってひどい!」
「トモまで猿って言った!!」
「ちょっと、そこは軽く流してよ……」

トモが勝手につけた異名に、KASTの面々はカンカンだ。
この仲間割れの隙をついて、マイはリカコを狙おうとするが
KASTの中で唯一、つけられた異名を気に入っているカリンに服を掴まれてしまう。

「えへへ、サイボーグだってー」
(この人、やっぱり私のスピードについていってる!)

カリンはサイボーグ。
とは言っても本当に身体が機械で出来ているという訳ではない。
かつてサイボーグと呼ばれた傭兵は全身を鋼鉄で強化していたが、
カリンの肉体は正真正銘、生身のものだ。
ではどの辺りがサイボーグなのか?
その理由は、ジュースを捨てたカリンの本来の能力にあった。

「離してくださいよ!えい!」

マイは超至近距離からの蹴りをカリンの腹へとぶつけていく。
さっきは耐えられてしまったが、同じ部位への2発目はさすがに有効と考えたのだろう。
しかしカリンの表情は少しも曇ったりはしない。
瞬き一つしないのだ。

「え?……痛くないんですか?」
「うーん、よく分からないかな。」
「な、なにそれ……」

人は高揚すると脳内麻薬が分泌されて痛みを感じにくくなるものだが、
カリンのそれは人一倍効果が強かった。
機械が痛がらないのと同じように、戦闘時のカリンは常に無痛なのである。
グレープジュースを飲んで脳機能がおかしくなった時はこの特性が弱体化しがちだが、
今のカリンはシラフのまま。
ゆえにウサギの蹴り程度では苦しむこともない。

(こんな人、相手にしてらんない!)
「あっ、行っちゃダメ。」

カリンを恐れたマイは脱兎の如き速度で逃走を図るが、
またも回り込まれて、今度は正面から両腕を掴まれる。
まるでカリンだけ時の流れが速くなっているようだ、とマイは思った。
数ヶ月前まではカリンは味方のサポートばかりしていたので今回のスピードファイターっぷりは見られなかったが、
幼い頃から訓練を受け続けてきたカリンにとって、この速度で動くことくらい朝飯前なのだ。
その速さは、カリンに内蔵されている時計が「チクタク」と進んでいるようだと形容されている。
その辺りもサイボーグと呼ばれる所以なのかもしれない、

(もう!この人、本当に邪魔だなぁ!!
 だったら上に逃げてやる!!)

マイはウサギの跳躍力で上方向へとジャンプすることでカリンを振り切ろうとした。
耐久とスピードに優れたサイボーグでも、マイを掴む腕の力までは強くないと気づいていたので、
今度こそ本当に邪魔者から逃れられると踏んだのだ。
サイボーグに飛行機能まで備わっていたら万事休すだったが、幸いにもそれは無かった。
もっとも、それで逃げられるほどKASTは甘く無いワケだが。

「リンカ、ここからは私に任せて。」
「!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイが跳びあがった上方向には、既にアーリー・ザマシランの腕が伸びていた。
そしてカリンとは比較にならぬ程の握力でマイの両肩を掴み、宙ぶらりんにする。
アーリーはたまたまここに居たわけではない。マイが上に跳ぶしかないことを予測していたのである。
カリンがアレコレ手を尽くしたので、マイの退路は自ずと限定される。
ならばアーリーはその先に手を置いてやれば良いだけ。
この詰め方はさしずめ将棋のよう。
マイのCHOICEもCHANCEも読まれていたということだ。
その様子を上空から見ていたマナカは、不思議に思う。

(あのアーリーって人は戦略とは無縁と聞いていたけど……話が違う?)

敵を囲むだけの視野の狭い戦い方をするアーリーはもういない。
ジュースを飲まない選択をしたアーリーの視野はすべてを見渡すほど広いのだ。
だからこそKAST、そして番長のためにすべき次の行動が見えている。
それはマイをぐるんぐるんにブン回して鳥を追っ払うことに他ならなかった。

「とりゃーーーーー!!」
「いやあああああああ!」

両肩を掴んだまま、ジャイアントスイングをするかのようにマイを振り回すことで
無数に集まる鳥たちを散らしていく。
これはマイにダメージを与えつつも、味方のサポートまで可能な攻撃手段だと言えるだろう。
そして決定打を与えるべく、アーリーはマイを掴む手を解放する。

「キー!飛ばすよ!」
「はいよ!」

大回転による遠心力のおかげでマイは激しい勢いで吹っ飛ばされてしまったが、
サユキ・サルベの自己流カンフーの飛び蹴りは、その勢いすらも越えていた。
連日の早朝ランニングの結果、サユキの身体はジュースを飲まずとも十分に軽くなっている。
持ち前の猿のようなすばしっこさも相まって、空中戦はお手の物なのだ。
そんなサユキの蹴りを受けたマイは、無惨にも地に落とされることとなる。

「くそぉ……」

これだけの猛攻を受けてもまだ意識があるのは日々の訓練の賜物なのだろうが、
むしろマイはプライドの方をひどく傷つけられていた。
今まで体術で遅れをとった経験なんて数えるほどしか無かったので、相当悔しがっているのである。

「マナカちゃん……ごめん。」
「マイちゃん!?なんで謝るの?」
「そのリカコって子を倒すのさ……後回しにしてもいい?」
「そういうことね……マイちゃんの好きにしていいよ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



仲間の意思を汲み取ったマナカは、KASTの相手をマイに任せることにした。
となると天敵リカコのいる番長の相手をする形になるわけだが、
500の白ハトを従えるマナカにはいくらでもやりようがあった。

「番長さんはたった3人なんですよね。 そんなので私の攻撃を受けきれますか?」

天使の翼で空飛ぶマナカンの指示通り、ハト達は一斉にカナナン、メイ、リカコへと飛びかかった。
その加速力はまるでミサイルののよう。
硬いクチバシの一つ一つが番長たちの身を切り裂いていく。

「くっ……結構キツイな。」
「せっかくアーリーが追っ払ってくれたのに、これじゃ意味がないじゃない!」

カナナンの算盤「ゴダン」や、メイのガラスの仮面「キタジマヤヤ」、
そしてリカコの固形石鹸「ダイスキダー」は鳥からの攻撃を防ぐにはあまりにも無力だった。
タケの鉄球「ブイナイン」、ムロタンの透明盾「クリアファイル」、マホのスナイパーライフル「天体望遠鏡」ならば明らかに有効だっただけに、
メンバーの組み合わせがこうなってしまったことを呪うしかない。
そしてこの状況では、戦士として最も日の浅いリカコは案の定パニックに陥っていた。

「リカコは最高に気分悪いです悪い悪い悪い悪い。
 今噛んだ鳥でてこい!おまえ食す*\(^o^)/* 
 食せないね……お腹壊すね……
 鳥さんは嫌い。ぶたさんは好き……ぶたさんはどうしていない?……」

戦意喪失しつつあるリカコだったが、ここで先輩であるカナナンとメイが声を投げかける。
自らも血を流しながらのエールに、リカコは心を打たれたようだ。

「しょぼくれてる場合やないで!この状況を打破できるのはリカコしかおらんのやから!」
「ムロタンとマホは私とタケを前に、最後まで攻めてたよ……リカコはどうする?」
「!!」

ハッとしたリカコは、カバンの中から固形石鹸と少量の水を取り出し、物凄い勢いで擦り始める。
彼女の石鹸の扱いはプロ級。
固形石鹸を数秒で液体石鹸に変えてしまうことくらいは容易いのだ。
そしてそうして作り上げた液体を、ガムシャラに周囲へと撒き散らす。

「おりゃああああああ!!(^o^)」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



鳥たちは上手く飛ぶことが出来なくなり、次々続々と地に落ちてしまう。
羽根が濡れた状態での飛行はただでさえ難しいというのに
液体石鹸なんてかけられたのだから、もう低空飛行さえも困難だろう。
その光景を見て焦ったマナカは、天使の翼を構成するハト達に高度上昇の指示を出す。

「もっと高く上がって! あの石鹸がかからないところまで!!」

自分まで飛べなくなるという最悪の事態を恐れたマナカは、
元いた地上10mの高さより更に上にいくことでリカコの攻撃を逃れようとした。
地に足のつく状況で番長たちに対抗できる自信がないため
高いところにいるというアドバンテージだけはとにかく死守なくてはならないのだ。
だがマナカがそういう行動をとることも、カナナンは想定済みだった。

「よくやったリカコ。お次はシャボン玉や。いけるか?」
「さっきのネバネバしたシャボン玉ですか?(u_u)(u_u)」
「ううん、今度は小さくて細かいシャボンで辺り一面を覆い尽くしたれ!とびっきりアワアワなヤツやで!」
「(<_<)」

リカコはカバンから複数のストローを取り出しては、ひとまとめにして息を吹きかけていく。
そうすることによってシャボン玉が大量発生し、あっという間に番長たちや地に落ちた鳥たちを覆い尽くす。
覆ったとは言っても近くに寄れば相手がいることが分かる程度の視覚障壁ではあるが、
遥か高いところにいるマナカンからしてみれば何も見えないも同然だ。
番長たちの位置はもちろん、味方の鳥がどこにいるかも分からない。
これでは指示の出しようがないのだ。

「えっ……うそ……どうしよう。」

ここでマナカは二択に迫られる。
このまま上空という安全圏に居続けるべきか、
それとも危険を冒してシャボンの中に突撃するべきか。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マナカが二者択一を迫られている一方で、仲間であるマイは地に寝かされていた。
それどころかトモ・フェアリークォーツに肩を踏みつけられてしまっている。
踏み込みがひどく強いので、少しも動ける気がしない。

「私たちを倒すって、息巻いてなかったっけ?」
「くそう……」

マイ・セロリサラサ・オゼキングは己の戦闘能力の高さを信じていた。
1対1の素手での勝負なら(水中戦でない場合に限り)カントリーガールズの誰にだって負けない自信もある。
だから果実の国のKASTくらいは自分ひとりでなんとかなると考えていたのだ。
ところが蓋を開けてみればどうだ。父から受け継いだウサギの力では4人のチームワークに全く歯が立たない。
いやそれどころかトモ、サユキ、カリン、アーリーの誰か一人とタイマン勝負をしたとして勝てたのだろうか?
それを考えると寒気がしてくる。頭の中が嫌な思いでいっぱいになる。
そうして精神が不安定になったところをトモは見逃さなかった。

「そんじゃ終わりにしよっか。グッパイ~」

ボウ「デコピン」はしっかりと握られ、矢の先はマイの額へと向けられていた。
いくらトモの弓の腕がイマイチとは言ってもこれだけ近ければ絶対に当たる。
そうなったが最期。カントリーは大切な仲間を一人失うこととなってしまうだろう。
それは絶対に避けたいと判断したマイは必死で首から上を横方向へと動かした。
この程度の回避で射撃から逃れられるかどうかは分からないが、とにかく生きることに必死だったのだ。
その必死さが新たな隙を生む。

「弓はね、射るだけの道具じゃないんだよ。」

トモは掴んでいた矢を放しては、マイの額にボウを強く振り下ろす。
トモにとってボウは鈍器も同然。
予想外の攻撃をマイが避けられるはずもなく、脳天に直撃してしまう。

「ああ゛っ……もうっっ!!」

ここまでのペースは完全にトモが掴んでいた。
後は4人がかりで押さえつければ難なく勝利といったとこだろう。
そうなったらまだマナカに手こずっている番長たちをサポートすることだって出来たはずだ。
ところが、状況はここで大きく転換する。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「え?……トモ、何してんの?……」

サユキはつい声を漏らしてしまった。
マイの肩を踏みつけていたはずのトモが、そのマイをみすみすと逃がしたのだから
そのような言葉を発してしまうのも無理ないことだろう。
はじめはマイを舐めきっての行動かもと思ったが、そのような類ではないとすぐに確信する。
何故か?それはトモの脚から大量の血液が噴出していたからだ。
まるで何か凶暴な動物に噛み千切られたかのように。

「きゃああああ!トモ大丈夫なの!?」
「カリン落ち着いて、私は大丈夫……いや、やっぱりちょっと不味いかも。
 私じゃなくて、KASTのみんながさ……」

KASTが驚くのと同じタイミングで、番長たちも信じられないといった顔をしている。
こっちもこっちで完全なる勝ちムードが一転して覆されたことに対して動揺していたのだ。

「なんやあの姿は……」
「とても、禍々しい……」

マナカに二択を投げかけるところまでは確かに上手くいっていた。
だがその後にマナカが白ハトたちを開放し、代わりの鳥を呼び寄せることは予想外だった。
その新たな鳥は白ハトと違って劣悪な環境でも生きていけるし、飛ぶことだって出来る。
つまりは羽に多少の石鹸水が付着してようが飛行能力は衰えないのである。

「この姿、ですか?……"ブラック・マナカン"ですよ。」

マナカ・ビッグハッピーは黒装束を着るかのように、大量のカラスを纏っている。
この姿になったマナカに慈悲はない。性格までもが黒々としたカラスのように凶暴化するのだ。
そして、凶暴になったのはマナカだけではなかった。

「お父さんから習ったもう一つの力、見せてあげるんだから!」

マイはネコのように、いや、ライオンのように獲物を狙う目をしていた。
彼女の父はウサギの戦い方を研究したこともあったが、どちらかと言えばライオンであった時期の方が長い。
その時に培った技術やノウハウをマイに奥の手として教えていたのだ。
獅子としての闘争心を呼び起こされたマイの実力は、何段階も上昇する。
もうKASTに遅れをとったりはしない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「へー!カントリーの子達ってみんな二つの戦闘形態を持ってるんだ!」
「は、はぃ……そうです……モモち先輩に教わりました……」

マナカやマイが戦っている場所からいくらか離れたところで、
カントリーの一員であるチサキ・ココロコ・レッドミミーが質問に応対していた。
チサキは元から人見知りな方ではあるが、今日はいつも以上に声が震えている。
やはり、ベリーズ戦士団のチナミと話すのは特別緊張するのだろう。
そこにミヤビも割って入ってきたものだから大慌てだ。

「君たちはいい育ち方をしてるね。
 戦い方が2つあれば敵を惑わすことが出来るし、
 それに奥の手があると思うだけで精神的に優位に振る舞える。」
「あははは、ミヤビがモモを褒めるのって珍しいね。」
「違う!今のはカントリーの子たちを褒めたんだよ!」
「はいはい、後でモモにちゃんと言っておくからね。」

リサ・ロードリソースの猛毒ガエルによる防御形態、
マナカ・ビッグハッピーの黒カラスを纏ったブラックマナカン、
そしてマイ・セロリサラサ・オゼキングのライオン形態。
これらのような第二の刃を備えていることをミヤビは評価していた。
もっとも、第二の刃どころか第六、第七の刃まで用意しているモモコを賞賛する気は全く無いようだが。

「あ、そういえばモモはどこに行ったんだろ?」
「知らないよ、さっき出かけてからそれっきり。
 まったく、そろそろ船が出るというのに……」

現在、彼女らはとある建物の中に潜伏しているのだが
ベリーズと一緒の部屋にいるというだけでチサキはとても居心地悪く感じていた。
1人でも殺人級オーラを放つ達人が何人も揃っているのだから当然の感想だ。
いくらフレンドリーに話されても辛いものは辛い。

(1人じゃもたない……マナカちゃんもマイちゃんも早く帰ってきてよ~
 リサちゃんはマーサー王様とサユ王様に食事を運びに行ったきり戻ってこないし……
 あぁ~せめてモモち先輩でもいいから一緒に居て欲しい!)

チサキが不安で押し潰されそうになっていることも知らずに、
チナミやミヤビがどんどん質問を投げかけてくる。
2人からしてみればチサキが可愛くて仕方ないのかもしれない。

「チサキちゃんもやっぱり奥の手を持ってるの?」
「というより、そもそもチサキちゃんは普段どんな戦い方をするんだ?」

この問いかけに対して、チサキは少し涙ぐむ。
他のメンバーとの実力差について普段から思うところがあったのだ。

「私はダメなんです。大したことないからモモち先輩から任務を任されないんです……」
「そうなの!?そうには見えないけどなー」
「気を使わないでください、カントリーの皆からも陸や空ではポンコツって言われるんですから……」
「あの子たちがそんな悪口を言うなんて……」
「あ、普段はみんな良い子なんですよ。でも、戦闘だけは別で……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ブラック・マナカンは漆黒の翼を広げて急降下する。
無数のシャボンが群がる領域に突入しても、そのスピードは変わらない。
悩みのタネであるリカコを捕縛するまでは決して速度を落とさないつもりなのだ。

「させるか!」

靴の裏にソロバンを取り付けたカナナンの速度も負けてはいなかった。
リカコに危害が及ばぬよう、マナカに対して高速の体当たりを仕掛けようとする。
しかしカナナンがいくら速かろうが鳥との衝突時に発生する抵抗までは無視することができない。
その結果、マナカは誰にも邪魔されることなくリカコを抱きしめることが出来た。

「さぁリカコちゃん、一緒にお空を飛びましょうね。」
「うーーーっ(o_o)高いところコワイデス。。。」

容赦が無くなったマナカは、恋泥棒のように敵を捕まえるや否や、天高くへと飛び立っていく。
無論、高くまで上がったあとはリカコを地へと突き落とすつもりなのだ。
地上にはクッションとなるシャボン玉を膨らますことの出来る人間はもう存在しない。
となればここからはマナカのやりたいように出来ることだろう。
そうなったが最期。番長だけでなく、KASTまで全滅してしまうかもしれない。

「メイ!ここでアレを使うんや……温存してるアレをな!!」
「えっ?……いいけど、そしたらリカコはどうなっちゃうの?……」
「正直、100%安全とは言えない……でも、このまま落とされるよりは希望があるはず……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



KASTの面々もライオンと化したマイに苦戦を強いられていた。
肉食獣の顎の力ならば人間の四肢を噛みちぎることくらいは容易いし、
腕(この場合は前脚と呼ぶのが正しいが)のパワーも普段とは比較にならないほど強くなっている。
しかもマイはウサギのスピードやジャンプ力までも併せ持っているため、
そう簡単に危害を被ることも少なかった。
ライオンの力を発揮する以前は、同程度の速度を誇るカリンが攻撃のキッカケを作っていたのだが……

「ちょっと待って!止まってよ!」
「うるさいなぁ……えい!!」
「キャッ!!」

いくらカリンがチクタクと高速で動こうとも、マイのひと殴りで転ばされてしまう。
興奮状態では痛みを感じにくい体質のカリンであっても、
力負けで押し切られてしまってはどうしようもないのだ。
だがカリンが殴られたことは無意味にはならない。
アーリーがマイを抱きしめて拘束する隙を作ることに成功したのだから。

「はい!もう絶対放さないからね!」
「ぐぐ……苦しい……」

アーリーの抱きしめ力はなんとライオンを超えていた。
この体格差でガッチリと固められてしまったら、流石にもう動けないだろう。
そしてマイの目の前ではサユキがヌンチャク「シュガースポット」をブンブンと振り回していた。
今すぐにでも棍を脳天に叩きつけるつもりだ。

「ちゃんと押さえててよね……今終わらせてやるから。」

サユキ・サルベは自己流カンフーの精度を上げるべく、何時間もの特訓を重ねていた。
抜け駆け何も悪くない。影練習どこも悪くない。
ふくらはぎバリ筋肉って努力の証だい。
今こそその成果を出すために、ヌンチャクによる強烈な打撃を繰り出していく。

「そりゃあっ!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



サユキの攻撃を受けてはまずいと本能で理解したマイは、咄嗟にアーリーの腕に噛み付いた。
欲を言えば切断するまで顎に力を入れ続けたいところだが
ヌンチャクによる打撃を回避することが目的なので、アーリーが激痛で腕の力を弱めたところで止めておく。
そして自身に対する拘束が緩むなり、マイは体勢を低くしてサユキの脚部に飛び掛かった。
この人間がとるには難しい四つん這いの動きをすることで
ヌンチャクを掻い潜ると同時に、サユキのふくらはぎを噛んでみせたのだ。
これでアーリーの腕の力を奪った。サユキの機動力も奪った。
既に動けぬトモが何度か矢を飛ばしているが、全く当たらないので怖くもなんともない。
唯一動けるカリンも他のメンバーと比較したら非力なので、
ガチンコのパワー勝負を仕掛ければ負けようがない。
KAST全員への勝利を確信したマイはドヤ顔でサユキから離れていく。
後は付かず離れず、自分のペースでかみつきにいけば不慮の事故で大逆転されることもないのだ。

「ふーっ、ちょっと苦戦したけどやっぱり私の勝ちみたいですね。」

全力を出した自分は強い。
マイはそう再認識することでますます己を鼓舞していく。
しかし、そんなマイの表情を曇らせる要素が一点あった。
こんな絶望的な状況にもかかわらず、サユキが悔しそうな顔を全くしていないのだ。
むしろ笑っているように見える。

「あー、そういうことだったの。 やっと分かったよ。」
「……何がですか? 意味が分からないんですけど。」
「ううん、いや、こっちの話。」
「関係ない話は後にして欲しいなぁ……」
「関係なら無くもないんだけどね。」
「は?」

マイがキョトンとするのを横目に、サユキはカリンに声をかけていく。
敵に勝利するための指示を出そうとしているのだ。

「カリン!その子の動きをあと一回だけ止めてくれる?」
「え?……私の力じゃちょっとしか止められないと思うけど……」
「いいのいいの。後は勝手にやってくれるみたいだからさ。」
「?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



サユキがカリンに指示を出した辺りで、突然カナナンの叫び声が聞こえてくる。
それはこれから起こりうる現象に対する警告だった。

「KASTのみんな、今すぐ伏せて!!」
「「「「!?」」」」

これからマイの動きを止めにかかる算段だったが、
それよりもカナナンの警告を優先してKAST一同は伏せていく。
彼女ならば的外れなことを口に出さないだろうと判断して、無条件に従ったのだ。

「……よし、準備はええみたいやで、メイ。」
「それでは今宵も1秒演技をお見せいたしましょう。」
「お、おう。まだ夜には少し早いけどな。」
「今回ご紹介するのは、どんな乾燥地帯にも嵐を起こす女戦士のお話。」

メイがガラスの仮面を装着した瞬間、辺り一帯にとてつも無く強い雨風が巻き起こる。
こんな状況で鳥は空など飛べやしないし、ライオンだって狩りを中断する。
メイによる「マイミの演技」は、たったの1秒で敵の体勢を壊滅させて見せたのだ。

「わっ!わっ!落ちちゃう!!」

ブラックマナカンの翼を構成していたカラス達は
雨女によるハリケーンに打ち勝つことが出来ず、そのまま落下してしまった。
こうなればマナカは掴んでいるリカコ諸共、地面に衝突してしまう。
かなり高いところから落ちたので、当たりどころが悪ければ死もあり得るだろう。
それを恐れたマナカは、慌ててリカコを手放した。
重量を半分にすることで、カラスの負担を減らし、またすぐ飛んでもらうことを期待したのだ。
そして地に落ちる寸前でそれは成功する。

「あっぶない……カラスさん達、ありがとね。」

なんとかギリギリのところでカラス達は羽ばたくことが出来ていた。
冷や汗をかかされたが、これでマナカは無傷のままだ。
しかもマナカは咄嗟の判断でリカコを落としている。
これで天敵を戦線から離脱させることが出来た。そう思っていた。
だが、そんなことはカナナンが許さなかった。

「残念やったな……救助済みや。」
「カナナンさんんんんんんんんすっきすっき~(^o^)」

リカコをお姫様抱っこの要領で抱きかかえているカナナンを見て、マナカは開いた口が塞がらないようだ。
落下地点に素早く到達すればそれも確かに可能なのだが、
それにしても難しい行為だったはず。

「この台風の中で、よくそんなことが……」
「カナはな、嵐の中でボールの軌道を計算したことがあるんやで。」
「へ?……」
「全部計算済みや。これからアンタを倒すまでの流れもな!」
「……!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



たった1秒の嵐の影響で、マイ・セロリサラサ・オゼキングも体勢を大きく崩されていた。
豪雨の如きプレッシャーを直で浴びたので、立つこともままならない。
暴風雨の中にいるのはKASTも同じだが、マイはノンビリしていられなかった。
まだ嵐の余韻も収まらぬうちにカリン・ダンソラブ・シャーミンが走り出していたのだ。
未来へ、さあ走り出せ!とでも言わんばかりの笑顔でこちらに向かってくる。
先ほどサユキに命じられた「マイを止めろ」という指令を果たすために、
サイボーグのように機械的に動いているのだろう。
ところが、ここでトモ・フェアリークォーツが命令を上書きしていく。

「カリン!そのまま跳べ!!」
「!?」

マイを止める最大のチャンスだったにも関わらず、カリンはトモの指示通りあさっての方向へと跳躍していった。
はじめはビビっていたマイも、自身に危害が及ぶ行為ではないと分かるなり声が大きくなる。

「え?……そんな意味不明なことしてて私に勝てるんですか?」
「そうだね。カリンはアンタに勝てない。」
「今更なに言ってるんですか?そんなのとっくに知ってるんですけど。」
「ただし、強力な助っ人がアンタを噛みきっちゃうけどね。」
「!?」

トモがそう言い放った瞬間、マイの首すじから血が噴き出していく。
いや、流血したのはそこだけではない。
マイの両方のスネもとっくに真っ赤に染まっていたのだ。
自分の周りには誰もいないはずなのに、傷だけいつの間にか負っている。
そんな不思議な現象を前にして、マイは恐怖する。

「いやっ!!なんなの!?」
「君さぁ……ちょっと牙を見せすぎだと思うんだよね。」
「ええええ?」

混乱しているところにサユキが変なことを言い出すので、マイは更なるパニック状態に陥ってしまう。

「本当に強い獣は牙を隠すんだってさ。その子のようにね。」
「!!」

またも首をガブリと噛まれたところでマイは思い出した。
アンジュの番長には存在を自在に希薄にできる獣使いがいたという事を。

「リナプー……コワオールド……」
「はーい。呼んだ?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



たった1秒の嵐で一気に体勢を崩されたマナカだったが
台風の中心にいたメイの顔を見るに、焦る必要はないと思い始める。

(ふぅん、どうやら嵐を起こすのは結構疲れるみたいね。)

マナカの想像通り、メイの1秒演技はかなりの体力を消耗していた。
ほんの僅かとはいえ食卓の騎士と同等のオーラを発するのだから
それに似合ったエネルギーが費やされてしまうのである。
よって、当分は雨風が来ることはないとマナカは確信する。
そう思ったマナカは、まだ動けるカラスを何十匹も招集していく。
それらを集めて巨大な怪鳥と化したマナカは、
カナナンもメイもリカコも全部引っ括めて空へと連れ去ろうとしているのだ。

「初めっからこうすれば良かったんだ……みんな仲良く、天まで登りましょ?」

カラスの羽ばたきでフワリと浮いたマナカは
アンジュの番長らを捕まえるべく、低空かつ高速で飛翔する。
長い下積み時代を経験したマナカは、ずっと空に憧れていた。
そして今、マナカは本当に天まで登る能力を手に入れている。
この力さえあれば番長だって一網打尽に出来る。そう信じているのだ。
だが、この時マナカは気づいていなかった。
長い下積みを経て、天まで登ることができたのは彼女だけではなかったのだ。

「待ってーーー!」
「え!?」

嵐の余波に乗ったまま、マナカのところまで飛んできたのはKASTの1人、カリン・ダンソラブ・シャーミンだった。
トモの「命令の上書き」によって、ターゲットをマイからマナカへと変えていたのである。
そしてカリンは風に吹かれてゆらりゆられて到達するなり、マナカにしがみつく。
それだけでマナカにとっては邪魔だというのに、
更にカリンは身体を大きく揺さぶったのだ。

「ちょ、ちょっと!そんな揺らされたら上手く飛べない……」
「うん。だって貴方を落とすために揺らしてるんだもん。」
「くっ……だったらこうしますよ!」

マナカは指をパチンと鳴らし、カラスに急上昇するよう指示を出した。
2人分の体重なのでやや重くはあるが、あっという間に5m、10mと高度を上げてみせる。
もしも落下すればちょっとやそっとの怪我では済まないような高さだ。
こうなれば流石のカリンもビビるだろうとマナカは考えた。
しかし、その考えはケーキよりもタルトよりも大甘だった。

「刺すね。」
「は?……」

気づいた頃にはマナカの横っ腹には激痛が走っていた。
何か鋭利なものによって刺された感触が確かに残っている。

「どう?私の武器。釵(さい)って言うんだよ。」

その武器はカリンの小さな手で簡単に握れるほどに軽く小さいが、
先端は針のように鋭く尖っている。
この釵、その名も「美顔針」を速いスピードで何度も刺すのがカリン本来の戦闘スタイルなのである。
だが今のこの状況ではそう何回も刺す必要はないだろう。
密着しながら、深くまでしっかりと刺すだけでマナカは苦しんでくれる。
それはもう飛んでいられないくらいに苦しいはずだ。

「何やってるんですか……もう天まで登れないかもしれないってのに……」
「私はそれで良いと思ってるよ。」
「正気ですか?……2人まとめて地面に落ちるってことですよ?」
「うん。やっぱり私、大地が好きだから。」

やがてマナカは痛みに耐えられなくなり、
2人はまるでダイビングでもするかのように堕ちていった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



リカコが咄嗟に膨らませた巨大シャボンがクッション代わりとなったため、落ちた2人に大きな被害はなかったが
カリンに刺されて流血しているマナカはもはや戦える状態に無い。
なんとか上半身を起こして、後をマイに託そうとするものの、
そちらでもまた凄惨な光景が飛び込んできていた。

「マイちゃん!?……嘘でしょ……」

KASTを倒すと息巻いていたマイは、首と両足から血を流しながら倒れていた。
その側には2匹の可愛らしい小型犬と、透明化を解除したリナプーが立っている。
ハンカチで口を拭きながら、旧知の仲であるサユキに話しかけているようだ。

「たまに本気出すと疲れる……ねぇ、もう休んでいい?」
「ダメに決まってるでしょ!まだ終わってないんだから。」
「え~?もう終わりそうじゃない?カリンが上手くやってくれたみたいだし。」

リナプーにチラリと見られて、マナカはゾクッとする。
確かに、現在カントリーが置かれている状況は最悪だ。
番長とKASTに勝てなかったどころか、このままでは本来の目的である足止めすらもままならない。
更にはマーサー王とサユの情報を得る目的で拷問を受ける可能性だってあるだろう。
自分とマイがどこまで耐えられるか、想像するだけでも恐ろしかった。

「失敗する訳にはいかない……絶対に!絶対に!!」

マナカは最後の力を振り絞って、鳥たちに指示を出した。
その指示内容は「とにかく暴れろ」というもの。
後先考えずヤケクソに場をかき乱すことでなんとか岐路を見出そうとしているのだ。
ところが、その思惑もすぐに打ち壊されてしまう。
1秒では済まない嵐の到来で、鳥たちはたちまち飛べなくなる。

「待たせたな!もう大丈夫だ!」

演技などではない、正真正銘本物のマイミがやって来たことにマナカはギョッとした。
伝説の存在が敵として立ちはだかるのはもちろんのこと、
肩にマーチャンを乗せながら涼しい顔でここまでやって来たことにも驚いているのだ。

「流石の腕前だなマーチャン! この義足、前よりずっと走りやすいぞ!」
「えへへへ……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
  
04に進む topに戻る
inserted by FC2 system