「やばっ!寝ちゃった!!」

アユミンが目を覚ましたのはふかふかのベッドの上だった。
どう見てもマーチャンが作業をしていた屋外には見えない。
ハルもちょうど同じタイミングで起きたようで、事態を把握できず周囲をキョロキョロと見回している。
そんな寝起きの2人に淹れたてのお茶を差し出しながら、カリンが説明をはじめていった。

「よく寝てたね。ここはプリンスホテルのお部屋。時間はもう朝の9時だよ。」
「えっ?……」「ハル達、マーチャンをマッサージしてたんじゃ……」
「マーチャンが夜中まで作業してたから、2人とも眠くて寝ちゃったんだね。
 お外はとても寒いし、マーチャンと私で2人を部屋まで運んであげたの。」
「そうだったんだ……」「なんかごめん……」
「ううん、2人に付き合ってもらってマーチャンとても嬉しそうだった。
 こんな良い代物が出来たのも2人のおかげだと思うよ。」

カリンは鞘に収められた太刀をアユミンに、そして予備を含めた竹刀数本をハルに手渡した。
どれもピカッピカッ!に修理されており、2人の手によく馴染む。

「さすがマーチャン……なんか持っただけで強くなったような気がする。」
「あ!そう言えばマーチャンはどこに?」

ハルの問いかけに回答すべく、カリンは部屋の隅の方を指差した。
そこではベッドから落ちたマーチャンが、非常にだらしない格好で寝ていた。
寝相はどうあれ、熟睡できているのなら最終決戦への影響は少なさそうだ。

「そうだ、カリンちゃんは寝なくも大丈夫なの? マーチャンに最後まで付き合ってたんでしょ?」
「アユミンちゃん、私なら大丈夫だよ。 昨日はみんなより長い時間気絶してたし、それに……」
「それに?」
「ヨガのポーズで2時間も瞑想したら頭スッキリになっちゃった!」
「よ、ヨガ?……」「瞑想?……」

それぞれが各々に合った方法で休息し、時は流れていった。
そして今現在の時刻は、ベリーズと約束した時間の10分前。17:50だ。
連合軍は決戦の地である武道館から目と鼻の先のところにまで到着している。

チームダンス部のナカサキ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリン
チーム下克上のマイミ、カナナン、リナプー、メイ、リカコ
チーム河童のアイリ、エリポン、カノン、マーチャン、アーリー
チームオカールのオカール、ハル、オダ、トモ
全員が全員、戦うための覚悟を決めていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



武道館は水が深く溜まった河川に囲まれており、
堀の外側にいる連合軍たちが武道館のある内側へとたどり着くためには
少しばかりの坂道を登り、そこに建てられた厳かなつくりの外門をくぐる必要がある。
ただそれだけのこと。時間にして数分もかからないはずなのだが、
4つのチームは想定外の事態に直面して固まってしまっていた。

「あれはいったいなんだって言うの?……」

そう言葉にしたメイだけでなく、全員の視線が門の前にある"何か"に注がれていた。
それは鉄の塊だ。
塊とは言っても手を伸ばせば抱えられるようなケチなものではない。
縦幅も横幅も人間ふたりがめいっぱい手を伸ばした時よりも長さがあり、
高さだって連合軍の最高身長のマイミよりずっと高い。
それがいったい何なのかは全く分からなかったが、
それが"何者"による作品なのかはすぐに理解することが出来た。
感じるのだ。
その鉄塊の内側から、太陽が発するような灼熱のオーラがだだ漏れになっている。
となればその中には"彼女"が居るとしか思えない。そう考えたマイミがその名を叫びだす。

「チナミ!!お前なんだな!」
「あ、やっぱりバレちゃった?」

鉄塊の上部にあるフタがパカッと開き、そこからベリーズのチナミが顔を出した。
遮るものがなくなったため太陽光線は容赦なく連合軍に襲いかかったが、
マイミの怒気からなる大嵐がそれをいくらか軽減してくれた。
晴れ女VS雨女の対決はひとまず引き分けというところだろうか。

「チナミ……その鉄の塊はいったい何なんだ?……」
「新しいお家か何かに見える?」
「まったく見えないな、大砲と車輪がついている物体が家なわけないだろう。」

マイミの言う通り、大きな鉄の塊にはこれまた巨大な大砲が取り付けられていた。
おそらくは固い鉄の壁で身を守りながら一方的に砲撃を行う機械なのだろう。

「うんうん、だいたい正解。でも惜しいよマイミ……これは車輪じゃなくてね、"キャタピラ"って言うんだよ。」
「きゃ、きゃた?……」
「知るわけないよね。 理論上はずっと未来に実現されるはずの技術なんだから」
「チナミ……さっきからいったい何を言っているんだ!?」

この鉄塊の両側にはそれぞれ4つずつの車輪が取り付けられている。
そしてその車輪群には、複数枚の鋼板で作られたレールが巻かれていた。
この機構はキャタピラと呼ばれ、どんな悪路でも走行できるようになっているのである。
つまり、この鉄の塊は乗り物なのだ。
操縦士であるチナミの命令で自由に走るし、いつでも砲弾をぶっ放すことが出来る。
まるでタイムスリップで未来からやってきたようなこの高等かつ複雑な機械は、
「DIYの申し子」と呼ばれるベリーズの開発担当・チナミの超次元技術でしか創り出すことは出来なかっただろう。

「爆発(オードン)"派生・戦国自衛隊"……この"戦車"の力、見せてあげる。」

連合軍とベリーズの戦いは最終局面を迎えている。
ベリーズも出し惜しみをする気はさらさらない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



この戦いに臨む前にベリーズ達も作戦会議を行っていた。
そこで決まった内容は単純明快。「殺す気で戦う」だ。
今までの二戦も殺気を振りまいてはいたが、ここからは更にもう一段階ギアを上げる。
一切の慈悲を持たぬ事が未来に繋がると信じ、全身全霊で攻撃していく。

「みんな避けて!」

危機を察知したナカサキは大声で連合軍に警告した。
特に戦車の砲台の直線上に立っている戦士は、蹴り飛ばす勢いで容赦なく吹っ飛ばした。
かなり荒い対応だったがその判断に間違いはなく、
ほんのコンマ数秒後には轟音と共に砲弾がぶっ放される事になった。
高速で且つ重量感のある砲弾はそのまま前方を突っ切り、
必殺技の名前通りの大爆発を起こして、周囲の木々を一瞬にして消し炭にしてしまう。
これを人間が喰らっていたら痛いどころでは済まなかっただろう。
1撃でも被弾すればそれでお終いだと考えると、この戦車という乗り物はなんと恐ろしい兵器だろうか。
しかし、だからと言って尻尾をまいて逃げるわけにはいかない。ここを乗り切らねば武道館には辿り着けないのだ。
ではどう戦うべきか?このあまり広くない場所で、この大人数がそう何回も砲弾を回避しきることが出来るのか?
全員が答えを出すよりも早く、マイミが叫んだ。

「ここは私に任せろ!お前たちは急いで武道館へ迎え!!」

マイミは勢いよくJUMPし、大胆にも戦車に取り付けられた大砲に抱き着きにかかった。
そして拳をギュッと強く握り、チナミを守る鉄の壁に強烈なゲンコツを食らわせたのだ。

「大層な乗り物じゃないか。だが所詮は鉄製だ。鉄の壁を私が壊せないとでも思っているのか?」

この行動は無謀に見えてなかなか有効だった。
戦車による砲撃の射程は遠距離にまで及ぶが、自身を撃つことは出来ないためマイミの位置は安全地帯だと言える。
つまりはマイミは一切の攻撃を受けることなく一方的に戦車を攻撃できるのである。

「あー、確かにマイミが全力で叩き続けたら壊されちゃうかもね。」
「そうだろう。」
「でもさ、私がマイミを相手にすることを想定してないと思ってる?対策ならね、山ほどあるんだよ。」
「だったらその対策とやらを見せてみろ!!」

マイミがこの場を引き受けた事に感謝する間もないほどに早く、連合軍たちは急いで外門をくぐっていった。
あのまま場に残り続けるとチナミの砲弾に狙われてしまい、マイミの邪魔になる可能性が大きかったので
命令に従ってすぐさま武道館へ向かうことこそが最善の道だと判断したのだ。
外門をくぐった先には憧れの武道館が待ち構えていたが感傷に浸っている時間は無い。
「チームダンス部」は武道館を左から回って東口へと、
「チーム河童」と「チームオカール」、そしてマイミ以外の「チーム下克上」は武道館を右から回って西口へと向かっていく。
距離自体はさほど無いので正面入口である西口にはすぐに到達できたが、
そこでは最悪の人物が腕組みしながら連合軍たちを待っていた。
あまりの寒気に身体を巡る血液が凍りつきそうになってくる。

「お? 思ったより大勢で来たのね。チナミじゃ食い止めるのに限界があったのかな?
 ……でもみんなの武道館ツアーはここでお終い。許してにゃん。」

西口正面入口の防衛担当は予測不能の暗器使いであるモモコだ。
彼女は既に数多の罠を設置し終えている。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコの登場に一同は肝を冷やした。
そしてそれだけではない。
モモコが居るという事は、彼女らも居るという事だ。

「リサちゃん!マナカちゃん!チサキちゃん!マイちゃん!準備は出来てる!?」
「「「はい!」」」

応答とともに無数のカエルとカラスが飛び(跳び)出した。
これらは言うまでもなくモモコの後輩であるカントリーガールズ達が操っている動物だ。
カエルとカラスの不気味さに、連合軍の中にはトリハダを立たせている者も何人かいたが、
罠と動物が敷き詰められたこの地帯を攻略しなくては正面入り口から堂々と入館出来ないことは、みんな分かっていた。

「私の暗器とリサちゃんのカエル、マナカちゃんのカラス、そしてマイちゃんの身体能力……
 これらをぜーんぶ総動員して西口を死守するつもりだけど、あなた達に勝機を見出す事が出来るかしら?」

モモコのその言葉を聞いた連合軍たちは視線をカントリーの1人、チサキに集めた。
彼女の名前だけはモモコに呼ばれてなかったのだ。
注目されてることに気づいたチサキは耳を赤くしてモモコに訴える。

「も、モモち先輩ひどいです! なんで私だけ無視するんですかぁ!?」
「あー……その、ごめん、チサキちゃんが何すれば良いのか思いつかなかった。」
「ひどい!!確かに私は無能ですけど……」
「"陸地では"、ね。」
「えっ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、そのうちチサキちゃんにも出番が回ってくるはずだから。」

モモコとチサキが漫才のようなやり取りをしているところに、アイリが割って入ってきた。
自軍を勝利に導くための交渉を始めようとしているのだ。

「ねぇモモコ……あなたは今、西口を死守するって言ったよね?」
「ん?そうだけど。」
「じゃあ西口以外は通っても全然構わないってことだ。」
「どうぞお好きに。 担当じゃないところなんて知らなーい。」

ここでアイリはニヤッとした。
そして二階にある西南口や南口に続く階段を指差して、連合軍に指示を出していく。

「モモコおよびカントリーガールズは私たち"チーム河童"が引き受けます!
 "チーム下克上"と"チームオカール"は急いで上に!!」

アイリがそう言うや否や、両チームは一目散に階段へと走っていった。
リサとマナカが動物で行く手を阻もうとするが、モモコの「行かせときなさい。」の一言で制される。
これでこの場に残ったのはカントリーガールズのモモコ、リサ、マナカ、チサキ、マイと、
チーム河童のアイリ、エリポン、カノン、マーチャン、アーリーだけになった。

「人数的には互角か、まぁ大多数よりは今くらいの人数の方が防衛しやすくて楽だから良いんだけど、
 アイリの行動……ちょっと不可解すぎない?」
「……何が?」
「いくら罠と動物が怖いとは言っても兵力を分散させずに集中させた方が突破しやすくなるもんじゃないの?
 どうしてわざわざ階段を登らせたのかか……なんか、別の目的があるように見えるんだけど。」
「……」
「ま、理由はどーだっていいわ。ただね、二階に行った子たちはちょっと可哀想かもしれないわね。
 だって、西南口と南口を守るのはモモちみたいに優しくない、とってもこわ~い人たちなんだもの。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



二階へ続く階段には罠のようなものは仕掛けられていなかったため、チーム下克上とチームオカール達は難なく進む事ができた。
どうやらモモコが担当以外をどーだっていいと考えているのは本当なのだろう。
そして、二階には「怖い人」が待ち構えているという言葉も真実だということを、一同はすぐに痛感する。

「隙だらけだよ、斬ってくれと言っているようなものだ。」

ハルはゾッとした。 
目的地に向かって走っている最中に、背後から突如そのような声が聞こえたので頭が真っ白になる。
その声はベリーズの現・副団長ミヤビのものだ。
自分のテリトリーにハルが侵入してきたので、容赦も躊躇もなく刀を振るったのである。
この斬撃を放つまでの一連の動作に関して、若手戦士らは気配すら感じとる事が出来なかった。
シミハムのように無を司っている訳では無いが、
思いのままに気配を消し、ここぞと言う時に殺気を放つ事くらいは
達人の域に達しているミヤビには容易かった。
しかしそのやり方も同じ達人級には通用しない。
もう少しでハルに刃を突き刺せるといったところで、ミヤビはオカールに頭突きを食らってしまう。
攻撃の狙いは鉄板でガードされていない横っ腹だ。

「させるかよっ!!」
「くっ……オカールか」

いつも好戦的なオカールだが、今回はいつも以上の高揚を感じていた。
なんせ目の前には長年目標としていたミヤビが相手として立ちはだかっているのだ。
しかもモモコに良いように使われた時の操り人形状態ではなく、ちゃんと意識がハッキリとしている。
つまり本気の死合いが出来るということ。これがどれだけ嬉しいか。

「西南口はミヤビちゃん……おっと、ミヤビが守ってるってことか。」
「そうだよ。」
「よっしゃ決まりだ!ここは俺たちが引き受けた! チーム下克上の奴らはさっさとアッチ行ってろ!
 それとチームオカールの奴らに言っておくけどよぉ……」

以前までのオカールなら「お前らは手出しするな」と言っていたかもしれない。
ところが、今この時のオカールの意識はほんのちょびっとだけ変わっていた。

「相手はあのミヤビだ。 つまんねぇ攻撃は一切通用しねぇよ。
 だからやるなら殺す気でやれ!!さもないと俺がてめぇらの首をかっ切るぞ!!」
「「「はい!!」」」

オカールに負けず劣らずの大声でチームオカールのハル、オダ、トモは応えた。
敵の食卓の騎士も、味方の食卓の騎士もどちらも怖くて仕方ないが、
ここは「死ぬ気」で、いや、「殺す気」でやるしかないのだ。
根性を見せねばその瞬間に斬り倒されてしまう。


そして、残ったチーム下克上の面々は南口に向かって走っていた。
成り行き上このような形になってしまった事を若干不安に思っている。

「ねぇカナナン……」
「なんやリナプー」
「なんか私、嫌な予感しかしないんだけど。」
「…………カナもや。」

そうこう喋っているうちに、途中離脱したマイミを除いたチーム下克上のカナナン、リナプー、メイ、リカコは南口に到着した。
これまでの入り口にはベリーズが1人ずつ立っていたというのに、今回ばかりは扉がガラ空きになっている。
運が良いと考えたリカコは大はしゃぎで南口に走っていった。

「みなさんんんんん!ここ、誰も防衛してませんよ\(^o^)/」

お気楽に扉に向かうリカコに対して、メイが声を荒げる。
何も分かっていないリカコに強大、いや、巨大すぎる敵の存在を気づかせてやらねばならないのだ。

「待って!上!上を見て!!!」
「へ?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



"自称176cm"
彼女をひとたび前にすれば、センチメートルという単位がどの程度の長さを表すのか分からなくなってくる。
その巨人の名はクマイチャン。文字通りの大物だ。
クマイチャンは自分に気づかず真下にやってきたリカコに対して軽く刀を振っただけなのだが、
あまりの高さと勢いに、リカコには鉄の物体が急降下したように見えたようだ。

(や、やば、やば、ヤバイ、死ぬ!これを受けたら死ぬ!)

超高速で迫り来る刃に直撃したら確かに命が危ういだろう。
最悪即死、良くても致命傷に違いない。
それを本能で感じ取ったリカコはアスリートの如き瞬発力を発揮し、
長い脚によるストライドであっという間に退却した。
これには流石のクマイチャンも面食らう。

「ありゃ、空振っちゃった……思ったより動けるんだね」

クマイチャンはこれまでのリカコの戦い方を見聞きして、「戦闘能力が低いため石鹸による特殊戦法に頼らざるを得ない戦士」だと思い込んでいた。
だが本当に運動神経の悪い者が一瞬にしてあのスピードを出すことが出来るのだろうか?
下手したらマイミさえも抜きかねない初速じゃなかったか?
それに、クマイチャンはそれ以外の心配事も抱えていた。

「あれ?そう言えばキュートはいないの?……」

連合軍はキュートと若手の組み合わせでチームを編成して
それぞれの扉にチーム単位で攻めてくるだろうと、
ベリーズ達も作戦会議の場で予測していた。
だが目の前にいる"チーム下克上"はアンジュの番長だけだ。キュートは1人も含まれていない。
チナミ戦でマイミが離脱したので他のチームと違ってキュートが1人足りないのである。
これだと一方的なワンサイドゲームになるのは明らか。
それで本当に良いのだろうか?
だが、ベリーズの作戦会議ではこうとも言っていた。
"相手がどんな状態であろうと全力で叩き潰せ"
それを思い出したクマイチャンは一切の迷いを振り切って、全てを押しつぶす重力のオーラを全開にする。

「キュートの事はどうでも良いか! 誰が相手だろうと斬るだけだし!!」

この戦いにタイトルをつけるとしたら「あまりにも出すぎた杭 vs 番長の総力戦」と言ったところだろうか。
総ての戦力を出し切ることが出来なければ、番長たちに勝ち目は無い。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



カナナン、リナプー、メイ、リカコの身体がズシリと重くなった。
この押し潰されてしまいそうな圧迫感は何回味わっても慣れやしない。
本当に嫌な感じだ。まともに呼吸することすら困難になってくる。
本当ならばこんな状況で戦闘など出来るはずが無いのだが、
今の若手戦士らはベリーズの殺人的オーラに対抗する術をキュートから教わっていた。
この方法は誰でも出来るようなお手軽なものでは無い。
帝国剣士が、番長が、KASTがここまで辿り着いたからこそはじめて伝授することが出来たのだ。
メイはその時アイリから言われた言葉を思い出しながら、対抗術の使用を開始する。

(大事なのは『自分を信じること』と『強く思うこと』……そう言ってくれてましたね。)

先日のマイミとの戦いにてマーチャンとオダが断身刀剣(たちみとうけん)を見せていた。
これは自分の強い意志を相手に直接伝搬することで己の強さのキャパシティを超える技術であり、
マイミに攻撃の視覚的イメージを先出しで見せて動揺させることに成功していた。
この技術はマーチャンやオダの専売特許などでは決してなく、ここまで辿り着いた若手戦士なら誰でも使える素質が有ると言える。
そう、断身刀剣を使うには『自分を信じること』がまず大事になってくるのだ。

(やれる、絶対にやれる、メイだって番長のみんなだってここまで頑張ってきたんだから絶対にやれるんだ!!)

では、その断身刀剣で具体的にどのような意志をクマイチャンに飛ばすべきなのか?
天変地異を起こしてクマイチャンを弱体化させるイメージか?
駄目だ。そのような芸当は食卓の騎士の域に達さないと実現出来ない。
それでは、クマイチャンの重力のオーラを消し去るようなイメージか?
それも駄目だ。クマイチャンだって常に殺気を放ち続けている。 完全に消すことは困難だ。
ではどうすれば良いのか?その答えはとても単純だ。
「お前の殺気なんかに負けるもんか!!」……そう『強く思うこと』が何よりも大事なのである。
その強い意志はクマイチャンに伝播するだけでなく、自分の頭の中にも何度も何度もコダマする。
その共鳴はやがて己の手脚にも伝わり、凶悪なオーラにも負けない身体を具現化してくれるのだ。
つまりは単なる「気の持ちよう」だ。だがこれがなかなかどうして馬鹿にできない。
平然とした顔でカナナン、リナプー、メイ、リカコが立ち上がる様はクマイチャンに小さく無いプレッシャーを与えたようだ。

「立ち上がった?……」
「負けない……私たち番長は絶対に負けない!!」
「そっか、そうか!この戦いは楽に勝たせてもらえなさそうって事なんだね!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「負けるものか」と強く思っているのは番長たちだけではない。
チームオカールに属するハル、オダ、トモの3人だって
ミヤビの発する刃の如き殺人的オーラに斬り捨てられないように必死に踏ん張っている。
オカールの足手まといなどではなく、仲間として戦うためにトモは矢尻をミヤビに向けた。

(凄いプレッシャー……少しでも気を抜いたら心臓を突き破られちゃいそう……
 でも、私も帝国剣士の2人もまだやれている!!
 強い意思を持てば私たちでも対抗できるんだ!)

トモはミヤビの胸目掛けて矢を放った。
狙いはもちろん、昨日トモが貫通させた傷痕だ。
そこを射抜かれるのを嫌ったミヤビは全神経を集中させて矢を叩き落とそうと構えるが、
そのタイミングでオダがミヤビの目に直接太陽光を反射したため
迎撃体勢を取り続けることが出来なくなってしまった。

「うっ……くそッ!!」

このまま無防備に射抜かれてしまうことだけは避けたいと必死で身体を右にズラしたが、それでも横っ腹にかすってしまった。
若手のみの力で強敵に血を流させたことに、トモとオダは確かな手応えを感じる。

そして、カントリーガールズとチーム河童が相対する西口ではもっと特異なことが起きていた。
エリポン、カノン、マーチャン、アーリーらが「負けるものか」の精神でモモコの放つ冷気に耐えているのに対して、
カントリーのリサ、マナカ、チサキ、マイの4名は苦悶の表情でうずくまっているのだ。
どうやらモモコの弟子たちはアイリの殺気に耐える術を習得できていないらしく、雷撃のオーラを容赦なく受けているようだ。
しかもメンバーだけでなくカエルやカラス達だって地面に横たわってしまっている。
考えてみればそれもそうだ。 人間でも習得が難しい断身刀剣を動物達がそう易々と使えるはずがないのである。
アイリの雷のオーラを一度浴びてしまえば、半人前や半カエル前、半カラス前が太刀打ちすることなど不可能だ。
モモコもこうなる事は理解しているはずなのだが、わざとらしい顔で焦り出していた。

「あら~どうしよっかな。アイリが近くに居る限りはまともに動けないかぁ……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



動物ではベリーズやキュートの殺気に耐えられないと書いたが、例外もいる。
それがリナプーの愛犬ププ&クランだ。
2匹はチナミという強大な存在の恐怖を身を以て知りながら、
愛するリナプーのために勇気を振り絞ってマイミに立ち向かっていた。
恐怖を克服したププとクランは、今現在、更に化け物じみた巨体のクマイチャンに突撃している。
高さの関係で喉元に噛み付くことは出来ないが、マーチャンに誂えてもらった爪で右脚左脚を引っ掻くことなら出来るのだ。

「あでっ!!」

リナプーの犬2匹は飼い主同様に透明になっている。
引っ掻かれた痛みはさほど無いようだが、
何をされたのか分からないクマイチャンは反射的にひょいと片足を上げて傷口に目をやっていた。
そこをすかさずカナナンがリカコに指示を出す。

「今や、撃て!!」

命令を下されるまでもなく準備に入っていたリカコは、
新武器の鉄砲を構えてクマイチャンの足元に発射した。
鉄砲は鉄砲でもリカコの扱うこの銃は「水鉄砲」だ。
そしてその内部には石鹸水がたっぷりと詰め込まれている。
つまり、クマイチャンはヌルヌルの石鹸水が巻かれた場所に上げていた足を戻す形になる。
そんなことも知らずに地面を力強く踏みしめたので、面白いくらい簡単にバランスを崩してしまった。
手をバタバタさせて今にも転んでしまいそうだ。

「わっ!わわっ!なんだ!?」
「よし!ダメ押しで体当たりしたれ!」

カナナンの声と共にメイがクマイチャン目掛けて走っていった。
彼女はこの時モーニング帝国帝王のフク・アパトゥーマの演技をしており、
爆発的なスピードを生む"フク・ダッシュ"でクマイチャンとの距離を一気に詰めていく。
天然気味なクマイチャンも流石にまずいと判断したのか、全力パワーの張り手でメイを跳ね返そうとした。
ところが掌が当たる直前でメイの動きが変化する。
同じく帝王の技である"フク・バックステップ"で突然後退したのだ。
みるみる顔が小さくなるメイに対応しきれず、クマイチャンは余計にバランスを崩してしまう。
そして、そこに更に追い討ちをかけたのがリナプーだ。
メイがダッシュした前方ではなく、クマイチャンの後方から思い切りの良い体当たりをぶつける。

「なっ……!?いつの間に後ろに……」

カナナンの言葉にあった「ダメ押しで体当たり」はメイではなくリナプーにあてられた指示だった。
全く予期せぬ場所からの体当たりにクマイチャンは耐えきることが出来ず、顔面から地面に落ちてしまう。
正直言ってププとクランの引っ掻きも、リナプーの体当たりもクマイチャンにダメージを与えることは出来ていない。
だが、自称176cmの高さからの床へのキスとなれば話は別だ。
世界最高峰の身長が生み出す位置エネルギーはとてつもない破壊力に変換されるのだ。

(勝てる! この調子ならカナ達は勝てる!!)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「……」

クマイチャンはゆっくりと顔を上げた。
地面に強打したせいでおでこも鼻も真っ赤になり不恰好だが、
番長達はそれを見て笑う気には少しもなれなかった。
目が恐ろしすぎたのだ。

「みんな!気を抜いたらアカンで!」

身体が重力でズシリと重くなるのは気持ちが負けている証拠。
そうなっては勝てるものも勝てないのでカナナンは味方に声かけして勇気付けるが
敵の殺し屋のような目を見て気圧されずにいるのはなかなかに難儀だった。
一同が心を整えられていないうちにクマイチャンの方から動き出す。

「ロングライトニングポール、"派生・シューティングスター"」

その技の名は聞き覚えがあった。
ただでさえ大きいクマイチャンが大ジャンプでさらなる高みに到達する様を見て、
カナナン、リナプー、メイは悪夢を思い出す。
これは以前、モーニング帝国の訓練場を瓦礫の山にしたのと同じ技だ。
天高くの最高到達点に達したクマイチャンが高速で落下して来るのもあの時と同じ。
だが、今の状況は当時とは大きく異なる。
モーニング帝国の時はみなが地に足をつけていたが……

「ここって、二階なのに……」

メイの言う通り、番長達は二階の南口前にいる。
そんな事もお構いなしにクマイチャンは落下してきて、その勢いで足場をぶった切ったものだから
二階の床は爆撃でも受けたかのように崩壊してしまう。
カナナン達はなんとか気力を維持してクマイチャンの発する重力に耐えようとしていたが、
流石に正真正銘本物の重力には抗うことが出来なかった。
武道館の足場が崩壊したため彼女らは無惨にも地面に堕ちてしまう。

「い、いまシャボンを(>_<)」

大きく、粘着性のあるシャボン玉を作ってクッションにしようと考えるリカコだったが
焦って膨らませても自分一人をカバーするのが精一杯だった。
本気を出せば犬のような身体能力を発揮できるリナプーや、
空中戦が得意なサユキをモノマネしたメイは上手く受け身をとって被害を最小限に抑えたものの、
身体的に特殊な技能を持たないカナナンだけは強く背中を打ってしまった。

(ヤバイな……この感じは確実に骨折してる。
 でも、しくじったのがカナで良かった。
 アンジュ王国の番長はまだ戦える。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



番長がクマイチャンに苦戦しているのと同様に、
正面西口のチーム河童の面々もモモコ率いるカントリーガールズに苦しめられていた。
先ほどまではアイリの殺気でリサ、マナカ、チサキ、マイ、そして動物たちを制圧していたはずなのだが
いったい何が起きたと言うのだろうか

「アイリ様!大丈夫ですか!?」

エリポンが声をかけた先では、アイリが頭を抱えてうずくまっていた。
これはモモコに何かされた訳ではない。
自身の体調不良のせいで動けなくなっているのである。
食卓の騎士のアイリほどの人物が何故このように消耗してしまっているのか、
モモコには覚えがあった。

「あらま、アイリったら相当キツそうね。
 昨日トモちゃんに"眼"を与えたのが負担になってるんじゃない?」
「そ……そんなこと……」

図星だった。
ミヤビを倒すため、そしてトモの成長を促すためとは言え、
眼の力を他人に与えるなんて荒技を行使して無事に済むはずがなかったのだ。
今のアイリの実力は普段の半分以下。
「殺気を放てて」、「相手の弱点を見抜いて」、尚且つ「強力な棒術で戦う」のがアイリの強みなのだが、
今はそのうちの1つしか出来そうもない。
となれば落雷のオーラも満足に打てないため、カントリーと動物たちは好き放題に動けるのだ。

「カエルさん達!!今のうちに跳びかかっちゃえ!!」

さっきとは一転元気になったリサ・ロードリソースがチーム河童に対して一斉攻撃の命令を出した。
同じくマナカ・ビッグハッピーもカラス達を解き放っていく。
どちらか一方だけでも強力だと言うのに、両生類と鳥類にいっぺんに来られたものだから
エリポンとアーリーは対応に追われることになる。

「マーチャンには効かないよ。 だって火を使えるもん。」

マーチャンは自身の木刀に火を灯した。
メラメラと燃える炎は動物の天敵。
この火炎さえあれば一方的にカエルやカラスを蹂躙できると思ったが、
その直後に飛んできた、水鉄砲による水流であっという間に消火されてしまう。
水を飛ばした犯人はカントリーの魚類担当、チサキ・ココロコ・レッドミミーだ。
滝のように流れる汗を手中に集めて勢いよく噴出させたのである。

「あーーーーーーっ!!何するの!マーチャンの火なのに!!」
「わーー!ごめんなさいごめんなさい!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



火さえ無ければ怖いものは何もない。
さっきまで敬遠していた動物たちが一瞬にしてマーチャンに集まっていく。

「む~~~~~っ!!」

マーチャンは大自然育ちなのでカエルを気味悪がったりはしないが、
こうも全身モミクチャにされてしまえば流石に動けない。
持ち前の学習能力もこの状況では無意味だろう。

「相変わらずリサちゃんとマナカちゃんの攻撃はえげつないわねぇ~」

アイリが戦力外になって暇になったモモコは、地べたにペタリと座りこみながら後輩の戦いを見ていた。
合計1万匹の両生類「カエルまんじゅう」と、合計1千羽の鳥類「PEACEFUL」が揃った様はまさに圧巻。
いくらエリポン、マーチャン、アーリーが名の通った戦士だとしても数の暴力で制圧すれば終いなのだ。
この調子で疲弊させれば防衛完了、なんだかんだ勝利してしまうのでした。めでたしめでたし。
……とはいかなかった。

「モモち先輩、あれ見て。」
「おっ、頑張ってる子もいるじゃない。」

マイ・セロリサラサ・オゼキングの指さす方には、
カエルもカラスも物ともせずズシリ、ズシリとマイペースで歩き続ける戦士がいた。
その者の名はカノン・トイ・レマーネ。帝国剣士最古参の"Q期組"に属する剣士だ。
彼女は橋の上の戦い以降、戦闘スタイルを少しばかり変更しており
全身を重量感たっぷりの鉄鎧で覆うようになった。
フェイスガードも装着しているため顔の表情だって見えやしない。
つまり今のカノンは生身を完全に晒していない状態なので、
カエルが触れることによる気色悪さを一切感じていないのである。
しかも鎧込みの総重量が100kgをオーバーしているため、いくら複数の鳥が頑張っても持ち上がることはない。
結果的に何物にも邪魔されることなくゆっくりと、ゆっくりと歩くことが出来ているのだ。
こんな重装備の兵隊の前ではリサとマナカはお手上げ。
陸地では汗の水鉄砲くらいしか撃てないチサキだって手伝いようがない。

「マイがやる。」

キッと目つきを鋭くしたマイは、ウサギのような跳躍力で飛び掛かった。
そしてカノンの腹に右拳と左拳の高速ラッシュをお見舞いしていく。
しかし殴る対象は鉄製だ。いくらマイの戦闘能力が高くてもこれは自殺行為。
殴った拳の方が傷つき、流血してしまう。

「うぐっ……」
「無駄だよ、そんなヤワな攻撃じゃ私の鎧は破れない。」

カノンの考えた動物対策がこのフルアーマー装備だ。
どれだけ大量で押し寄せてこようが、鎧を壊すだけのパワーが無ければカノンにダメージを与えることはできない。
カエルだろうと、カラスだろうと、魚だろうと、そして目の前のマイだろうとそれは同じだ。
カノンはマイの首を左手で掴み、右手に持った出刃包丁「血抜」で斬りかかろうとした。
それを見たリサとマナカ、そしてチサキはオロオロとしていたが
プレイングマネージャーだけは冷静さを保っていた。

「しょうがないわね、モモち先輩が助けちゃいましょ。」

そう言うとモモコはこぶし大の大きさの石をカノンの顔面に向かって投げつけた。
その投球は最初はヘナチョコだったが、
ターゲットであるカノンに近づいた途端にスピードがグンと加速する。
重い身体のせいで回避性能に劣るカノンはフェイスガードでモロに受けてしまい、
その衝撃に驚いて、マイを掴む手を放してしまった。

「!?……なにこの石、顔に貼り付いて取れない!!」
「磁石よ。それも超強力なね。
 そう言えばあなたの三代くらい先輩の帝国剣士も全身に鎧を纏ってたっけ。
 懐かしいなぁ~思い出すなぁ~」

モモコは軽口を叩きながらも、超強力電磁石を投げ続けることをやめなかった。
その数が10,20,30を超えても投球を止めやしない。

「お……重……動けな……い……」

鎧を破れないなら破らなくても良い。
相手が重ければもっと重くすれば良い。
最終的に超強力電磁石を50は投げたところでカノンは重さに耐えきれず倒れてしまった。

「あなたの先輩はそこからも耐えたよ。 もう少し努力が必要みたいね。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



他のチームがベリーズ達と戦っている隙に、
チームダンス部のナカサキ、サヤシ、アユミン、サユキ、カリンは武道館を逆方向からグルリと周り、
東口のある地点まで到達していた。
入り口となる扉自体は二階にあり、且つここには階段など無いのだが、
身軽なメンバーで構成されたチームダンス部にはそんな事は関係ない。
木から木に飛び移ったり、壁を駆け上がったりする事で易々と登ってしまえるのだ。
ここで一同は改めて東口の扉と相対する。

「思った通り。 やっぱり封鎖されてたか。」

サユキが押したり引いたりしてみたが扉はビクともしない。
頑丈に施錠されているのか、それとも長い期日利用されなかった結果開かなくなったのか、
どちらにしろ簡単には通してくれないようだ。
とは言えチームメンバーに焦りはない。ここまでは想定通り。
サヤシがナカサキに頭を下げてミッションの遂行を依頼する。

「ナカサキ様、ここからは頼みます。」
「う、うん……確変・派生"The Power"!!」

その必殺技の名を叫んだ瞬間、ナカサキの両腕の上腕二頭筋が一気に肥大化する。
負荷の大きいパンプアップで大量の血液を腕に集める事により、キュート戦士団の中でもNo.3相当のパワーを一時的に実現させることが出来るのだ。
こうして得た、さくっと世界羽ばたくめちゃ偉大な力は
キュートNo.1の破壊力を誇るマイミには流石に及ばないが、
純粋なパワーだけなら4番手5番手のオカールやアイリに大きく差をつけている。
そんな怪力ナカサキが両手の曲刀によって繰り出す連撃が、弱いはずがない。

「そりゃそりゃそりゃそりゃ~~~~!!」

一撃ごとに火花が飛び散るほどの衝撃に、後輩達は期待を膨らませた。
このペースで斬り続ければ、封鎖された扉なんて簡単にぶっ壊せると思っているのだ。
しかし何やら様子がおかしい。
ナカサキはもう5分以上も斬り続けていると言うのに、一向に扉は破られないでいるのである。

「ハァ……ハァ……こんなに、硬いのか……」

そこいらの扉ならもちろん軽くねじ伏せていたことだろう。
だが、今現在相手しているのはあの武道館の大扉なのだ。
彼女らが産まれるずっとずっと前からここに立ち誇っていた武道館の造りは
決して弱くなかったという訳だ。

「ナカサキ様……」
「いったいどうしたら……」

ナカサキでダメなら他のメンバーがやるべきか?
いや、それも期待できないだろう。
サヤシの居合刀、サユキのヌンチャク、カリンの釵、どれもが強力な武器ではあるが扉を破るには物足りない。
ところが、通用しないことを分かっていてもチャレンジを申し出る者が1人存在した。
それは帝国剣士の一人、アユミンだ。
酷な話ではあるが……彼女のパワーは帝国剣士の中でも弱い部類にある。
ハルナンやハルと同様に非力な戦士だと言えるだろう。

「私にやらせてください……必殺技で決めます。」

非力である事はアユミンも自覚していた。
所詮自分にはアメ玉を斬る程度の力しかない、そう思うこともあった。
実際、一朝一夕でエリポンのような筋力を身につける事は難しいだろう。
だが、キャンディを斬る程度の攻撃でも、それを繰り返し連鎖していけばどうなるだろうか?……
アユミンはそれに賭けて大太刀を握りだす。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アユミンの武器は故郷である北部で名刀とされていた大太刀「振分髪政宗」だ。
身長ほどもある太刀を巧みに操って己の力不足をカバーするというのな彼女のやり方だった。
しかし、その名刀を持ってしてもモーニング帝国の新帝王を決める戦いでは(優勢だったとは言え)エリポンを倒しきることが出来なかった。
その時点でショックが大きいのに、最近になって味方たちがみるみる力をつけていることにも焦りを感じていた。
ハルやマーチャンは必殺技を編み出しているし、いけ好かないオダだってきっと奥の手を隠し持っているに違いない。
あいつはそういう奴だ。アユミンはそう確信していた。

(いつの日か、フクさんが言ってたっけ。
 必殺技は特別な技なんかじゃ無い。自分のやれる事の延長線上にあるんだ。
 私にやれる事……やっぱ、これだよね。)

ナカサキが扉相手に苦戦している間に、アユミンは既に荒れた床を綺麗に均していた。
今立っている場所から扉までの直線5メートルは特にツルツルに仕上がっていて、
ちょっと足を踏み入れただけで滑って転倒してしまいそうになる。
そのスベりを自由自在に制御するのが天気組の「雪の剣士」アユミンの真骨頂。
スベりの勢いを前進するための推進力へと変換して、ハイスピードで扉へと突撃していく。
それもただ突っ込むだけじゃない。 故郷の大太刀を思いっきり振って、扉を真っ二つにせんばかりに斬りかかろうとしているのだ。
その時のアユミンの形相は物凄く、
あたかもタイマンで相手に鉄拳を食らわせようとしている時のような顔をしていた。

「たぁーーーーっ!」

大きな刀を持って高速で突っ込む攻撃方法なのだから
相手が生身の人間だとしたらそれだけで決着がついたかもしれない。
だが、今相手しているのはあの武道館だ。
渾身の攻撃にも負けることなく、技の衝撃は逆にアユミンに跳ね返ってしまう。
大太刀込みでもアユミンのウェイトは軽いため、反動でまた5メートル近くは吹っ飛ばされてしまったが、
こんなのは最初から折り込み済み。
キャンディを斬る程度の力しか無いと自覚しているアユミンははなから一撃で決まるとは考えていなかったのだ。
全ては連鎖。 連鎖の応酬がものを言う。
だからこそアユミンは自身が元いた地点に吹き飛ばされるように攻撃する角度を計算していたのである。

(まだここからだ!二連鎖!三連鎖!いくらでも繋いでやる!!)

元いた地点、それは即ちツルツル地帯の始点に戻ったということ。
ならばアユミンはもう一度高速の突っ込み斬りを繰り出すことが出来る。
その後も幾度となく武道館に跳ね除けられてしまうが、彼女は諦めない。
四連鎖、五連鎖、もう数が数えられなくなっても同じことを繰り返した。
いつまで繰り返すのか?
無論、キャンディが砕けるまでだろう。

「これが私の必殺技、"キャンディ・クラッシュ"!!!」

一撃の威力は決して高く無いかもしれない。
ただし、トータルの破壊力は現帝国剣士の誰の必殺技よりも上をいく。
たった今、こうして武道館の扉が音を立てて崩壊したのが何よりの証拠だろう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs 扉」

アユミンの努力は実を結び、武道館の扉を破壊した。
そう、確かに壊したのだが……その扉の先にあるモノを見て一同は絶望してしまう。

「こんなの……あんまりだよ……」

石の壁。それもかなり巨大な石壁が行く手を阻むように設置されていたのだ。
扉の造りと比べると新しく見えるのでおそらくはベリーズの誰かが置いたのだろうが、誰の仕業かはこの際関係ない。
考えるべきことはただ1つ。「どうやってこの壁を壊すか?」だ。
まず思い浮かんだのは扉破壊の貢献者であるアユミンとナカサキだ。 ところが、貢献しすぎたせいで2人とも疲弊しているようである。

「ハァ……ハァ……すいません、私は……もう少し休まないと……」
「……ごめん、私も連発は厳しい。」

完全に息が切れているアユミンと、あまりの高負荷で血管を切らし腕から血を流すナカサキを見たら、これ以上頑張れとは頼めなかった。
二人ともある程度インターバルを置けばもう一度必殺技を出せるのかもしれないが、奇襲を目的とするチームダンス部にはそれを待つ暇は無い。
カリンが自身を早送りして壁に立ち向かおうとしたが、すぐにサユキが制した。 
カリンの必殺技は身体に負担をかけすぎる。ここぞと言うときまで温存しておきたい。

「だからさサヤシ、私たちがやるしかないでしょ。」
「そうじゃなサユキ。 もう一秒も無駄に出来ん。すぐに取り掛かろう。」


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

エリポンとマーチャン、 そしてアーリーは群がる動物たち相手に体力を消耗しつつあり、
完全防備で対抗せんとしたカノンはモモコの電磁石の山に押し潰されている。
この状況を突きつけられたアイリは自身をとても不甲斐なく感じていた。
体調の著しく悪化しているアイリには「棒術で戦う」「殺気を放つ」「眼で弱点を見抜く」の3つを同時に行使することは非常に難しく、
せいぜいこのうちのどれか1つを選ぶので精一杯だった。
エリポン、マーチャン、アーリーの3人を動物群から救助するだけなら簡単だ。雷のような殺気のオーラを振りまけば良い。
そうすればカエルとカラス、そしてリサやマナカらカントリーガールズを無効化出来るので、状況を打破出来るだろう。
だが、その後のモモコの対応はどうすれば良いのか?
ベリーズの中では純粋な身体能力が低いとはいえ、若手たちがサポートなしで楽に倒せる相手では決してない。
それにモモコのことだから平気な顔でまだまだ罠を仕掛けているはず。 本当にここで「殺気」というカードを選択しても良いのか?
そうこう悩んでいるうちにエリポンやアーリー達はどんどん疲弊していっている。

(どうすれば良いの!?何を選べば正解だと言うの?……)


●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

二階から落ちた衝撃で、カナナンの脚は言うことをきかなくなってしまった。
しかしクマイチャンはそんな事も御構い無しに攻め手を緩めない。
長刀を思いっきり地面に叩きつけて、文字通り地を割ってしまったのである。

「ぬああああああっ!!」

地割れを起こすなんて規格外にも程がある。
こうして生じた亀裂にハマったら、どれほどの距離だけ落下してしまうのだろうか?
場合によっては二階から落ちるよりダメージを負うことになるのかもしれない。

「カナナン!ほら行くよ!」

身動きの取れないカナナンをリナプーが急いで背負った。
とは言えリナプーは力の強い方の戦士ではない。人を一人背負っただけで著しく移動速度が低下する。
しかも地割れのせいで足下は非常に歩き難くなっている。 番長らの機動力の低下は避けられないだろう。
そんなリナプーとカナナンに対してクマイチャンは容赦なく刀を振り下ろした。
超高度から繰り出される斬撃の破壊力は一撃必殺級。 
番長たちがこれに耐えるには防御力が不足しているため、必死で逃げるしか回避策は無かった。
なんとかメイがサユキ物真似の飛び蹴りをクマイチャンの手首に当てることで斬撃の角度を反らしたものの、
クリーンヒットしたと言うのにクマイチャンは痛がる顔1つしなかった。 ほとんど効いていない証拠だ。
ここまでの戦いで番長たちは痛感する。 自分たちには「機動力」と「防御力」、そして「攻撃力」が絶対的に足りていないのである。
この状況でどうやって怪物に勝つのか?どんな策を講じれば巨人に勝てるのか?
考えがまとまらぬうちに最若手のリカコが亀裂に躓き、そこを目掛けて自称176cmの位置からなる振り下ろしがノータイムで襲いかかってきた。

「リカコ!!避けて!!」

喰らえばもちろん即死。 それに耐える防御力も、回避するための機動力も、リカコには備わっていない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

リカコが斬られそうになる絶体絶命の状況下で、摩訶不思議な出来事が起こった。
あろうことかクマイチャンの刀が空中で静止したのだ。
これはクマイチャンの意思で止められたものでは無い。当人だって非常に不思議そうな顔をしている。

「???……なんだ?……見えない壁があるぞ?……」

"見えない壁"、その単語を聞いたリカコは雷にでも打たれたような顔をしてすぐに横を振り向いた。
色黒で露出の高い服を着た派手目女子が近くに寄り添っていたことに、どうして気づかなかったのだろうか。

「なんで?!な、な、な、なんで!!?……ム、ム……」

リカコがその名を呼ぶよりも早く、後方から破裂音が鳴り響いた。その音は間違いなく銃声。
目にも止まらぬ速さで射出された銃弾はクマイチャンの肩に撃ち込まれ、血液を流させる。

「痛っっっっっ!!……なんなんだ!?新手なの!?」
「……ごち。」

番長もクマイチャンも状況を掴めていない中で、息もつかせぬ間に更なる何者かが跳び上がってきた。
それは球体。 カナナンもリナプーもメイも丸いものがやってきたことを認識する。
いやいや違う。よく見たらそれはただの丸いものじゃない。
何よりも頼れる同士がやってきたのだ。

「うおりゃああああ!!渾身のストレートを喰らえっ!!」

丸くて頼れる同士がブン投げた鉄球の時速は160km。
しかもそれが高速スピンでクマイチャンの肩に衝突したものだから、傷口をガリガリとエグっていく。
これが痛くないわけがない。

「あ゛あ゛あああああああああ!!!」
「よっしゃ番長のみんな!まだまだどんどん畳み込むぞ!!」


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

「動物を操ってるのはそこのリサ・ロードリソースとマナカ・ビッグハッピーよ!やっちゃいなさい!!」

突然高い声が聞こえてきたと思えば、その指示に沿うように二人の戦士が飛び出してきた。
その二人のスピードはなかなかのものであり、
片方は両足に装着したローラースケートで、もう片方は高速アクロバットの繰り返しで速さを実現しているようだ。
一人はリサの腹をスケート靴に取り付けられたブレードで切りつけて、一人は紐付きの刀をマナカにブン投げている。
攻撃を受けたリサとマナカは痛みのあまりカエル・カラスへの攻撃指示を中断してしまい、
群れに襲われていたエリポン、マーチャン、アーリーは無事解放されることになった。
つまりはアイリが「殺気を放つ」というカードを切らずとも、3人が助かる運びとなったのである。
リサとマナカのフォローに入ろうとマイが動こうとするも、すぐに新手の二人に阻まれる。
この手はずの良さにはモモコも舌を巻く。

「へぇ~、いいタイミングで入ってきたじゃないの。いつから見張ってたんだか。怖い怖い。」

モモコのイヤミもどこ吹く風で新規参入組のリーダー、いや、"剣士団長"がアイリのもとに歩いてきた。
そしてあろうことかアイリのアゴをクイッと持ち上げてはこう言い放ったのだ。

「アイリ様、私に使われてみませんか?必ずや勝利に導いてあげますよ。」


●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs 扉」

「ここは私に任せて。」

その声が聞こえた瞬間、石壁の破壊作業に取り掛かろうとしていたサヤシとサユキはゾクッとした。
まるで巨大な瞳にギロリと睨まれたような感覚を覚えたのだ。
慌てて後ろを振り向くが、そこには怪物などいやしない。
居たのは一人の女性だ。背はそこそこ高めだが、せいぜい160cmより少し上程度。化け物とは言い難い。
一点だけ普通ではないところをあげるとするならば、顔のほとんどを覆う程の大きいサングラスを装着していることくらいだろうか。
その人を見たナカサキはちょっぴり驚いた顔をするが、すぐにクスッと笑って話しかける。

「来たんだね。 じゃあさっさとやっちゃってよ。」

サヤシ、アユミン、サユキ、カリンの4名はその女性が何者なのかは知らなかった。 が、見当はつく。
怪物と間違うような殺気、大きなサングラス、そしてナカサキと同格であるという事実。
一同は確信した。この人がこれから繰り出す必殺技ならば石壁も容易く壊せることを。

「DEATH刻印、"派生・JAUP"!!!」

彼女が行なった行為は、高く跳び上がった後に石壁めがけて巨大な斧を振り下ろしただけだった。
たったそれだけ。それだけだというのに頑丈な壁はあっという間に崩壊する。
キュート戦士団No.2のパワーを誇る彼女にとって、この程度は朝飯前ということなのだろう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



●場面0 : 武道館外門 「マイミ vs チナミ」

今からほんの少し前、連合軍のリーダーマイミが戦車の装甲にパンチのラッシュを浴びせている時のことだった。
自分とチナミの決闘を、何者かの集団が横切ろうとしていることにマイミは気づいた。
熱い戦いの最中なので本来ならば気にも留めないのだが、
集団の先頭が大きなサングラスを身に着けたよく知る女性だったものだから、無視できなかった。

「おお!!もう元気になったのか!!」
「ふふ、まぁね……ところで団長、手助けいる?」

正直言って今のマイミはギリギリの戦いを強いられていた。やはり人間対兵器はちょっとばかし無理があったのかもしれない。
ここで同志が助けてくれるのはとても嬉しい……のだが、マイミがその申し入れを受け入れることはなかった。
集団の顔ぶれを見て、ここよりもっと相応しい戦場が先にあることを悟ったのである。

「助太刀は不要だ!皆のところへ急ぐんだ!」
「そう言うと思った。了解。」


●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部」

そして時間は現在に戻る。
集団を率いていた人物の名はマイマイ。
かつてはキュート戦士団の知将と呼ばれていた、食卓の騎士最年少の戦士なのである。
そんな人物が急きょ参戦してきたのだから、若手らは目をキラキラさせて羨望の眼差しを送った。
ところが年月を経てナカサキをも凌ぐネガティブ思考になったマイマイはそれを簡単には受け入れない。

「いや、そういう無理とかしなくていいよ。」
「えっ?」「無理なんて全然……」
「いいのいいの、マイが尊敬されるタイプじゃない事くらい自分がよく知ってるから。」
「……」

ほんのちょっとのやりとりで、オカールとは違ったタイプで近寄りがたい人物だと一同は理解した。
多少クセがあるようでも心強いのは確かだ。 キュート戦士団が二人もついてくれるなんて思いもしなかった。
心のシャッターを依然変わらず閉じているマイマイに対して、サユキも声をかけていく。

「そういえばオカール様が、マイマイ様はメンタルをやられたって言ってましたけど治ったんですね!本当に良かったです。」
「メンタル?……あ~あれは嘘。」
「えっ?」

"嘘"という衝撃告白にサヤシ、アユミン、サユキ、カリンは固まってしまった。
どうしてそんな嘘をついたのだろうか?全くもって事情が分からない。大人の事情というやつか?
詮索するつもりは元からなかったが、質問タイムになるのを遮るようにナカサキが喋りだす。

「ほらみんな早くいくよ!私たちの本分は壁の破壊じゃなくて奇襲なんだからね!急いで急いで!」


●場面3 : 武道館南口 「チーム下克上 vs クマイチャン」

以前にも書いた通り、この戦いのタイトルは「あまりにも出すぎた杭 vs 番長の総力戦」だ。
総ての戦力を出し切ることが出来なければ、番長たちに勝ち目は無いとも書いたはずだ。
そして今この場にアンジュ王国の最高戦力が勢ぞろいしている。

「タケちゃん!ムロタン!マホ!!来てくれたんか!」
「おう!カナナン、リナプー、メイ、リカコ、待たせたな!!」
「リカコ~~~怖くて泣きそうになってたんじゃないの?~~」
「リカコすぐ泣くもんね」
「な、泣いてないし(>_<)」

運動番長タケ・ガキダナーと音楽番長ムロタン・クロコ・コロコ、そして給食番長のマホ・タタン
国に残っていたはずの彼女らが何故やってきたのかは分からないが、理由なんて今はどうでも良い。
目の前に立ちはだかる巨人をなんとかするのが何よりも先決だ。

「突然現れたからちょっと驚いたけど、4人が7人になったくらい何とも無いよ!!」

そう言うとクマイチャンは長刀をムロタンに向かって振り下ろした。
五万の援軍ならまだしも、追加でやってきたのはたったの3人なのだからそう思って当然だろう。
しかし、それではまだアンジュの番長の戦力を読み違えているとしか言いようがない。
彼女らは常日頃から同期同士でチームを組んで戦ってきたため、それがガッチリと組み合った今が最も強いのだ。

「バリアー!」

ムロタンは透明の盾でまたもクマイチャンの斬撃を防いでみせた。
純粋なパワーならクマイチャンの方が圧倒的に上なので、このまま押し切られたら流石のムロタンも防げないのだが、
そうなる前にリカコがすかさず石鹸銃を構えてシャボン液を発射する。狙いはクマイチャンの目だ。
こうして視力を奪ったところにマホがスナイパーライフルによる狙撃をしたものだから、クマイチャンは避けられない。
その銃弾のターゲットはヒタイか?心臓か? いや、そんないかにもな人体急所ならクマイチャンは死に物狂いで回避する恐れがある。
だかはマホは先ほど銃弾をブチ込んだ肩と寸分違わぬ箇所に二発目をプレゼントしたのだ。これが後から効いてくる。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「ぐっ……よくも……」
「余所見してんなよ!次はこっちが相手になるぜ!!」

クマイチャンの目が少し慣れた頃には既に、タケだけではなくメイ、リナプー、カナナンもその手に鉄球を持っていた。
そして各自が一斉に豪速球、モノマネ豪速球、消える魔球、少し遅めの投球をマホが傷つけた肩に向かって投げつける。
これ以上壊されたくないと強く思ったクマイチャンは必死で初球、第2球、第3球を刀で弾き落としたが、終盤で軌道が変化するカナナンのカーブ(プロ仕込み)だけは迎撃することが出来なかった。
番長から見ればさしずめ「形勢不利も次のカーブで見事にドンデンガエシ」といったところだろう。
今まで彼女らは臥薪嘗胆の思いで耐えてきた。 幾度も転ばされる事もあったが七転び八起きの精神で立ち上がっている。
ここから乙女の逆襲が始まる。


●場面2 : 武道館西口 「チーム河童 vs カントリーガールズ」

他の場面と同様にこちらにも心強い味方が駆けつけてくれた。
それはモーニング帝国剣士団長のハルナンと、新人剣士のハーチン、ノナカ、マリア、アカネチンの計5名だった。
他所のマイマイや追加番長のケースと異なり、この5人の登場にはエリポンやカノン、マーチャンらはさほど驚いていなかった。
元より合流予定だったという理由もあるが、それ以上に彼女らがここまで辿り着くことを信頼していたのである。
ただ一人、アーリーだけはハルナンの存在にムムッとした表情で警戒している。
過去の選挙戦のとき、果実の国の面々はロクな目に合わなかったので好意的に受け入れられないのは当然なのかもしれない。
そんなアーリーの肩をエリポンが軽く叩き、安心感を促していく。

「大丈夫っちゃよ。ハルナンは勝利の執念だけは誰よりも強い。 きっと皆が勝てる案を考えてくれるはずっちゃん。」

その通り。ハルナンは勝つつもりだからこの場に現れたのだ。
勝利のためなら大先輩であるアイリからリーダーの座を奪う事もいとわない。

「このチームのメンバーを見たときに驚きました。
 カノンさんはともかくエリポンさんにマーチャン、そしてアーリーちゃん……すっごく扱いにくそうなメンバーだな、と。
 でも、このメンバーならモモコに勝てると思ってアイリ様は選出したんですよね?
 任せてください。ここから先は私が代わりにスペシャルチームを導いてあげますよ。」
「……」

弱点を見抜く眼をおいそれと使えない今、アイリはハルナンの真意を見破るのに苦心していた。
その実力を本当に信用していいのかは分からないが今は任せるしかない。そう感じて頭をコクリと下げた。
こうして指揮権が移るや否や、ハルナンが指示を出し始める。

「そうですねー、ちょっとこのフィールドはゴミゴミしてて見難いですね。動物たちが邪魔なのかな?……
 よし!新人剣士のみんな!モモコ以外のカントリーガールズを追っかけ回してヨソに連れ出しちゃいなさい!
 ノルマは一人一殺……出来るわよね?」
「「「「はい!」」」」

指示を受けてすぐに新人剣士の4名はリサ、マナカ、チサキ、マイの元へ走っていった。
ハルナンの狙いは動物の群れを遠くに隔離してからモモコを楽に倒す事なのだろう。
だがその手に乗ってやる義理はない。カントリーの4人は意地でも逃げまいとしたが、
逆にモモコの方から指示が飛んでくる。

「そうねぇ……リサちゃん、マナカちゃん、チサキちゃん、マイちゃん、ここは相手に乗っかりましょう。どこか遠くに逃げちゃいなさい。」
「「「「えっ!?」」」」
「もちろんどこでも良いって訳じゃないのよ……自分を活かせるフィールドに向かって走りなさい。」
「「「「!!」」」」

モモコの指示を受けたカントリー4名はそれぞれバラバラに逃げていった。互いに共闘するつもりは毛頭ないらしい。
ならば新人剣士4名も同様にバラバラに追いかけることになる。
さっそくハーチンが自分のターゲットを決定し、ローラースケートで追跡していった。

「よっしゃ!じゃあそこのチサキって子を追いかけ回したろ!どう見ても一番弱いしな!みんなも早いもん勝ちやで~」
「ひえええええ!追っかけてこないで~~~!!!」

ハーチンの言う通り、戦う相手を自分で選択できるのは新人剣士たちにとって大きなアドバンテージだ。
すこし考えた結果、ノナカはリサを、マリアはマイを、
そしてちょっと考えるのが遅れたアカネチンは余ったマナカを追いかけることとなった。



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