「ハァ……ハァ……急がなきゃ……」

チサキは武道館の周囲をぐるりと囲んでいる、お堀に向かって走っていた。
ここらで水場と言えば唯一そこだけ。魚類を自在に操るチサキはお堀にさえ辿り着けば優位に立てるのだ。
ローラースケート使いのハーチンに追われて恐怖していたチサキは、
目的地に到着したと思えばすぐにお堀へと飛び込んだ。一刻も早く水中へ入りたかったのである。
しかしここで酷な事が起きる。 水に飛び込んだはずのチサキは何か硬いものに顔面をビタンと強打する。

「ぎゃ!」

チサキの飛び込みを阻んだものは何か?……答えは「氷」だ。
今の季節は3月。暖かくなり始めたとは言えまだ寒い。
アリアケの波打つ海と違って、この武道館のお堀の水は静かに留まっている。 なのですっかり氷が張っていたのだ。
これでは水中に入ってお魚に味方してもらうことが出来ない。
いや、それより深刻なのは……

「ははははは!笑いが止まらんな! 氷の張ったスケートリンクはウチの独壇場やで!」
「嫌ぁあああああああ!!」

水の状態を自分にとって都合の良い方に持っていくのはどちらになるのだろうか。
ハーチンとチサキの勝負は、水をより制した者が勝利する。



リサ・ロードリソースは木々の茂った木陰地帯に逃走していた。
その理由はもちろんカエルのため。カエルがより活発に動ける条件がここには揃っている。

「まぁ、こんなところに来なくても勝てるんだけどね。 ノナカちゃんだっけ?……あなた、前にカエルちゃん達の前で何も出来てなかったでしょ。」

リサはモーニング帝国城でサユをさらった時のことを言っていた。
その時にカエルの群れを見て平気そうだったのはエリポンとハルナン、そしてマーチャンくらいだった。
ノナカを含む他のメンバーはあまりの気味の悪さに震え上がっていたのである。
だが、ノナカだって無策でリサを戦闘相手に選んだわけではない。

「確かにカエルに囲まれるのはHorrorですね。 見た目が、その、言ったら申し訳ないけど……」
「気持ち悪いんでしょ? 別にいいよ。この可愛さはわかる人にしか分からないし。」
「Yes、そうです。 だから私は見ないで戦うことにします!」
「!?」

敵を前にしてノナカは目を完全につぶってしまった。
本来ならばあり得ない行為だが、ノナカの耳の良さをもってすればこの状態でも戦えるかもしれない。
そしてノナカは更なる能力……妄想力を発揮する!

「Wao! カエルちゃん達がとってもfancyな見た目になりました!」
「えっ?……」

ノナカは持ち前の妄想力で、カエルのビジュアルを自身の画風通りの姿に変えてしまった。
他人にとっては珍妙なキャラクターに見えるが、ノナカにはこれが可愛く思えるのである。
ノナカとリサの勝負は、己の画力をよりアピールした者が勝利する。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイとマリアは芝が適度に生えた平原に辿り着いた。
カントリーガールズの中でも動物に頼らず己の肉体のみで戦うマイならではの選択だろう。

「マイは自分の強さに自信を持ってる。だから小細工なしの場所を選んだよ。」
「うん!マリアも望むところだよ!」
「あとね、マイはスタイルとセクシーさにも自信を持ってる。」
「え?、あ、うん、脚長いよね、あ、その、セクシーさも良いと思う」
「でしょ。」

マイの変なペースに乗せられてしまいそうになったが、今はそんなことをしてる場合ではない。
キッカとの修行の成果を発揮して、敵を早々に撃破せねばならないのだ。

「マリアは野球に自信を持ってるよ!えいっ!」

あんなに訓練したのだから、マリアのナイフ投げのコントロールは遥かに向上していた。マイの胸元に正確に飛んで行っている。
本来ならば見事にストライクが決まるのだろうが、
マイはそのナイフの軌道を正確に捕らえて、右拳を下方向から叩きつけることに成功する。
ブン殴られたナイフは数十メートル以上は遠くの方へ吹っ飛んでしまった。 これはまさに"ホームラン"と言うしかない。

「今のが野球?マイよく知らないけど、結構カンタンなんだね。」
「え?え?……」

勝敗を決するのは知識量か、それとも遺伝子か、
マリアとマイの勝負は、より野球を極めた者が勝利する。



そこから近い平原で、マナカとアカネチンも戦いを開始していた。
マナカは既に臨戦態勢にあり、カラスを身に纏って漆黒の翼を大きく広げているり
最凶の状態である「ブラック・マナカん」になっているのだ。

「アカネチンだっけ?ご生憎様だけど、君が勝つ可能性は万に一つも無いと思うよ……だって、マナカはカントリーで一番強いから。」
「そ、そんなことやってみなきゃ分からないじゃない!!」
「ふふ……あぁ、それにしても、どうせタイマン勝負をやるならハル・チェ・ドゥー様とやりたかったなぁ。」
「え?……」
「あのカッコいいイケメンハル様と二人っきりなんて……キャー!妄想しただけでドキドキしてきちゃう!
 そうだ!アカネチンをさっさと倒したらハル様の方に直行しようかな。」
(この勝負……絶対!絶対!絶対に負けられない!!)

下馬評通りなら99.9%でマナカが勝つカード。
アカネチンとマナカの勝負は、より愛が強い方が勝利する。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



カントリーの4人が散り散りになった今、モモコはたった1人で連合軍6人を相手取る形になっている。
アイリが相変わらず地面にへたり込んでたり、カノンが磁石の山に下敷きになってる事を考えると今すぐ6人全員でかかれる訳ではないが、
少しばかり話が上手く進みすぎていることをハルナンは懸念していた。

「即決で決めちゃいましたね。 そんなに自分の実力と、カントリーの子たちの力を信頼してるんですか。」
「まーね。私の強さのことは言うまでもないし、それに、あの子たちには私の暗器を一つずつ貸してるの。 4勝0敗もあり得ちゃうかもなぁ。」

モモコは7つの暗器を自在に操る戦法を得意とするのだが、現在はその半数以上を後輩たちに託していた。
例えばマナカには「超強力電磁石」を預けている。彼女にはこの暗器がピッタリだとモモコが判断したのである。
複数羽のカラスを身に纏ったマナカは武道館のてっぺんと同じくらいの高さまで飛び上がり、そこから磁石を次々と落としていった。

「わっ!!危ない!」

この高さからならアカネチンは反撃しようがない。
しかも、次々とカラスの口から石を供給されるのでマナカはいくらでも空から投下できる。
最初のうちはアカネチンも眼の力で石の軌道を先読みして回避していたが
地に転がる磁石が増えるにつれて引力と斥力の関係が複雑化し、落下する石の動きが急変するため避けきれなくなってしまう。

「痛い!……うぅ……手にぶつけた……」
「互いにくっ付き合う磁石ってマナカとドゥー様みたいだと思わない? 嗚呼、まさに恋はマグネット。」
「うるさい!」


一方、木陰のノナカは目をつぶったまま周囲の音を敏感に感じ取っていた。
いくつもある小さな呼吸音の中に、一つだけ大きな呼吸音が混じっている。
それはヒトの呼吸。つまり倒すべき敵リサ・ロードリソースはそこにいるのだ。
目が見えなくても場所さえ分かれば斬りかかることが出来る。ノナカは忍者の俊敏さでそこに一瞬で辿り着いた。
リサの身体からはカエルの呼吸は聞こえない。即ちカエルを纏ったりはしていないと言うこと。
個人の戦闘力は並以下のリサに肉弾戦は不可能なはず、そう考えてノナカは刃を突き刺そうとした。
……が、その瞬間ノナカの頬からパン!と言う大きな音が鳴り出す。
音源はノナカではない。リサに思いっきりビンタを喰らったことで破裂音が響いたのだ。

「What's !?」

ただのビンタならノナカはここまで驚きはしない。
驚くべきは音の次にやってきた激痛だ。奥歯が抜けてしまいそうなくらいに痛い。
おもわず目を開けそうになってしまった程である。

「見えないよね~? 教えてあげよっか、私の手は金属が貼り付けてあるの。
 これでほっぺたをパンって叩いたんだよね。もっとたたいてあげようか? パン・パン・パン、パン・パン・パパンってね。」

これも言うまでもなくモモコからレンタルした暗器の一つだ。
手のひらに薄くて軽い金属の板をペタリと貼り付けることでビンタの威力を強化しているのである。
これがあればリサにも接近戦が可能になる。
そして、そんなリサが畳み込むなら今がチャンス。
今日一番のリズムでノナカの両頬を往復ビンタする。

「パパパパン!パパパパン!パパパパパパパパパパン!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



自身の投げたナイフを簡単にホームランされてしまったのでマリアはひどくショックを受けた。
マイは運動神経抜群であるため、マリアの球種を見てストレートつまらん(つまらん)なんて小生意気ガールのような感想を抱いたのかもしれない。

(だったら変化球だ!キレッキレのを投げて撹乱しちゃいまりあ。)

マリアの狙いはこうだ。まずは思いっきり高めに投げナイフを放ることで、暴投だと思わせて一旦油断させる。
ところがその暴投ナイフは実はフォークボールの要領で投げられている。最高点に到達したところで急降下するのだ。
さすがにその変化は捕らえられないだろうと考えてマリアは自慢の強肩でナイフをぶん投げた。

「えいっ!!」

誰がどう見ても大暴投。こんなのを打とうとしたり、あるいはキャッチしようとする者は存在しないだろう。
野球を少しでもかじった人間ならストライクゾーンにかすりもしない球を無理して追いかける事は決してない。
しかし、マイは違った。
野球を知らない彼女はそんなルールには捉われない。なんであろうと自分への攻撃は受け止める思いだ。
ウサギのトレーニングを積んだ末に培った跳躍力で空高くにあるナイフをキャッチしようとするつもりでいる。
だがあれだけの上空にあるとどれだけ必死にジャンプしても届かないかもしれない。それは自信家のマイだって流石に自覚していた。
だからここは少し癪ではあるが、モモコに借りた暗器を使うことにする。

「これを使うと脚が長くなるんだよ。マイはもともと美脚だから意味ないんだけどね。」

その暗器はブーツに仕組まれており、足先にググッと力を入れることで機構が作動する。
ガシャンガシャンと言う音とともに靴の底が一瞬にして持ち上がり、あたかもマイの脚が50cmほど伸びたように見える。
このように特殊な仕掛けが組み込まれた靴は"美脚シークレットブーツ"と呼ばれ、
足がコンパクトなモモコでも人並みの歩幅をに入手に入れるために開発されたのだとマイは思っていた。
ウサギの力を持つマイがこのシークレットブーツを使えば、脚が飛び出る時の勢いを持ち前の跳躍力にプラスすることが出来る。
結果的に規格外の大ジャンプが実現可能になるのだ。
そうしてマイはナイフがフォークボールとして機能する前に、即ち、落下するよりも前に掴み取る。
そして自身が着地するより早く、空中に浮いたままの状態で振りかぶり、マリアに投げ返したのである。
その様はまさに野球選手そのもの。今すぐ避けなくてはならないはずのマリアはついついマイをじっと見続けてしまった。

(なんで?……この子、どうしてこんなに野球が上手なの?……)

ナイフを横っ腹に受けてもマリアは変わらずマイを見続けた。その時流した涙は痛みからではない。感動からだ。
その視線の意味に気づいてないマイは着地するや否や、脚を伸ばしたままでモデル風のポーズをとり始める。

「あ、そうか、マイがイケメンだから惚れちゃったのかぁ……」

"クールな男気取ってる背伸びが素敵"、マイはそう自画自賛していた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



リサ、マナカ、マイと、ここまではカントリー側のメンバーが優勢にある。
しかし残りの一人であるチサキはモーニング帝国の新人剣士ハーチン・キャストマスターに大苦戦を強いられていた。

「ほらほらほらぁ~!!逃げんなやぁ~!!!」
「キャーーーーー!!」

氷上(表情)の魔術師と称されるハーチンは変顔をしながら嬉々としてチサキを追っかけまわしていた。
スケート選手の才能がある彼女にとって、お堀の水が凍っているのは好都合どころの話ではない。
シャーッと華麗に滑って敵に追い付いては、靴裏に取り付けられたブレードでチサキの肌を傷つける。

「痛い!!……やだぁ……もうやだよぉ……」
「なんだか弱いものイジメしているようで気が進まんなぁ……うへへ、ふへへへ」

このまま逃げ続けても何にもならない事は、チサキもちょっとずつ理解し始めていた。
ならば立ち向かうべきか?しかし水に入れないチサキに何が出来るのか?
ここで彼女は思い出した。自分の靴にはモモち先輩から拝借した暗器が仕掛けられているのだ。

「えっと……確かこう使うんだっけ……えいっ!」

この暗器は足で地面をバン!と強く踏むことでその機能を発揮する。今は地ではなく氷を踏んでいるが効能に変わりはない。
この靴は下部から空気を取り入れて、その空気を内部で圧縮し、上部から一気に吹き出す仕組みになっている。
つまりこれを使えば(選挙戦でモモコがクマイチャンにやってみせたように)飛んでくる瓦礫などを空気の壁で防ぐことが出来るのである。
しかしこの暗器は飛び道具が襲い掛かってきた時にこそ真価を発揮するもの。つまり今使っても何の意味もない。
むしろ最悪なことに、そうして飛び出した風はチサキのスカートを思いっきりめくりあげてしまった。

「え?……」

チサキはあまりの事態に一瞬フリーズする。
相対しているハーチンもそのスカートの中身を至近距離で目にすることになった。これには流石のハーチンも動揺を隠せない。

「お、おう……色仕掛けってやつか?悪いけどウチは今のところそういう趣味は……」
「いやあああああああああ!!忘れて忘れて忘れてぇええええええ!!」

羞恥のあまりチサキは耳どころか全身真っ赤になる。
「心の中に風が吹くたび乙女の頬は燃えてゆくのよ」という言葉を誰かが言っていたが、
チサキの場合は「スカートの中に風が吹くたびチサキの全身は燃えてゆくのよ」と言ったところだろうか。
おや、気づけばチサキは頭から湯気が出るほどに茹で上がっているようだ。
まるで氷をも溶かしてしまいそうなほどに。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



チサキの体質は少し特殊だった。 
常人と比較して異常なほどに血液の巡りが良く、ちょっとしたことですぐに真っ赤になってしまうのである。
驚くべきはその時にチサキが発する熱量だ。
場合によっては体温がお湯よりも高くなり、その熱を周囲に伝導させることも可能となっている。
今もこうして、チサキの足下の氷がジワジワと溶けていっている。

「あーもう!!穴があったら入りたいよーーー!!」

チサキは自身の身体で最も熱くなっている頭部を思いっきり氷にぶつけだした。
ただでさえ溶けかけているところに高熱の物体が勢いよく衝突してきたのだから、
水場に張っていた氷はあっという間に砕け散ってしまう。
そこを起点として周囲に次々とビビが入っていき、ハーチンの足場もろとも崩壊させていく。

「はっ?……」

あまりの衝撃映像を前にして、ハーチンはうまく事態を把握することが出来なかった。
砕け散るスケートリンクの上で滑った経験の無いハーチンは、為すすべもなく水中に落ちてしまう。

(冷っ!!なんやこれ!心臓が止まりそうや!……いや、それよりヤバイのは……)

ハーチンが水中で目にした光景、それは先ほどのカエルやカラスに負けず劣らずの数だけ存在する魚群だ。
この魚の種別名はワカサギ。
本来はこんなお堀に生息する魚では無いのだが、おおかたどこかのプレイングマネージャーが前日までに仕込んでくれたのだろう。
そう、水中ならば無敵になれる可愛い後輩のために一肌脱いだのだ。

(お魚さんたちお願い、あの人を倒して……そして、出来ればさっきまでの記憶を全部消しちゃって!!)



アカネチンは空から降り注ぐ磁石から逃げ回っていた。
とは言えアカネチンの眼を持ってしても磁石の引き寄せ合う力を全て見抜くことは困難であり、
既に10発ほどはぶつけられている。
人体急所に当てられていないのが不幸中の幸ではあるが、もしも頭に当たったら一発でアウトだろう。

(このまま逃げてちゃラチがあかない……私からも攻撃しなきゃ!!)

向こうが上から下に仕掛けてくるなら、こちらは下から上に攻撃すれば良い。
いつも愛用する印刀では上空まで届かないので、アカネチンは地面に転がる磁石を一つ手にした。
これを思いっきり投げて、的当てのように空飛ぶマナカにぶつけてやろうと思ったのである。

「えいっ!」

遠距離の敵を相手するなら自分も遠距離攻撃……という発想は良かったかもしれない。
だが、普段あまり物を投げないアカネチンの肩はさほど強くなかったので、
投げられた磁石の勢いはすぐに弱まり、むしろ地上にちらばる磁石の方に引き寄せられてしまう。
つまり、アカネチンにはどうやってもマナカを撃ち落とす事など出来ないのである。

「そんな……あぁ、もしもマリアちゃんがいれば当てられるかもしれないのに……」

アカネチンは無意識のうちに同期のマリアを頼っていた。
確かに彼女の強肩なら磁力の強さを上回るパワーで投球できるかもしれない。

「マリア?……あぁ、あっちでマイちゃんに半殺しにされている子のことね。」
「えっ?……」
「マイちゃん強いからなぁ、マリアって子はもう助からないかもね。命も危ういかも?
 あ!それじゃあ私のことマリアと呼んでいいわ今日から。
 ドゥー様との結婚を祝福してくれたらね~。」
「そんな……マリアちゃんが……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「マリア大丈夫かな~心配だな~」

マリアとマイが戦っている平原から少し離れたところで、コードネーム"ロッカー"が双眼鏡を覗き込んでいた。
以前に打倒キッカのために協力したよしみで、かなりひいき目に見ているようだ。
そしてその隣にはもう一人の仲間がいるのだが、それはいつもの相方"ガール"ではない。
所属組織のリーダー的存在である"ドグラ"だ。
彼女もまた真剣そうな表情でマリアとマイを観戦していた。

「私の見込みだとマリアがマイを打ち破るのは相当厳しいと思う。」
「そうなの?」
「マイ本人は知らされていないようだけど、彼女は伝説と呼ばれた戦士の実子……つまり、レジェンドの血を引いてるんだよ。
 戦い方も直々に教わっていたようだし、生半可な力じゃ太刀打ちできないはず。」
「へぇ~さすがアヤパンは野球に詳しいなぁ」

ドグラの話は真実。
マイは名選手から才能を受け継いだうえに、更に同一人物の名コーチから英才教育を受けてきたのである。
そのルーツが野球というスポーツだとは気づいていないようだが、実力は本物だ。
自分ひとりの力だけで、両生類・鳥類・魚類を操る仲間たちと肩を並べていることからもそれがよく分かるだろう。

「次はこっちから行くよ!」

マイはウサギのスピードを発揮して、マリアとの距離を一瞬にして詰めてしまった。
50m走なら今現在武道館にいる他のメンバーにも後れをとることもあるだろうが、
塁と塁の間の距離ならば身に染み込んでいるため、それ以下の長さなら誰にも負ける気がしない。
もちろんマリアだって黙ってみている訳が無いので、二刀流と呼ばれる所以の両手剣を構えて思いっきり振り切った。
しかしマイが衝突寸前で体勢を低くするヘッドスライディングで飛び込んだので、マリアの打撃は空振りに終わってしまった。
ここで自身の戦い方を「ウサギ」から「ライオン」へ切り替えたマイは容赦なくマリアのスネに噛みつきだす。

「ああっ!!」

獲物を狩る獅子がここで攻め手を緩めるはずがない。
脚を痛めて機動力を無くさせてからが本番。モモコ借りた美脚シークレットブーツを利用して一気に背を伸ばしながら、
ライオンの力で強化した握り拳をマリアの顔面に思いっきり叩きつける。

「っ!!!!」
「まだだよ!マイが勝つまで攻撃は終わらないんだ!」

マイはそのままマリアを押し倒し、更なる追撃を喰らわそうとした。
力関係だけでなく体勢まで下になったマリアは誰がどう見ても不利だ。
遠くから見ている解説・ドグラは最初の予想を変えようとしていないし、
ひいき目のロッカーだってマリアの敗北を確信せざるを得なかった。

「ここまでか……もっとやってくれると思ったんだけども。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



リサ・ロードリソースのビンタを受けたノナカは顔をひどく腫らしていた。
せっかく最近はシュッとしきたというのに、これではムクんで見られてしまう。
ただ、見た目はともかくとしてビンタの威力自体はさほどではない。これくらいならノナカは耐えられる。
武器を手に入れたとは言え、元々戦闘向きではないリサには意識を断つほどの攻撃力は無かったという事だ。

(痛い……とても痛いけど我慢できる! 目もCloseさせたままでいられる!)
(嘘でしょ?あんなにビンタしたのに効いてないの?……こうなったらやっぱり戦意そのものを奪い取るしかないようね。)

ガチンコ勝負になればもちろんノナカが勝つだろう。運動神経が段違いだ。
だが、リサにはカエルがついている。
今のノナカは目をつぶってカエルを見ない事によってこの状況でもまだ戦えているが、
無理矢理にでも目をこじ開けられてしまえばカエルを直視することから逃れられず、戦意喪失してしまうことだろう。

(さっき、この子はカエルさん達がファンシーになったって言ってたわよね。
 どんな見た目をイメージしてるのかはよく分からないけど、リアルなカエルさんが一番可愛いに決まってる!!
 その目を開けて、現実を見せてあげるんだから。)

リサは指を咥えて、カエルにしか聞こえない音を発することで指示を出した。
この時出した指示の内容は二通り。
一つは通常のカエル200匹が一斉に飛びかかってノナカの動きを止めるというもの。
そしてもう一つは、本物の牛並みのパワーを誇るウシガエルがノナカの腹に突進するというもの。
ヘビー級のボディーブローを無抵抗で受けたノナカは苦しみのあまり目を開けてしまいそうになる。

「oops!!」
「どう?苦しかったら無理せず目を開けてもいいんだよ?」
「こんなのまだまだ平気……こうやってAtackされることは分かってたから……」
「ふぅん、聴覚で察知したから覚悟出来たってこと?」
「Yes, その通り。」
「だったらその耳を潰してあげる! カエルさん達!大声で鳴いてちょうだい!!」
「!?」

リサの指示通りにこの場にいる全てのカエルがゲコゲコと鳴き出した。
その騒音レベルは凄まじく、ノナカの耳が機能しなくなる域まで達している。
これでノナカの聴覚というストロングポイントは失われた。
どこから、どのタイミングで、どのような攻撃が来るのかはもう分からない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



この寒い時期に冷水に落とされたとあれば、ハーチンの体力と精神力は急激に消耗される。
体温はごっそりと奪い取られ、呼吸できぬ恐怖が心臓を鷲掴みにし、脳はパニック状態になる。
そこにチサキが魚の軍団をけしかけたものだから状況は最悪だ。 
魚はハーチンの窮地もお構い無しに顔を、腹を、手足を目掛けて体当たりしてくる。こんなことをされたらほんの僅かに体内に残った酸素だって吐き出さざるを得ない。
しかもワカサギ達は水面側にも壁を作るように陣取っているため浮上したくてもさせてくれない。

(苦しい!苦しい!本当に死んじゃう……)

これを絶体絶命と言わずになにをそう言うのだろうか、というくらいにハーチンは窮地に立たされていた。
水、そして魚を支配するチサキ・ココロコ・レッドミミーに水中に引き込まれた時点で勝ち目は薄かったのだろう。
だが、「勝ち目は薄い」とは即ち勝つ可能性はゼロパーセントでは無いということ。 
極限状態にあるハーチンにもまだ出来ることはあった。 いや、極限状態だからこそ若き日に修練して得た技能が活きてきたのだ。
スケート選手は滑るだけではない。 スピン、そしてジャンプも欠かすことのできない要素である。
ハーチンは残った力を振り絞って自身の身体を捻りきり、その勢いで周囲の魚を弾き飛ばした。 そしてそのまま水の内から外へと跳びあがっていく。

「プハァ!!息……息が出来る!!助かったぁ!!」

ハーチンが脱出した先にはまだ破壊され尽くされていない氷面があった。自分の有利な居場所に戻ることが出来たという訳だ。
だが、それでも、チサキとはこれ以上戦わない方が賢明だろう……
敵は水の支配者。そのチサキはハーチンの復帰に驚いた顔をしてはいるが、依然変わらず水中に陣取っている。
このまま戦ってもチサキの有利は変わらない。ならば諦めて逃げるのが賢い選択。長い目で見ればそれが大勝利。

(って、さっきまでのウチならそう思ってたんやろなぁ……)

ハーチンの目はただ一方向、チサキの方だけを向いていた。 彼女は幼少期の苦しい修練経験と同時に初心までも思い出したのだ。
先輩たち、そして同期たちは今もこうして苦しい戦いを繰り広げているはず。 だったら自分だってモーニング帝国剣士としてそこに並びたい。

「一緒に、この感動を共有したい!!」


マイ・セロリサラサ・オゼキングに乗っかられたマリアも、ハーチン同様に劣勢だ。
あと数発良いパンチを貰ったら倒れてしまいそうなこの状況下で、マリアは頭の中で色んなことを考えていた。
このままマイに敗北してしまえば敬愛するサユを助けられなくなるがそれでも良いのか?
目の前のマイは戦闘力だけでなく野球の腕前も優れている。マリアは戦いでも野球でも勝てないのか?

「そうじゃない!!」

マリアは全てを受け入れなかった。わがままかもしれないが、甘んじるつもりは全くない。
この状況を打破するためなら思いつく限りの手段をなんでも尽くす。そう決意し、マイに抱きつきにかかった。

「あれは!!……あの時、俺がマリアにやったのと同じだ!!」

マリアの突然の行動をみたロッカーはつい声を上げてしまった。 隣でドグラが若干軽蔑した目で見てるのも気にならないくらい熱が入る。
以前ロッカーはマリアの攻撃を阻止するための防衛法としてボクシング技術のクリンチを使用していた。それを今こうしてマリアが使っているのだ。

「なにすんのっ!放してよ!!」

いくらマイが哺乳類のパワーを活用しているとはいえ、体躯はマリアの方が大きい。 この抱きつきからは簡単には逃れられない。
そして、すぐさま襲いかかる背中の激痛によってマイはマリアがとったこの行動の意味に気づきはじめる。

「!!!…………これ、まさか……」

その痛みの発生源が、遠くから監視していたドグラとロッカーには丸分かりだった。

「あのマリアって子すごいね……マイに抱きつくと同時に空に向かってナイフを投げたんだ。」
「あぁ、そのナイフが落下してきてマイの背中にブッ刺さったんだからそりゃ痛いだろうな。」

マリアは野球の神様にごめんちゃいまりあと謝った。 クリンチも不意打ちのナイフも野球のルールに沿った戦い方とは言えないからだ。
だが、これで劣勢をある程度はひっくり返すことが出来た。 ここからはスポーツマンシップに則って戦うが出来る。
慌てて距離を取るマイに対して、マリアは挑戦状を叩きつけた。

「一球勝負しようよ……マリアがあなたの心臓に向かってナイフを投げるから、もう一度さっきみたいに打ち返してみて。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ウシガエルは重量感のある体当たりを何発もノナカの腹に喰らわせていた。
とっくに血反吐を吐いているのだがそれは外には見えない。ノナカが全身をカエル群に覆われているからだ。
苦悶の叫びを何度もあげているのだがそれも外には聞こえない。カエル達が大声で鳴いているからだ。
視力どころか聴力さえも役に立たない環境でノナカが何も出来ずにいるのを見て、リサは安堵の表情を浮かべた。
一時期はどうなることかと思ったがこれでミッション遂行。 カエルの前に人は無力なのだ。
そう思っていたところでリサはある異変に気付く。 カエルの集まりの中からノナカの手が飛び出て、何か光るものを持ってるように見える。

(あの光はなに?………………う、嘘でしょ!?カエルさん達!今すぐそいつから離れて!!)

リサは急いで指笛を鳴らしノナカに集まるカエル群を散らした。 ゲコゲコ五月蝿い状況なので笛の音も普段の何倍も大きくなっている。
そしてカエルが命令を聞くより先にリサはノナカの元に走り、掌の金属で光体を思いっきりはたき落とす。
これはノナカが奥の手として用意していた爆竹。 音を司る忍者として「無音」で斬れる忍刀以外に「爆音」を発する爆竹も扱えるのである。
爆竹に殺傷能力は無いが、カエルのような小動物を焼き尽くす程度の威力は備えている。ノナカはこれでカエル群を吹っ飛ばそうと思ったのだ。
ところがリサ本人がカエルに代わって爆竹による破裂炸裂の直撃を浴びたので、想定外の大火傷を負わせることが出来た。

「熱い……」

思わぬ損害だったがリサはめげない。 焦げた指にガリッと噛みつき、さらなる指示を出す。 出し惜しみなしの最凶の形態になろうとしている。

「絶対絶対許さない! 今、私は猛毒を持つカエルさん達を身に纏ったの。斬撃でも爆撃でも当ててみなさい、体液があなたにかかってジ・エンドなんだからね!!
 それに、どうせ見えてないようだから教えてあげるけどあなたの足下にも同じ毒ガエルさん達がビッシリと敷き詰められてる……どういうことか分かるよねっ!?あなた、もうそこから一歩も動けないよ!」

リサ・ロードリソースの怒声にノナカはゾクッとした。 怒気にビビったワケじゃない。毒がもたらす危険なアディクションに肝を冷やしたのだ。
ノナカの聴覚は確かに周囲のカエルの呼吸を捉えている。 目を開けていないので色で判別出来ないが、以前城の前でエリポンとハルナンにも同じことをしたのだからハッタリではないのだろう。
だが違和感がある。 リサの説明はあまりにも懇切丁寧。くどいくらいに毒ガエルの存在を強調している。
ほっとけばノナカを毒で倒せるというのに何故わざわざ正直に話すのか?……ハッタリ以外の理由で何がある?

「あ、そういうことか……見えてきた……」

これまでのリサの行動からノナカは暗闇の中で全てを理解した。そして、勝利のための光明を見つけることが出来た。
まさに「頭の中にイメージさえ描ければ掴み取れそうさ」と言った感じだ。

「見えた?……目を閉じてるあなたに何が見えると言うの?……」
「"My Vision"」


アカネチンのいる平原、現在の天気は磁石の雨あられ。
マナカ・ビッグハッピーは更に多くのカラスを呼び寄せて、次々とモモコの電磁石を地上へと落としていっていた。
"眼"でマナカとカラス、そして石の動きを見抜いてるおかげでアカネチンはその殆どを避けていたが、
どうしても何個かの直撃は喰らってしまう。 背中は痛々しくも血が滲んでいる。
それでも、アカネチンは動きを止めなかった。 マナカからマリアがピンチと聞いたその時から一貫して奇妙な行動を取り続けている。

(あの子どうしちゃったの?……この絶望的な状況下でヘンになっちゃったのかな。)

マナカは計算が大の得意。そんなマナカでも敵の行為の真意を読み取ることは出来なかった。
アカネチンは腰を落として低い姿勢をとったかと思えば、愛用する印刀「若葉」の先で地面をガリガリと削り出したのだ。
そして何やら大地に文字でも描くように線を引き続けている。
でもそれは文字なんかじゃない。 大きな円を描いたかと思えば、その中にまた円を、そしてまた円を描いている。 意味がわからない。

「まるで大きな的ね。 中心に向かって石を投げれば良いのかな?」

何重にも重なる円の中心にアカネチンが来たタイミングで、マナカは超強力電磁石をぶん投げた。
球技は得意な方ではないがその時の投球はなかなか上手くいき、的のど真ん中にいるアカネチンの脳天にヒットする。
この時のマナカは心が踊った。 アカネチンが倒れるのを見て解放感さえ感じていた。
なかなかしぶとかったが結局ノーダメージで完全勝利。 これ以上ない結果と言って良いだろう。
そう、この時点までは。

「スッピンのあなたで、勝負できる?」
「え?……何か言った?」

事態は急転直下。 天空の支配者マナカは一気に地へと堕とされる。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



リサ・ロードリソースは嘘をついている。
その嘘とは猛毒のカエルを身に纏っていることか? いや、それは真実だ。
ノナカの攻撃がリサに引っ付く毒ガエルを潰せばそこら中に体液が飛び散ることだろう。
ではその毒ガエルが足の踏み場も無いくらいに敷き詰められているということが嘘なのか? 
生憎ながらそれも真実。 赤やら黄やらの警戒色を示すドギツいカエルがそこら中にいる。
ノナカが今いる位置から一歩でも歩けば確実に潰してしまうに違いない。
では何が嘘だと言うのか……それがノナカには分かっていた。
超聴力でリサの心拍音を聞いたり呼吸の粗さを判別したりと、メンタリズム的な理由で気づいたのではない。
ノナカは自分の頭で考え、これまでの違和感を一つに繋いでみせたのである。

「あなたはどうして火傷を負うRiskを冒してまでわざわざ爆竹をハタきにいったの?
 まるでカエルを身を挺して守ったみたいに。」
「えっ?いったい何を言って……」
「あなたはどうして自分についてるカエルがPoisonを持つことを私に教えてくれたの?
 まるでカエルに攻撃してほしくないみたいに。」
「ちょ、ちょっと待って」
「あなたはどうしてカエルが絨毯みたいに敷かれていることを私に教えてくれたの?
 まるでカエルを踏みつぶしてほしくないみたいに。」
「……」

ノナカの質問責めに耐えきれなかったのか、リサはとうとう黙りこくってしまった。
ここまで来たらもう答えは決まったようなものだ。
要するに、リサには両生類を武器とする戦士として致命的とも言える欠点が存在していたのである。
鳥類を武器とするマナカのようには、また、魚類を武器とするチサキのようには、割り切ることが出来ていない。

「あなたはカエルを武器なんかしたくないんですね、だって、カエルをLove……愛しているから」
「……っ!」

図星だった。
これまでの違和感ある行動は全てカエルを傷付けたくないという思いから来ている。
武器を武器と思えない、両生類「カエルまんじゅう」に愛着を感じすぎている、それがリサ・ロードリソースの戦士としての弱点に他ならなかった。
となればノナカは勝利のVisionがすでに見えている。 目を瞑っていても明らかだ。

「今から言うことは脅しじゃありません……これからあなたに向かって忍刀を投げつけます。
 狙いはNeck……"首"です。一撃でかっ切ります。私の実力なら、まず、しくじらない。」
「……!!」
「もちろんあなたが毒ガエルのガードを解除しなければ毒液が飛び散ってノナカも無事じゃ済みません。
 ……でも、カエルがとっても大事なあなたはそうはしないでしょう?」
「馬鹿にして!!」

ノナカの挑発で頭に血が上ったリサは毒ガエルに更なる指示を出した。それは首の徹底ガードだ。
リサ・ロードリソースはこれでもカントリーガールズ、つまりモモコの愛弟子だ。勝利のためなら手段を選んではならない。
カエルが自分のために切り捨てられるのは断腸の思い……いや、それどころか半身を失うほどに苦しいが、
敵が首を狙うと分かっているのであれば他を疎かにしてでも毒ガエルを首に集結させることを躊躇わなかった。
そして毒液をノナカ・チェル・マキコマレルに飛ばして勝ち星を掴み取る……それが彼女の使命なのである。
だが、勝利するためにはリサ・ロードリソースはここで冷静にならなくてはならなかった。
ノナカがわざわざ「首を狙う」と宣言したことに対して違和感を覚えなくてはならなかったのだ。

「もう気を張らなくていいですよ、Relaxしてください。もう終わりましたから。」
「え?」

ノナカがそう言った時点で、リサは自分の腹から大量の血が流れていることに気づいた。
既に切られていたのだ。 音を司るノナカによって、無音で忍刀「勝抜」を投げつけられていたのである。
腹の傷はとても深く、失血による体力低下でリサはその場で膝をついてしまう。

「Sorry...私、嘘をついてました。 本当は首なんか狙ってません。」
「…………バカだ、私、本当にバカだ。」

リサが毒ガエルを首に移動させた結果としてお腹周りのガードが手薄になったことを、ノナカはカエルの呼吸音から判断していた。
だからノナカは刃で毒ガエルを潰すことなくリサを直接斬ることが出来たのである。
一点補足すると、ノナカがカエルをの居ない場所を斬った理由は毒液を受けたくない以外にもう一つある。
それはリサ・ロードリソースに対する慈悲。 彼女の思いを汲み取って、カエルへの被害が最小限になる勝ち筋を選んだのだ。
リサがカエルを犠牲にしてまで勝利するVisionを描けていなかったのに対して、
ノナカは殺す道と生かす道の両方のVisionを光なき闇の中でしっかりと思い描けていた。

ノナカとリサの勝負はノナカが勝利した。
勝因は、勝利のVisionを描く力の強さ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マリアがマイに対して挑戦状を叩きつけたが、それを受け入れる理由がどこに有るのか。
不意打ちを貰ったとは言え負傷度合いで言えば圧倒的にマリアが傷ついている。わざわざ土俵に乗っかる事なんて有り得ない。
普通に考えればそうなのだが、

「いいよ、受けてあげる。」

マイはあっさりとマリアの条件を飲んでしまった。これがマイなのだ。
もちろん彼女はこの性分を厄介だとは思っていない。

「有難うございまりあ。ペコりんこ。」
「感謝なんかいいよ、勝つのはマイだから。」

マイ・セロリサラサ・オゼキングという少女の出自は定かではないが、才能があり、それでいて良きコーチングを受けてきたことはマリアも気づいていた。
だが自分だって名コーチに遅くまで特訓に付き合ってもらったのだ。
その時の成果を活かすために、大きく振りかぶってからナイフを投げつけた。
対するマイはマリア・ハムス・アルトイネのナイフを打ち返すべく、このタイミングで美脚シークレットブーツを動かした。
そしてブーツをすぐに脱いだかと思えば、その一足を両手で持ち始めたのである。
それはまるで打者が持つバットのよう。マイはこれが一番飛ばしやすい打ち方であると気づいたのだろう。
後は最初にやってみせたようにナイフにブーツをぶつけるだけだ。

(なんか変だぞ?……)

身構えたマイだったが、ナイフがなかなかやって来ない。非常にスローに感じる。
さっきは「心臓を狙う」とまで言っていたのに、こんなヘナチョコを放るなんておかしい。
とは言えマイがやる事に変わりはない。
ここで完膚なきまでにぶっ飛ばせばマリアを意気消沈させることが出来る、そう思っていた。
ところが、打ちごろのナイフがマイの近くに来たところで突如ホップする。

(えっ!?……まずい!)

野球のルールを知らずにマリアの上をいっていた天才が、ここにきて初めて精彩を欠いた。
急激な変化に対応できず、マイはナイフに対してタイミングを合わせられなかった。要するに、空振ったのだ。
その投げナイフは何にも邪魔されることなく胸に突き刺さる。

「嘘だ……マイが打てないなんて」

痛みよりも真剣勝負に敗北したという現実の方がマイには堪えたようだ。
全身の力が抜けて、もう立てない程の悔しさを感じている。
しかしこの勝負には不可解な点が多い。 傍から見ていたロッカーは何が起きたのか全然わかっていなかった。

「なんだ?……普通の投球に見えたけど、なんで打てなかったんだ?……」
「あれは現代の魔球、"ツーシームジャイロ"!!」
「ドグラどうした?急に大声出しちゃって。」
「ジャイロボールの一種で、球に螺旋の回転を加えることで通常とは異なる投球を実現してるんだよ。
 なんでも、打者からはスローなボールに見えて、しかも終盤で浮き上がるから打ちにくいとか……
 それにしてもジャイロは習得難度が高く、今の球界にも使い手は少なかったはず……マリアは誰にこの投法を!?」
「マリアが凄いのは分かった。」

幼き頃から英才教育を受けてけたマイが打てなかった理由、それはマリアの魔球が新しい技術だった点にあった。
もちろんマイの父は新旧問わず優れた技術を戦闘に関連付けて教えてはいたのだが、
数年前からマイはモモコの下についたので、それ以降解明した技術はどうしても教えられなかったのだ。
もっともマリアはそんな背景事情なんて知らなかっただろう。
キッカという感謝してもし尽くせない存在に教わった投げ方で勝ちたい。 ただその一心で投げていたのだ。

「なぁドグラ……マリアも、そして他の同世代の戦士たちもなかなか驚かせてくれると思わない?」
「そうだね。タイサがあんなに主張してた理由が今ならよく分かるよ。」
「だからさ、俺は思うんだ! マリア達ならきっと俺たちを"普通の人間"に戻してくれるんじゃないかって!!」
「……」
「なんだよアヤパン、なんか言えよ。」
「……今は"ドグラ"だよ。たぶん、この先もずっと。」

場外の出来事も知らず、マリアはマイの近くに駆け寄った。胸に突き刺ささったナイフの手当てをしようと思ったのだ。
しかし、マイはそれを拒否する。

「辞めてよ、そんな優しさは要らない。さっさと仲間のとこにいきな。マイは動けないんだからチャンスでしょ。」
「でも! 」
「どうしても情けをかけたいって言うんだったら……一ヶ月後、再戦して。 それがマイの1番の願い。」
「えっ?」
「モモち先輩にお願いして一ヶ月だけパパに修行つけてもらうんだよ!そしたらマイはもう君になんか負けない!絶対に打つ! だから、もう一回だけ戦ってよ!!」
「うん、うん、分かった、何回でもやろうよ。マリアももっともっと強くなるよ!」

マリアとマイの勝負はマリアが勝利した。
勝因は、ほんのちょっぴりだけ先を行っていた野球の技術。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ハーチンは周囲を見渡した。 氷は割れはしたが水面にまだいくつか残っている。
これを利用しない手はないと考えたハーチンは華麗にジャンプし、よりチサキに近い氷に飛び移った。
この行動に戸惑ったのはチサキだ。 水中から脱出された時点で予想外だと言うのに、そこから逃げずに更に迫ってくるなんて恐怖でしかない。

(あの人をもう一度水の中に落とさないと……)

チサキは両手を合わせて水鉄砲を作った。 手の中の水を圧縮することで水流を外に飛ばそうとしているのだ。
ただしチサキの水鉄砲はそんじょそこらの子供の遊びとはレベルが違う。
赤面により高温になった自身の汗を混ぜ込んだ熱湯を、非常に高い水圧で噴出させていく。

(熱っ!!いや、痛っ!!)

チサキのお湯鉄砲は見事にハーチンの脚に命中した。その結果、ジャンプの勢いを失ってすぐ下の水に落ちてしまう。
落下した先には丁度チサキがいた。 水中でにらめっこする形になっている。

(良かった、ちゃんと落ちてくれた。 後はこのまま底まで沈めれば終わるんだ……)

泳ぎの得意なチサキは息だって普通の人より長く続く。 息止め勝負ならハーチンに完全勝利できるだろう。
さっきは魚をスピンで振り切られてしまったので、今回はチサキ自らハーチンの腕を掴みにかかった。
ところがここでハーチンが予想外の行動を取り始める。なんとチサキに抱きつきだしたのである。

(ペアの相手を付き合ってくれや!!)
(え?え?なに!?なんなの!?)

スケートにはソロだけでなく2人で魅せる競技も存在する。ハーチンはチサキを抱きかかえたまま、さっき自分がやったようにスピン&ジャンプで水上へと脱出する。
そして着地先である硬い氷面にチサキの背中を強く叩きつけた。

「ぎゃあ!……痛い……苦しい……水の中に入らなきゃ……」
「逃すと思うか!アホがっ!!」

慌てて退散しようとするチサキの背中に向かって、ハーチンは鋭い蹴りを繰り出した。
スケート靴のブレードがチサキの背の肉をぱっくりと切り裂き、多量の血液を噴出させる。

「ああああああああっっっ!!!」
「甘ったれんなや!まだ終わらんからなっ!!」

いたいけな少女が顔を真っ赤にして泣き喚いてる姿を見たら大抵の人は攻め手を緩めるだろう。
だがハーチンはそうしない。好機を逃すまいと更に二発、三発、四発の蹴りを入れていく。
ここまでされたらチサキも黙っていない。周りに水もないと言うのに水鉄砲で高圧の水流を飛ばし、脂肪の少ないハーチンの横っ腹を抉り取ったのだ。

「あああ!もう!あっち行ってよ!!来ないでよ!!」

チサキが飛ばしたもの、それは自身の血液。
高温の汗よりもグツグツに煮えたぎっている血を手中に集めてハーチンに噴射したのである。
水鉄砲を撃つための血なら十分大量に流している。ハーチンが近づく限り、チサキはこれを何回も発射することだろう。
しかしそれでもハーチンはひるまなかった。ガンガン接近し、ブレードでチサキの胸を蹴りつける。

「なんなの!!どうしてこっちに来るの!!」
「ウチが帝国剣士やからに決まっとるやろがい!ここで逃げて帰ったら先輩たちにどう顔向けしろ言うんや!!」
「はぁ!?さっきから剣なんて持ってないじゃない!」
「スケート靴がウチの剣や!剣の形をしてるかどうかは大したことやあらへん!大事なのは誇りや!剣士として戦うことさえ出来てれば立派な剣士や!」
「ええ?……剣士ってなんなの……?」

この時点では2人はもう限界に近かった。 
チサキは何か所も斬られて血を流しすぎているし、ハーチンだって酸素不十分のまま戦っているとこに血鉄砲を受けすぎている。
この状態で水に入ってももう何にもならないのかもしれないが、チサキは這ったままの姿勢でなんとか水場に到達し、小指だけ入れることが出来た。
しかしそれもそこまで。 阻止するためにやってきたハーチンに首を掴まれてしまう。

「あぁっ……」

チサキの願いは叶わず、自身のフィールドである水中に入ることはできなかった。だが、小指の一本だけは水面に触れている。
その時に発生した水の波紋は、チサキの思いを水中にいる魚たちに超音波のような形で伝えてくれる。
そして、その時のチサキの思いは「どんな形でもいい、勝てるなら剣士として戦ってもいい、だから勝ちたい!」というものだった。
主人のその強い思いに応えるために1匹の魚が勢いよく外に飛び出し、
ハーチンの胸を鋭いヒレで一閃、斬り裂いた。

「は?……え?……」

チサキのためにハーチンを斬った魚の名は"太刀魚"。 この魚の見た目と鋭利さはまさに刀剣のそれと言っても良い。
満身創痍のところに鋭い斬撃を受けたハーチンはたまらず倒れてしまう。

「どういうこと?……私、勝ったの?……」

ハーチンとチサキの勝負はチサキが勝利した。
勝因は、水中に潜む刃を引き出した彼女の可能性。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マナカからマリアが劣勢との情報を聞いたとき、アカネチンは耐え難い恐怖心に襲われていた。
たまにワケの分からないことを言う奇人ではあるが、マリアの実力は本物だと強く信じている。ハーチン、ノナカともども頼れる同期だ。
そんな同期が追い詰められたと聞いて、もう自分を助けてくれる人は居ないのではないかと恐怖したのである。
このまま弱気なままだったらアカネチンは順当に敗北したことだろう。 ところが、帝国剣士としての誇りを持つ彼女はそうしなかった。
両頬をパン!と叩いて気合いを入れ直し、同期がピンチなら自分が助けねばと心を入れ替えたのだ。
そしてアカネチンは自分が恐怖したことから戦いに勝利するためのヒントを得た。 恐怖しない動物は存在しない。そこに解決策がある。
大抵の動物は自分より強い動物に恐怖する。 しかしアカネチンは強者とは言えない。 ではどうすれば良いのか?
ならば「強い動物に見せかければ良い」、アカネチンはそう結論付けた。
そこからのアカネチンの行動は早かった。 印刀で地面をガリガリと削り、巨大な円が何重にも重なっている絵を描いたのである。
そしてここからが最後の仕上げ。言わば画竜点睛。 その円の中心に自ら飛び込み、マナカによる天からの投石を誘導したのだ。
マナカの磁石がちゃんと自分に吸い寄せられるように、アカネチンはこっそりと地上に落ちてた磁石を拾い上げて頭の上に置いていた。
遠い空にいるマナカの視点からは、自分の投げた石がまっすぐにアカネチンの方に落ちて、見事頭部に衝突したように見えたことだろう。
こうしてアカネチンは何層も重なった円のど真ん中で気絶したフリして横たわることが出来た。
この絵を見た途端、カラス達はパニックを起こす。 アカネチンが書道で鍛えた表現力のおかげでそのイメージがカラスの脳内に直接入り込んだのである。
全てのカラスが思い思いにそこから逃げようとしたものだから、空中のマナカはコントロールが取れなくなる。

「ちょ!ちょっと!みんないったいどうしたっていうの!? あの絵がなんだって言うのよ…………あっ!!!」

ここでマナカはその絵が何なのかようやく気づくことが出来た。
それは「眼」の絵。
巨大なバケモノの大きい瞳が地上から自分たちを睨んでいるように見えたのである。
農家の人々が鳥よけのためにハデな色をした目玉のマークを設置することを聞いたことが無いだろうか。 アカネチンはそれを数段大掛かりにしたものを作り上げたのである。
こうなればカラスはもう言うことを聞かない。 武道館のてっぺんほどの高さにいたマナカはもう空に留まることが出来ず、無惨にも地に堕とされてしまう。

「嫌ぁぁあ!!!」

グシャッと言う音が鳴った。何かが潰れた音だ。 その光景を見たくなかったアカネチンは必死で眼をそらす。
あの高さから落ちたのだから勿論無事では済まないだろう。 アカネチンは同期達を助けるために、既に別の方向を向いていた。

「みんな待っててね、今すぐ行くから。」

アカネチンとマナカの勝負はアカネチンが勝利した。
勝因は、同期愛の強さ。

.
..
...........

と、決めつけるのはまだ早かった。

ガン!!という打撃音とともにアカネチンの頭に激痛が走る。

「え!?え??」
「待ちなさいよ……勝負は終わってないんだから。」

彼女は鳥使いで終わる人間ではなかった。
そう、彼女自身が鳥なのだ。
空から落とされても、あちこちの骨が折れようとも、血反吐を吐いたとしても、
"不死鳥"マナカは使命を果たすまで何度でも蘇る。

「勝つのは私!!ここで終わりなんて絶対に認めない!!!」

マナカは磁石でアカネチンを何度も何度も殴った。アカネチンが動かなくなるまで殴った。
そして勝利を確信するや否や、糸が切れたように眠りだす。

訂正する。
アカネチンとマナカの勝負はマナカが勝利した。
勝因は、もはや愛とも呼べる、生への執着の強さ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ハーチンとの一戦を終えたチサキは1人歩いていた。
勝利したとは言っても大怪我人なので満足に歩けるはずがないのだが、
自分たちの師であるモモコと交わした2つの約束を守るためにチサキは足を止めなかった。
その約束とは「どんな事があっても暗器を返しに来ること」、そして「どんな事があっても帰還してくること」の二点だ。
昨日、暗器をレンタルしたときに、なんらかの理由で別れて戦う際のルールとして定めていたのである。
どんな事があっても……それはつまり、大怪我を負ったとしても帰ってこなくてはならない事を意味している。
更には敗北したとしても、動けない状態にあったとしても、このツグナガ憲法を破ることは決して許されない。
この約束にどんな意味があるのかは正直言って分からなかったが、必ず守らなくてはならない。
だからチサキは怪我をおして他のみんなの所にゆっくりながらも進もうとしている。

(みんな……無事、だよね?)

チサキは心配していた。
カントリーの仲間が負けることはないと固く信じているのだが、
自分が相手したハーチンは想像していたよりずっとずっと強かった。
それと同等の力を持つと推測できる新人剣士とガチンコでやり合ったら、負けないにしても動けない状態には追いやられてるかもしれないと思ったのである。
そんなチサキが、リサが得意とするフィールドである木陰地帯にたどり着いた。
その時の反応は言うまでもなく絶句。
リサ・ロードリソースが大量の血を流して目を閉じている様を見て、チサキはひどく動揺してしまう。

(嘘……リサちゃん負けたの?……敵は!?敵はどこに……!!)

辺りを見回したがそこには誰もいない。いるのは何百何千ものカエルばかり。
その敵がリサを倒してさっさと他の場所へ向かったというのは想像に難くなかった。
これでチサキは気づく。 カントリーガールズは自分以外全敗の可能性があることを理解したのだ。
(※実際はマナカが勝利しているが、今のチサキはそれを知り得ない。)
となればこれからチサキは他の仲間のいる場所にも訪ねて、モモコとの約束を果たすためにレンタル暗器と仲間を全て運ばなくてはならない。
チサキの借りた風壁発生器、マイの借りた美脚シークレットブーツ、リサの借りたビンタ強化金属はなんとか持っていく事が出来るかもしれないが、
マナカの借りた超強力電磁石や、リサ、マナカ、マイらはチサキが1人で運ぶのは骨が折れる。
どうすれば良いのか狼狽したところで、カエル達がリサに集まり始めた。
そしてなんと、彼らの力を集結させてリサをひょいと持ち上げたのである。

「えっ?……助けてくれるの?」

普段はリサの指示しか聞かないカエル達が協力してくれるというのだからチサキは驚いた。
実はこれもリサの指示。 
リサ・ロードリソースが気を失う間際、チサキが考えたのと同様にカントリー全滅の可能性に気付き、瞬時にカエルに命令を出していたのである。
その内容は「自分たちに被害が及ばないレベルでマナカ、マイ、チサキを助ける」というもの。 
運搬を手伝う程度であれば命令の範疇内だ。

「ありがとう、それじゃあ次はマイちゃんのところに行こうか。 マイちゃんは強いから、もう敵を倒しちゃってるかもしれないけど。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



●場面1 : 武道館東口 「チームダンス部 vs ...」

キュートの最年少マイマイの助けもあってダンス部らは壁を破る事が出来た。
これでやっと裏口を通れるようになった。 要するに、奇襲を仕掛ける事が可能になったのだ。
後はマーサー王とサユのいる場所に直行して救い出せば良いだけなのだが、
そうは問屋が卸さなかった。

「みんな伏せて!!」

チームダンス部が武道館の内部に一歩足を踏み入れるかと言ったところで突如ナカサキが叫び出す。
そしてその直後に膨大なエネルギーを持つ打撃が彼女らに襲いかかってきた。
その不意打ちになんとか対応できたのはキュート2名。
ナカサキは二本の曲刀で、マイマイは斧で攻撃を受け止めたが、非常に苦い顔をしている。 あまりの衝撃に受け止めた手を痺らせたのだろう。

「そんな……通れると思ったのに……」

カリンの目の前、武道館の内側にはよく見知った人物が立っていた。
その人は化け物集団ベリーズの中では身体が小さく、オーラだって天変地異を巻き起こしたりしない。
なんせ"無"なのだ。当然だろう。
そんな人畜無害な見た目をする敵に対してサヤシ、アユミン、サユキ、カリンは恐怖した。
もちろんこれは恥などではない。 ベリーズを束ねるキャプテン、シミハムを前に無傷で済む者など存在しないのだから。
そんなシミハムに対してナカサキが声をかける。

「ちょっと驚いたけど、ここでシミハムが登場することはなんとなく予想してたよ。 一撃目を受け止めたのがその証拠。」
「……」
「そしてシミハムの対策は若い子たちにもレクチャー済み……この勝負、楽に勝てるとか思わないでね。」
「……!」
「マイマイ、準備はいい?」
「チェケラー!」

マイマイの珍妙な合図とともに、サヤシとカリンがシミハムに飛びかかった。それも左右から挟み撃ちするかのようにやってきたのだ。
だがこの程度を捌くなんてシミハムにとっては朝飯前。 得意の三節棍を右に飛ばしてカリンを跳ね除けたかと思えば、その勢いで反対側のサヤシまでも吹っ飛ばしてしまう。
こうして実力差を見せつけることで若手を怯ませようとしたシミハムだったが、思惑通りにはならなかった。
サヤシとカリンが飛ばされたのと同じタイミングでアユミンとサユキも立ち向かってきたのである。
もちろんシミハムはこれにも対応する。 新手だってたったの二発殴れば引っ込める事ができる。
ところが若手たちは諦めなかった。 
アユミンとサユキがやられたらサヤシとカリンが復帰し、またサヤシとカリンがやられたらアユミンとサユキが戻ってくる……という流れを延々と続けて行く。
更にそのローテーションにナカサキとマイマイも加わるものだからシミハムには休む暇が無くなってしまった。
ここでシミハムは相手の狙いに気づく。

「どう?シミハム、こうも連続で相手されると存在感を消す暇がなくなるでしょ」

ナカサキの言う通り、誰かに触れ続けている間はシミハムは自分の存在を無にすることは出来なかった。
となれば最も有効な戦法である不意打ちを使う事が出来ない。
このままだとガチンコ勝負を強いられ続けてしまうのである。
この無限ループを可能にしているのはダンス部らの激しい運動量だ。 疲労にも負けず、絶対に勝つと言う意思をもって食らいついている。
もちろんシミハムだってそう簡単に負けるつもりはないが、キュート2名を含んだメンバーを相手し続けるのは流石に骨が折れる。
既にシミハムは汗だく。 このまま継続すればジリ貧と言ったとこだろう。
これには多くのメンバーが手応えを掴んだ。歓喜した。
しかし、サヤシはなんとも言えぬ違和感を覚えていた。

(シミハムはいつも2人以上のチームで勝負を仕掛けてきたと聞いちょった……
 時にはミヤビを、時にはクマイチャンを無にすることで有利に振る舞ってたはずなんじゃ。
 今回はどうして1人だけなんじゃろか……いや、それともまさか)

その時、シミハムの攻撃を受けていなかったはずのアユミンが吹っ飛ばされた。
しかも何やら様子がおかしい。 胸に空いた小さな穴から血液を流しているようだが、シミハムの棍ではこのような外傷にはならないはず。
そしてなにより、アユミンがひどく苦しみもがいている。 まるで呼吸困難になったかのような苦しみ方だ。
それを見てナカサキとマイマイは攻撃の正体にやっと気づいた。
シミハムもニヤッと口元を緩ませ、これをチャンスだと思い、今まで"無"にしていた者を解放する。

(え?……ここは海の中?)

自分たちは武道館の入り口にいたはずなのに、アユミンには周囲一帯が海の奥底に見えていた。
それもそうだろう。
何故なら、ここは人魚姫(マーメイド)の支配する領域なのだから。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アンジュ王国では王のアヤチョと裏番長マロが談話していた。
話題は今現在、武道館で行われている戦いについてだ。

「ねぇカノンちゃん、タケとムロタンとマホちゃんはもう武道館についたかな?」
「時間的にそろそろってとこじゃない? まぁ、あのマイマイ様がついてるんだから迷って遅刻ってことはないでしょ。」
「あの人ね、急に来たからアヤびっくりしちゃった。」
「私もよ。 ま、タケ達は進軍できなかったことを悔やんでるようだったから丁度良かったね。渡りに船ってやつ。
 国防に関しては舎弟2人がいれば十分だし、アンジュ王国的には全然問題ない。」
「ウチから7人も送り込んだんだから、ハルナン褒めてくれないかなー。」
「どうかしらね。あの子たちが成果でも出せば感謝してくれるんじゃない?」
「成果出すでしょ。 アヤよりずっとずっと弱いけど番長はみんな強いよ。」
「うーん、相手がベリーズ様だからなぁ~……特に宇宙一強いクマイチャン様と当たったりしたら全滅しちゃいそう。」
「あははは、宇宙一はないよ。カノンちゃん馬鹿だね。」
「ムッ……前から言いたかったんだけどさ、アヤチョはベリーズ様をナメすぎじゃない?もうちょっと敬意ってものを……」
「ナメてなんかないよ。ナメられるわけがない。」
「ん?……」
「何年か前にね、アヤが山奥の滝で修行したことがあったんだ。 その時のアヤは精神が研ぎ澄まされて本当に無敵って感じだった。
 万能感、全能感に包まれて、どこの誰でも良いからとっちめてやりたい気持ちになったの。」
「物騒な……で、そこでアヤチョはベリーズのどなたに負けたの?」
「えっ!カノンちゃん凄い! アヤまだ何も言ってないのにどうして分かったの?」
「いいから続けて。」
「うん、山を降りたら凄い強そうな人がいたから決闘を申し込んだの。背後から不意打ちを喰らわせたんだ。」
「それは決闘を申し込んだとは言わない。まぁいいや、続けて。」
「そしたらね、次の瞬間アヤは溺れちゃった。」
「……うん。」
「ベリーズ戦士団のリシャコ、あの人には絶対に勝てないって思った。 ほら見て、思い出すだけで指が震えるの。」
「でしょうね。」
「たぶんあの人は今のベリーズの中で最強だと思う。 そうじゃないとあの強さは説明できない。」
「ふふん。」
「なんでカノンちゃんが得意げなの。」
「だって、リロは私の親友だから。」
「はぁ~?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アユミンには自分が本当に海の奥底にいるかのように思えていた。
リシャコの見せる"深海"のビジョンのせいだけでそう錯覚しているワケではない。
胸を槍で一突きされたその時から、全くと言っていいほど酸素を体内に取り込めていないのである。
口を大きく開けて息を吸おうとも、必死でもがこうとも、どんどん意識が朦朧としてくる。
もはや限界だと思った時、マイマイが走ってきてアユミンに強烈なボディーブローを叩き込んだ。
これは決して裏切り行為ではない。 アユミンを救助するためにこうしたのだ。
この一撃で横隔膜がググッと上がって、肺の内部に含まれる異物を口から吐き出させることに成功する。
その異物とは"血液"だ。 ほんの数滴の血をアユミンは吐き出していく。

「ゲホッ……ゲホッ……」
「手荒でごめん。この方法しかなかった。」

アユミンがなぜ苦しんだのか、一同はすぐに理解した。
彼女らは事前にキュートから、ベリーズ最後の一人であるリシャコの特殊技能について教わっていたのだ。
異国の美女を彷彿とさせる顔立ちのリシャコは三叉槍の名手であり、ふくよかな体型の割にはベリーズで一番の瞬足だとも言われている。
そして他の食卓の騎士同様に殺気も凄まじく、深海のオーラを放つことが出来る。
だが、彼女の真に恐ろしい点はそんなことではない。 特筆すべきは"眼"だ。
アカネチンやアイリのように常人とは異なる世界がリシャコの眼の前には広がっているのである。

「私には分かるんだ。 君を溺れさせる一点が。」

歴戦の経験から、人体のどこを傷つければ肺の内部に血液を送り込むことが出来るのかリシャコには見えている。
人間は簡単に溺死する動物であり、肺の中にほんの数CCの水を入れるだけでもがき苦しむという。
人体は気管に水が入った時点で咳き込むように出来ているので、そうそう肺の中に水が入り込むことは無いのだが、
リシャコは槍で肉体に穴を開け、直接血液を注入することで無条件に溺れさせることが出来るのである。
アユミンが苦しんだ理由も同じ。 リシャコはほんのちょびっとの傷をつけるだけで人を死に追いやれるのだ。
そして、リシャコの怖い点はもう1つある。

「ナカサキ、マイマイ、さっきから全然攻めてこないけど……私を放っといていいの?」
「「……」」

ナカサキとマイマイに闘志が無いはずがない。今はただただ攻めあぐねている。
リシャコには「暴暴暴暴暴(あばばばば)」と呼ばれる超反応のカウンター技術が備わっており、
敵から攻撃を受けた際には100%必ずその方向に対して鋭い槍撃を返すことが出来る。
その一瞬だけ我を失って意識が飛んでしまうのが難点ではあるが、現在のリシャコはその空白期間を0.1秒まで短縮している。
このカウンターは不意打ちにも有効であり、かつてアンジュ王国のアヤチョ王でさえも一撃でねじ伏せたと言う。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ナカサキとマイマイに手が残されていないという訳ではなかった。
リシャコはカウンターこそ鋭いが、通常の攻撃は反応出来ないほどではない。
なので防戦を意識して戦えば隙を見出すことが可能なのだ。
しかし、チームダンス部にはそんな悠長に構えている暇はなかった。 この状況を速攻で切り抜けてマーサー王とサユを救い出さねばならない。
その思いが焦りを生んだのか、サヤシとサユキ、そしてカリンの3人が同時にリシャコに飛びかかっていく。

「ちょっ!何やってるの!!」

ナカサキが声を掛けようとも3人は止まらなかった。
ハタからは無策に見えるが彼女らにも考えがある。リシャコの無敵の特性の裏をかく起死回生の一手を見出したのだ。
サヤシ、サユキ、カリンは単体では食卓の騎士には敵わないものの、一流の戦士であることは疑いようのない事実。
すぐに対応を考えて、咄嗟のアイコンタクトで意識を合わせるくらいは難なくやってのけた。
そして、寸分違わぬ程の完全に一致したタイミングでリシャコに殴りかかることだって彼女らには可能なのだ。

(ウチら3人で同時に攻撃を仕掛ける!)
(こうすれば誰にカウンターを当てれば良いのか分からなくなるでしょ!)
(もしもカウンター出来たとしても貰うのは一人だけ……残り二人からの攻撃は避けられない!)

波状攻撃ではなく、全くの同時攻撃。これこそがリシャコを喰らう最善の策だと考えていた。
だが、それはあまりにもリシャコを甘く見すぎている。

「ふぅ……無駄だと思うよ。」

そう言葉を残した直後、リシャコは修羅へと変貌を遂げる。
リシャコの得物は長い槍。 その槍による突きだしでまずは右側から来るサヤシの胸に穴を開けた。
その次は背後から迫るカリン目掛けてノンストップで二度の突きを放った。
最後は上空。 一瞬にして槍を引き寄せて上から落ちて来るサユキの肺にも血液を送り込む。
対処にかかった時間はそれぞれ0.1秒。合計して0.3秒。
同時に攻撃を仕掛ける案自体は悪くない。しかし、それを有効打に変えるには条件がある。
3人程度ではなく100人がかりで攻めること。 あるいは、槍撃を10発はもらっても無事でいられる者が攻めること。
そのどちらかを満たせない限りはリシャコの時間をほんの数秒も奪うことは出来ないだろう。

「だから言ったでしょ、無駄だって。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



(くっ……このまま溺れるワケには……)

サユキは両手の鉄製ヌンチャクをグッと強く握り、味方であるはずのカリンとサヤシの腹に先端部を強くぶつけた。
先ほどマイマイがアユミンにやったように、二人の肺から血液を排出させようとしているのだ。
深海の苦しみの中で力を入れるのは一苦労だったが、サユキはそれを見事にやってのけた。

「ケホッ……ケホッ……」
「ありがとう、サユキ……」

二人を助けたらお次は自分だ。 カリンに当てたヌンチャクをぐるりと回すように引き戻すことで遠心力を働かせ、
必要最小限の労力で自分の腹に強烈な一撃をぶつけていく。

(うっ!!……分かってたけだやっぱりキツい……)

鳩尾にヘビー級のボクサーがパンチするようなものだから苦しく無いはずがなかった。
だが、溺れて気を失うよりはずっとマシ。 これで3人はまだ戦える。
サユキはリシャコに向けてビシッと指差して、挑発するように言い放つ。

「確かに恐ろしいカウンターだけど、致命傷には程遠いよね……これくらい、全然対処できちゃうよ?」
「うん、そうだと思う。」
「!?」

リシャコが素の顔のまま簡単に返したので、サユキは逆に心を乱されてしまった。
アイデンティティとも言えるカウンターに耐えたと言うのに、何故にこうも落ち着いているのだろうか?
ワケがわからなくて頭の中が混乱しているところに、ナカサキが強めの声を発した。

「あなた達、もう自分からリシャコに仕掛けるのはやめな!……カウンターはもう貰っちゃダメ。 時間はかかるけど向こうから攻めてくるのを待つの。それならまだ防げるから!!」

ナカサキは一撃必殺でもなんでもないリシャコのカウンターをひどく警戒していた。
例えマーサー王とサユを救い出す時間が延びようとも、安全策を選ぼうとしているようだ。
しかし、それが本当に安全策と言えるのかは疑問だった。

「ねぇナカサキ、私の普通の攻撃なら防げるって言った?」
「そうよ。驕りなんかじゃない。これまで何百回も手合わせしてるんだから実力くらい知れている!!」
「うん、そうだね。 食卓の騎士の訓練ではタイマンでの真剣勝負をよくやったね。
 でも……今はちょっとちがうんじゃないかな?」
「えっ?」

次の瞬間、周囲に響き渡るような轟音と共にナカサキの脚が破壊された。
今までリシャコに注力していたあまり、忘れてはいけない存在を忘れてしまっていたのだ。
その名はシミハム。
目一杯力を込めた三節棍をぶつけることでナカサキの機動力を根こそぎ奪ったのである。

「シミハム!!!!よくも……」

この時、一同の視線はシミハムへと注がれた。
つまり、リシャコから目を離してしまっている。
ここでシミハムがちょいと"無"が包み込む範囲を変えてやれば誰もがリシャコの存在を忘れることになる。
結果、リシャコはなんの苦労もすることなくナカサキの胸に槍を突き刺すことが出来た。

「……!!」
「ほら、普通の攻撃も防げない。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



「くっ……ぐぐぐぐ……」

ナカサキは確変の応用で体内の器官を無理矢理にでも動かしていった。
肺と気管をポンプのように伸縮させて微量の血液を喉へと送り出す。これでひとまず溺死は免れた。

「そんな事も出来るんだね。人間じゃないみたい。」
(リシャコ……私から見たらあなたの方がよっぽど怪物なんだけど!)

しかし安心したのも束の間。 すぐにまた大きな音が鳴ったのでナカサキはついそちらを見てしまう。
そこではリシャコと入れ替わるように存在感を消していたシミハムが、マイマイの腹に打撃を食らわしていた。
さっき自身を無で包んでからそれほど時間が経っていないため三節棍に力を込められておらず、
マイマイが負うダメージもそれほどではないのだが、
シミハムの攻撃の目的はどちらかと言えば視線を自分に向けることにあった。
ナカサキもそれに気づくがもう遅い。

(しまった!!このままだとまた忘れてしまう……忘れちゃう…………何を、忘れるんだっけ?)

もうチームダンス部の頭の中にリシャコは存在しない。その情報は完全に欠落している。
彼女らには強敵シミハムが前に立ちはだかっているようにしか思えていなかった。
その強敵を打倒するために、サユキが声を上げる。

「さっきみたいに圧倒的な運動量で制圧しましょう!シミハムが消える隙を与えないために!」

サヤシ、アユミン、サユキ、カリンは急いでシミハムに立ち向かおうとした。
しかし、身体が満足に動かない。 非常に息苦しくて脚が重いのだ。
なぜ自分たちはこのような状況にあるのか? 
そのことを、たった今現れたリシャコがアユミンの胸を一突きしたことで理解する。

「リシャコ!!」
「そうか……私たちが動けないのって……」

満足に動けない理由、それはリシャコに溺れされかけたからに他ならない。
よく考えてみてほしい。海水浴で溺れかけた後に全力疾走できる人がいるだろうか?いないだろう。
サヤシも、アユミンも、サユキも、カリンも一度リシャコに胸を刺されている。
血液を排出できたから問題が無いと思ったら大間違い。 生還したとしてもまともに動けなくなってしまうのだ。
普通は救助された後は数分間は安静にしないといけないはず。
では、短期間に二回も溺れさせられたアユミンはどうなるのだろうか?

「ーーーッッッ!? ーーーーーーーッッッッ!!!!」

アユミンは地面にうずくまり、先ほど以上に苦しみもがいていた。
地獄の苦しみであることはもはや説明するまでも無いだろう。 リシャコの繊細な一撃は人をこうも苦しめるのである。

「可哀想……このままだと本当に溺れ死んじゃうよ。
 でもね、私は女の子が苦しむ姿を見たいわけじゃないんだ。
 もう安心していいよ。 ウチの団長がお腹を叩いて血を吐き出させてくれるみたい。」

リシャコがそう言うと同時に、"無"から三節棍が高速で飛び出してくる。
直線的に放たれたそれはアユミンの胴体を強く押し出し、遥か後方まで吹き飛ばす。

「アユミン!!!」

サヤシが叫んだ時にはもう遅かった。
飛ばされたアユミンは今いる二階から地面へと突き落とされてしまう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アユミンの身軽さなら二階から落ちてもリカバリーできるはず。
だが今の彼女は二回も溺れているのだ。 そんな状態でくるくるアクロバットを決めれる者がどこにいるだろうか。
受け身を取れず地面に落下したであろうことは想像に難くない。

「アユミン……!」

同士の戦線離脱を間近で見たサヤシは当然のようにショックを受けていた。
それでもここで呆然として良いわけがない。 気を病む間も無く居合刀を構えてシミハムへと斬りかかる。
リシャコの攻撃を受けた後なので呼吸はひどく困難だが、気合と根性で足を動かしていく。

(消える前に斬る!必勝法はそれしかないじゃろ!)

敵を間合いにさえ入れてしまえばサヤシの斬撃は速い。 食卓の騎士だろうと深くまで刃を入れれば致命傷になるに違いない。
しかし、間合いを重要視する点はシミハムだって同じ。 
相手のリーチ以上、かつ、己のリーチ以下の距離を見極めて、そこにサヤシが到達した時点で棍を肩に叩きつける。

「ぐっ……」

この時のコツは打撃音を大袈裟に出すことだ。これでチームダンス部らの注意を引くことが出来る。
それはつまりリシャコがフリーになるということ。
無のオーラは注目を浴びなくなった彼女の存在感を無条件に消失させていく。
シミハムのタッグ戦はこのサイクルの繰り返し。
これを打ち破れない限りはシミハムの作ったセットリストに沿ってダンスし続ける続けるしかないのだ。
だが、ここでその予定調和にアドリブを加えてやろうと考える者が現れる。
その名はカリン。キュート戦士団長マイミに最後まで抗った女だ。
ベリーズ戦士団長シミハムを崩すキッカケもこのカリンが作り出す。

(忘れちゃう……だめ、忘れる前にやるべきことをやるの! 私の"早送りスタート"で!!)

カリンは両手に釵を持って、自身の動きを超加速をせる必殺技「早送りスタート」を発動させた。
とは言ってもシミハムやリシャコにダメージを与えるために加速したわけではない。
攻撃の矛先は自分自身。 それもリシャコに貫かれて傷になっている胸を釵で何十回も斬りつけたのだ。
そんな自殺行為をするものなのだから周りは注目せざるを得なかった。シミハムやリシャコだけでなく、味方のナカサキ、マイマイ、サヤシだって奇異の目でカリンを見ている。

「カリン……いったい何をしてるんじゃ?……」

カリンはサイボーグと呼ばれてはいるが身体は当然生身。 リシャコにやられた時以上に痛々しく血をダラダラと流している。
それでもこの行為には意味があった。 これからの功績を考えれば服ごと開けられた穴なんて些細な代償だと考えているのだ。

(胸元のあいた服を着た私の、サインに気づいて!!)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



カリンの奇行にリシャコは戸惑った。
自分の胸を滅多刺しにするという行為は、リシャコの攻撃を意識してのことなのは明らかなのだが、
その意図が読めない。何を考えているのかさっぱり分からない。
何を血迷ったらこんな自傷をする考えに至るのだろうか?

(傷でグチャグチャになった胸なら肺を突き刺さないとでも思った?
 残念だけど、君を溺れさせる一点は今も私の眼に見えているよ。)

自分の技量を、そして自慢の眼を甘く見られたと考えたリシャコは不機嫌になり、眉間にシワを寄せた。
そしてカリンに苦しみの一撃を与えるために三叉槍を構えだした。
だが、ここでリシャコの頭に一つの懸念がよぎる。
カリンはリシャコの攻撃を誘導するためにわざと挑発的な行為をしたのではないかと思ったのだ。

(このまま君を溺れさせるのは簡単だよ……でも、今の君は目立ちすぎている。
 きっと、突き刺した瞬間、消えてた私の存在はみんなに気づかれちゃうんだろうね。
 動けないナカサキはともかくマイマイはほとんど無傷……自分を犠牲にしてマイマイにカウンターを入れてもらうのが狙いか。
 だったらカリンちゃん。君を攻撃しなければ良いよね。)

リシャコは文字通り矛先を変えた。 新たな攻撃対象はマイマイだ。
無のオーラのおかげで絶対に認識されない一撃を、マイマイの胸に突き刺そうとする。
……のだが、その刃は肺までは到達しなかった。

「そこだ!!!」
「!!?」

マイマイは巨大な斧を振り回し、リシャコのお腹に刃を入れた。
槍と斧のリーチ差や、リシャコの腹の脂肪が常人よりちょっぴり厚めだったこともあって致命傷には至らなかったが、
それでも血液はドクドクと止まらずに流れている。

「どうして?……どうして、私がいることが分かったの?……」

リシャコにはマイマイに反撃を受けた理由が理解できなかった。
シミハムの力が弱まって存在を消せきれなかったのかとも思ったが、そんな事はない。
現にマイマイは槍が胸に突き刺さるその瞬間までリシャコの姿が見えていなかった。
ただ、リシャコの取るであろう戦法だけは頭から消えていなかったのだ。

「凄いねカリンちゃん。おかげでリシャコに一発当てられたよ。」
「お役に立てて……光栄です……」

カリンが残した強烈なサイン。それには「胸を痛めつける敵がこの場に存在する」というメッセージが込められていた。
シミハムを認識しているのだから、正体までは分からなくても「姿を消されている誰か」がいるかもしれないことは皆が念頭においている。
そんな中で胸にちょっとでも痛みを感じれば、誰もが目の前の敵に対して必死で抵抗することだろう。
その結果としてマイマイはリシャコを斬ることが出来たという訳だ。
この流れはベリーズの中でも頭の悪い4人に含まれるリシャコには理解しにくかったようだ。

(どうして!?……どうしてなの?、全然分からない。
 いや、でも大丈夫。 今は私が目立ってるからみんなシミハムに注目していないはず。
 あとはシミハムがなんとかしてくれる!!)

確かにリシャコの思う通り、ナカサキとマイマイ、サヤシにカリンはリシャコの方を向いている。
ところが、ただ1人だけシミハムから目をはなさない者がいた。
それはKASTの1人、サユキ・サルベだ。
カリンのことだからあの奇行には意味があると確信したサユキは、何が起きようともシミハムを凝視し続けていたのだ。
それどころか、これ以上好き勝手に消えたりさせないためにヌンチャクを三節棍にぐるりと巻きつけている。

「……!!」
「へへ……もう逃がさないよ。私はアンタを忘れない。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイミがクマイチャンの肉に指を食い込ませた時に存在を無に出来なかったのと同じように、
サユキに三節棍を掴まれてしまえばシミハムは姿を消すことが出来なくなる。
もちろん武器を手放せばフリーになるので無のオーラの力を行使できるのだが、
マーサー王誘拐時にマイミ1人を相手取った時と違って今はキュートが2人も存在している。
この状況で手ぶらになるのは流石に心許ないと考えたのである。
ならばやる事は一つだ。 シミハムではなくサユキに武器を手放して貰えば良い。
シミハムの強みは無のオーラや三節棍だけではない。 舞踏を舞うかの如き体捌きこそが真骨頂。
彼女はこの場にいる誰よりもダンスをうまく踊る自身があった。

「ハッ!……」

サユキが気づいた時にはシミハムは既に背後に回っていた。
存在感を消したわけではない。ただのフットワークで一瞬にしてここまで到達したのである。
棍から手を放さないままなので動きが制限されそうなものだが、それでもこの高速移動を実現しているのだから大したものだ。
そしてもう片方の手を挙げて、サユキの首めがけて一気に振り下ろそうとする。

「危ないっ!!」

突然の大声と共に、シミハムの背中に何者かの頭部が突き刺さった。
ロケットのように飛んできたのは下半身を負傷していたはずのナカサキだ。
だが驚くことはない。ナカサキは人体操作で筋肉を自由に操ることができるため、
腕を最大限に強化すれば自分ごと吹っ飛ばすことくらいは可能なのである。
激痛で声無き絶叫をしたシミハムは、我に返るや否やすぐに体勢を整えようとするが、
そこにマイマイまでやってきたので簡単にはいかなくなる。 
姿も消せず、棍も満足に使えない今、どうやってナカサキとマイマイを凌げば良いのだろうか。
なかなか骨が折れる作業だなとウンザリする一方で、シミハムはある種のチャンスだとも考えていた。
それはリシャコがキュート戦士団のマークから完全にハズれたことに関連している。
カリンの奇策のせいで、存在を無にしてからの胸への一撃……という戦法はとれなくなったが、
そんなことをしなくてもリシャコは十分強い。
ここでカリンやサヤシをさっさと片付けてもらえば人数上の不利はほとんど消えるのである。
そう考えてリシャコの方を一瞥したシミハムだったが、ここでまた驚かされることになる。
なんとカリンがリシャコにパンチを仕掛けようとしていたのだ。

「えいっ!」

ご存知の通り、リシャコには超反応のカウンター性能が備わっている。
どんな攻撃だろうとたった0.1秒間で返してしまうのは何度も見せただろう。
今のカリンは「早送りスタート」の影響で拳のスピードが何倍にも速くなっているのだが、
いくら攻撃を速くしたところでリシャコの反応速度には敵わない。
どうあってもカウンターから逃れる事は出来ないのである。
つまりは自殺行為。
だが、シミハムには過去の実績からそれが考え無しの愚か者の行動には思えなかった。
何かある……そう確信している。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイマイに斧で斬られたとは言え、リシャコのカウンターが鋭いことには変わらない。
攻撃をされた方向に向かって、0.1秒という短さで正確無比な一撃を繰り出している。
これではカリンはいくら必殺技による超スピードを手に入れたとしても槍撃から逃れる事は出来ないだろう。
それはカリンも十分理解していた。苦しみを受け入れる覚悟だって出来ている。
ただし、その槍を胸で受け止める気は全くなかった。

(0.1秒あれば、打点をズラせる!!)

カリンがこの極々僅かな時間にとった行動は、ほんの数センチ身体をズラしただけだ。
その程度の移動は回避にはならない。槍の刃は貰わざるを得ない。
だが、その鋭い一撃を加えられるポイントが滋養強壮効果を高めるツボに変わったらどうなるだろうか?
早送りスタートによる酷使でカリンの身体には大きな負担がかかっているが、その負荷が軽減されるのではないか?
カリンはそれに賭けていた。
これまで何回かマーチャンに(チナミ譲りの)針治療を受けたことがあったので、どこを刺せばどうよくなるのかはカリンも理解しつつあった。
通常であれば細い針を使用するのがベターだが、リシャコのカウンターは肺へと繋がるルートの一点のみを傷つけるほどに繊細であるため、十分に代用品としてなりえたのだ。
そして、この賭けの結果は上々だった。
肺の代わりに鎖骨付近のツボを刺激された結果、カリンのパンチのスピードはここにきてグンと伸びていき、
リシャコの胸の、肺がある位置に対して強烈な拳をお見舞いすることに成功する。

「!!!!!」

正直言うと、肉体的なダメージはたいして与えられていない。
身体の強さもさることながら、リシャコはこの場にいる誰よりも胸の脂肪が厚いため芯まで到達していなかったのだ。
それでも、精神的なダメージは計り知れないほどに甚大だ。
無敵のカウンターにまで昇華させた「暴暴暴暴暴(あばばばば)」を打ち破ったのが若手であること、
肺を狙うことを得意としていた自分が逆に肺をやられてしまったこと、
その二つがリシャコの心をひどく傷つけたのである。

「そんな……やだ……負け、負ける……」

冷静に考えればリシャコは全然不利ではない。 効かないパンチを貰ったくらい、いくらでも挽回できる。
だが今のパニック状態にあるリシャコには、正常に思考することすら難しかった。
勇気付けるために声でもかけてあげれば持ち直す可能性もあったが、ベリーズの団長にはそれも出来ない。
シミハムは仲間を激励することも叶わない己の運命をひどく悔やんでいく。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



直接励ますことは出来ないが、シミハムは別のアプローチでリシャコを落ち着かせる方法なら持ち合わせていた。
ただ、出来ればこの手だけは使いたくないとも思っている。
単純にエネルギーの消耗が激しいと言う理由もあるが、それ以上にこの手段は残酷であるため使うのを躊躇していたのだ。
だが背に腹は変えられない。決意したシミハムは力を行使する。

「あれ……私、なんでボーっとしてたんだろう。」

リシャコはキョトンとした顔をしていた。
さっきまでカリンにやられたショックで動揺していたというのに、まるでそれを忘れてしまったかのような素振りを見せている。
そしてナカサキとマイマイ、サユキらにシミハムが囲まれているのを思い出しては、そちらへと走り出す。
カリンは勿論それを黙って見逃すわけにはいかなかった。

「行かせない!貴方は私が食い止める!」

息苦しく、身体にかかる負荷も限界近いが、カリンは歩みを止めなかった。
また先ほどのようにリシャコのカウンターを無に出来れば勝利の道は必ず開けるはずなのだ。
それにこれは孤独な戦いじゃない。
フリーになったサヤシだって、勇気を持ってリシャコの進行方向に立ちはだかっている。
カリンとサヤシの2人の力を合わせれば強敵リシャコを撃破することだって夢じゃないと信じているのである。

「絶対に食い止める……それを出来るのはウチ1人しかいないんじゃ!!」
(えっ?……)

カリンは胸の奥がゾワッとするのを感じた。
何やらとてつもなく恐ろしい違和感を覚え始めている。
そしてその違和は、マイマイがサヤシのフォローに入ることで恐怖へと変わっていく。

「無理しないで!マイも手伝うよ。2人がかりでリシャコを止めよう。」
「マイマイ様……お願いします!」

孤独じゃないと思っていた。
チームダンス部には心強い仲間がたくさんいると思っていた。
だと言うのに、これではまるで、カリンはこの世に存在していないかのようじゃないか。
自分の存在を証明するためにもカリンは大声で叫びだす。

「ちょっと待って!!みんな、私が見えないの!?」

本気の思いを込めた声なら届くと思っていた。
だが、カリンの方に目を向ける者は1人としていなかった。
聴覚が優れていて、志を同じくするサユキまでもが無視を決め込んでいる。
もちろん彼女らに落ち度は全くない。 
カリンはこの空間に存在していない事になっているのだから、気づきようが無いのだ。

「だったら……無理矢理にでも振り向かせてみせる!!」

カリンはリシャコの超反応カウンターを思い出していた。
リシャコはどんな攻撃に対しても瞬間的に反撃するはず。
そんなリシャコの背中に対してカリンは精一杯の力で殴りかかった。
……そして、その全力パンチは何にも防がれることなく通ってしまう。

「そんな……味方だけじゃなくて敵までも……」

考えようによってはカウンターを貰うことなく攻め放題に出来るので非常に有利なのだが、
存在を無にされたカリンの精神的ショックはあまりにも大きく、これ以上仕掛ける気にはどうしてもなれなかった。
さらに追い討ちをかけるように「早送りスタート」の制限時間が切れてしまう。タイムアウトだ。
ここまでみんなの為に精一杯尽くしてきたカリンは、独り孤独に倒れていく。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



シミハムも無尽蔵にモノを消せるわけではない。
対象がより強大だったり、数が多かったりするとそれだけ疲れてしまうのだ。
また、消される相手が協力的かどうかによっても消耗の度合いが変わってくる。
そのため同じ仲間のリシャコよりは、敵対視されているカリンを無にする方がよっぽど骨が折れるのである。
そんなカリンが動けなくなった今、力をこれ以上行使し続ける理由はないだろう。
シミハムは自身の無のオーラを操作し、気を失ったカリンを白日の下に晒しだす。

「えっ!?……か、カリン……」

ボロボロの姿で横たわるカリンが突如現れたものだから、サヤシは驚きを隠せなかった。
ナカサキとマイマイだって「しまった」という顔をしている。 
キュートほどの戦士だろうとシミハムのオーラを知覚することは困難なのだろう。
そしてそれはキュートだけでなくベリーズだって同じ。 
今回のカリン消失は打ち合わせ無しの完全アドリブだったため、味方であるはずのリシャコも全くと言って良いほど気づくことが出来なかった。
カリンが再登場したことでリシャコのプライドがまた傷つくことになるが、
そのカリンがもう戦えない状態にあることと、ほんの僅かでも落ち着きを取り戻せたことで、リシャコがパニック状態に戻ることはなかった。
むしろ天敵が倒れたことでやる気が増しており、シミハムに対してキラキラした眼でアイコンタクトを送っている。

(さすが団長だね、助かったよ。 またさっきみたいに奇襲をかけたいから私の存在を消してほしいな。)

無茶言わないでよ、とシミハムは思った。
さっきから高頻度でシミハムとリシャコを交互に消している上に、今回は味方ではないカリンまでも消したのだ。 
いくらベリーズの団地も言えどももう汗だく。相当疲弊している。
それにカリンを元に戻したということは、カリンの胸元のサインは依然変わらずチームダンス部らの脳裏に焼き付いているということ。
仮に存在の消えたリシャコが胸を一刺ししたところで、先刻のマイマイのように跳ね除けられることだろう。
つまりは、もう交互に存在を消す戦法は限界なのだ。
また、シミハムがその戦法に踏み切れない理由はもう一つあった。
それはさっきからずっとシミハムを見つめ続けているサユキ・サルベの存在だ。
サヤシ、ナカサキ、マイマイが思わずカリンを見てしまったのに対して、サユキは頑なにシミハムをマークし続けている。
仲間の消失に気づけなかった悔しさも勿論有るだろう。唇を強く噛み締めるあまり血を流しているのがその証拠だ。
それでもサユキはチームの勝利のために格上のシミハムから目を離さない。
ただただ凝視され続けること、その行為がシミハムにとってはこの上なく厄介だった。

「……」

シミハムは決意した。
もう自分やリシャコを消すのは辞めよう。 それで体力を使い果たしてしまえば逆にピンチを招きかねない。
だがその代わり、別のモノを無にしてやろうと考えている。
「反抗的な者」よりも「協力的な者」よりも消しやすいモノ、それは「意思を持たぬモノ」だ。
シミハムはそのモノを消失させることで、これまで以上の戦闘力を発揮することが出来る。
奇襲でもなんでもない、ベリーズの団長としての真の強さでチームダンス部を一人残らず殲滅させる自信が彼女にはある。




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