●場面0 : 武道館外門 「マイミ vs チナミ」

連合軍のリーダーであるマイミは一人で戦車に挑んでいた。
チナミの「爆発(オードン)"派生・戦国自衛隊"」からなる戦車は彼女の最高傑作。
時代背景から考えるとオーパーツも良いとこだが、チナミのDIYの才能を考えるとなんら不思議ではない。

「さっきから装甲を殴りまくってるようだけど、全然効いてないからね~?」
「まだ分からないだろう!そりゃそりゃそりゃそりゃあっ!!」

ナックルダスターを装着した拳で何千発も殴ったマイミだったが、戦車の外装が少し傷つくばかりで、まるで突き破れる気配が無かった。
それどころかマイミの拳の方が受けるダメージが大きいようで、手の甲の皮が剥け、血がダラダラと流れてしまっていた。

「うっ……」
「無駄だよ。この戦車は砲撃を受けても平気なように作られてるの。何万発殴ったところで……」
「だったら砲弾より強いパンチを打つまでだ!!」

その時、ドカンといった轟音と共に戦車の装甲が凹み出した。
これはマイミが全力を込めた突きをぶち込んだ結果だ。
手数重視の連打には耐えていた戦車だが、ここで歪みが生じはじめてくる。

「うっそでしょ……あんなに丹精込めて鍛えた鋼鉄なのに……分かってたけどマイミはどんだけ馬鹿力なの……」
「ははははっ!!やっぱりこの世に壊れないオモチャは存在しないようだな!このまま殴り続ければ……」
「はぁ~!?オモチャ!?」

激怒したチナミは戦車上部のハッチをあけて、内部から顔を出した。
そして二丁のショットガンを両手で構えて、弾をダダダダと発射していく。
流石のマイミもこれには反応が遅れ、200発のうちの195発しか叩き落とすことが出来なかった。
残りの5発は額で受けている。

「くっ……迂闊だった!!脳天に弾を受けるなんて、私が食卓の騎士じゃなければ死ぬところだ!」
「いや死ぬんだよ普通は。ミヤビもクマイチャンもそこまでされたら死ぬよ。なんで普通に話せてるの。」

こんなデタラメな戦いを遠くで見ている者がいた。
コードネーム”ウララ”、”マジメ”と呼ばれる2人だった。

「噂には聞いてたけどマイミ様って本当にメチャクチャな人だね。生身でチナミ様の兵器と競り合ってるよ。」
「ちょっと!私たちはこれから回収にいかないといけないって分かってるの? そろそろ何人か倒れてる頃だから忙しいんだよ!」
(マジメモードのノムちゃん相変わらず可愛いな~。)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マジメとウララはある任務を命じられていた。
命がかかっている大仕事。モタモタしていたらそこには死が待っている。
このままマイミとチナミの戦いを見ていたいという思いもあったが、
作戦の失敗、即ち”死”を可能な限り回避したいと考えたウララはマジメについていった。

「ごめんごめん~」
「私の力じゃ回収できないんだからね!ウララに手伝ってもらわないと運べないよ。」
「うん。うん。頑張るよ。」
「まぁ……もしかしたら回収する必要が無い状態になってるかもしれないけど……」
「怖いこと言わないの。大丈夫だよ。ベリーズ様達もなんだかんだで甘いもん……あっ!こんなこと言ったらまずいか。」
「……聞かなかったことにしてあげる。」
「絶対言っちゃダメだよ?リークしないでよね?」
「う~……」
「そこは自信持って!」

そんなやり取りがなされているとは知らないマイミは、顔を出したチナミ目掛けてパンチを繰り出していった。
こうなったらもう戦車の装甲を破る必要はない。
直接チナミをブン殴れば良いだけだ。

「これで終わりだ!!」

しかし、その攻撃は阻まれた。
マイミとチナミの間にある”見えない壁”によって防がれたのだ。
実はこれはムロタンが愛用している盾と同じ材質のもの。
チナミは事前に透明盾の存在を把握し、実戦に取り入れていたのである。
それに対してマイミはムロタンの戦い方を知らなかったので、パンチが止められた理由を分からずにいた。

「なんだ?……空が割れたぞ……」
「うわ、せっかくの良い盾がコナゴナ……まぁマイミの攻撃を一回防げただけも良しとするか。
 こうして隙も作れたことだしねっ!!」

チナミはショットガンを水鉄砲に持ち替えて、マイミの目に向かって発射した。
これが銃弾であればマイミは持ち前の反射神経で無意識に迎撃するところだったが、
飛んできたのが石鹸水だったので一瞬戸惑い、目で受けてしまった。
その隙にチナミはまた戦車の中へと入り込んでいく。

「目が痛い!これは確かリカコの……」
「そう。リカコちゃんの石鹸入り水鉄砲だよ。言っておくけど開発者は私だからね!盗作じゃないよ!」

チナミの技術力はあらゆる武器を作り上げることが出来る。
帝国剣士、番長、KASTの武器だってほぼ全て再現していた。
つまりは、マイミの敵はチナミだけじゃない。
連合軍全員を相手にしているのと同じことなのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



チナミは操縦桿を握り、戦車を動かした。
そして石鹸水で目を痛めているマイミを轢こうとしたのだ。
衝突に驚いたマイミはすぐに車体を押し戻そうとしたが、
流石に戦車の馬力には押し負けてしまった。

「ぐぐぐぐぐ……」

少しずつではあるが確実にマイミは後退させられている。
1人の人間が戦車に轢かれて吹っ飛ばないという時点で驚きではあるが、
このままではやられてしまうのも時間の問題だった。

「力が及ばないか……だったら!!」

マイミは戦車の右側に向かって跳躍した。
そして車体に渾身の飛び蹴りを打ち込んでいく。
押し負けるくらいなら戦車を破壊するのを優先しようと判断したのである。
そして、マイミも単発の攻撃でこの兵器を壊せるとは思っていない。

「必殺技”ビューティフルダンス”で完全に破壊してやるっ!!」

蹴りの勢いのまま戦車の後方に周り、前に装甲を壊したのと同等の威力で殴り抜いた。
そして更に左側へと跳び、鋼鉄の義足で二度目の飛び蹴りを喰らわせる。
そして最後にはまた戦車に正面から立ち向かって、強烈な頭突きを叩きつけていく。
このように激しく舞うようにして、敵の前後左右に全方位型の攻撃をヒットさせるのがマイミの必殺技”ビューティフルダンス”なのである。
石鹸水のせいで目を開けられないので戦車の正確な位置までは分からなかったが、
ミヤビほどでは無いにせよ、マイミも敵のオーラを感じ取る能力を備えていため、
チナミの居場所を感知し、その前後左右に攻撃を当てていったのである。

「さっすがマイミ。おかげでせっかく作った戦車にまた傷がついちゃったよ……でもね。」

マイミが最後の頭突きを放ったのと同じタイミングで、チナミは戦車から上半身を出していた。
そしてマイミが体勢を戻すよりも早く、複数本の剣を投げつけたのだ。

「マイミのその技は何回も見てきたからよく知ってるよ。威力もタイミングも、癖までも……」

ビューティフルダンスは高速の全方位型4連撃ではあるが、最後の4発目の後は、極めて短い時間だけ動きを止めている。
チナミはその一瞬を狙って、打刀・居合刀・出刃包丁・フランベルジュ・大太刀・木刀・竹刀・ブロードソード・スケート靴・忍刀・投げナイフと両手剣・印刀ら合計12組の刃物を雨のよう降らせていった。

「!!!」

全てが全てクリーンヒットしたという訳ではないが、何本かはマイミの肉体に突き刺さった。
“生きるという力”が人並外れているためこの程度では即死しないが、多量に出血してしまう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



食卓の騎士達は、強くなりすぎた故に訓練相手を探すのも苦労する時期があった。
化け物の相手は化け物にしか務まらない。
ベリーズとキュートらが自分たちのみで訓練をするようになったのは当然の流れだと言えるだろう。
来る日も来る日も組み手を繰り返していくうちに、彼女らは互いの技の特徴を完全に把握するようになっていた。
隠し球でも持っていれば話は別だが、常に全力のマイミは手の内を完全に晒す形になっていたのである。

「弱点だってよく理解してるよ。マイミの身体で一番弱いのは……」

チナミは少しだけ戦車を後ろに下げて、砲台でマイミを狙い出した。
灼熱の業火の如き殺気を感じ取ったマイミは、すぐさまスコープの外に走ろうとしたが、
チナミがトリガーを引く方が少しだけ早かった。

「まずい!」

マイミのスタートは早かった。が、右脚だけ逃げ遅れてしまった。
人間とは思えないほど屈強な肉体を持つマイミは、下手したら砲弾を受けても跳ね返してしまうかもしれないが、
生身では無い義足はそうはいかなかった。
勢いよく射出された砲弾はマイミの右脚の義足を、ほんの少し触れただけでグシャグシャに潰してしまう。
そしてそのパワーを受けとめきれなかったマイミは、数十メートルほど飛ばされた。
武道館に辿り着いたというのに、引き離されてしまったのだ。

「義足。それがマイミの弱点だってみんな知ってるよ。」
「くっ……だがまだ終わりじゃないぞ!」

マイミのトンデモ身体能力であれば左足だけで走ることも出来る。
元の場所に戻るくらい朝飯前だ。

「でも、そんな脚じゃもう踏ん張れないよね?」
「!!」

チナミは戦車を加速させて、またもマイミを轢き飛ばした。
先ほどまでは両足に力を入れて耐えていたマイミも、片足ではねられたからには飛ばされずにいられなかった。
これでマイミはまた武道館から遠ざかる。
かなり距離のある坂道をゴロゴロと転げ落ちてしまう。

「ううっ……坂を……坂を登らなくては……!!」

マイミの位置からは、坂の上にいるチナミはとても高いところにいるように見えていた。
全てを黒焦げにする灼熱の如き太陽のオーラを放つチナミが、ここにきてより一層、眩しかった。
“いつだって太陽 限りなく私たちを照らしている。”
そのような一文がマイミの頭をよぎる。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイミは立ち上がり、高い高い坂を駆け上がろうとする。
しかしチナミはそれを許さない。
これだけ距離が離れていれば戦車の独壇場だ。

「近づかせないよ!発射!!」

ドカンという轟きと共にチナミは7発もの砲撃をぶっ放した。
砲弾の一つ一つがチナミの太陽のパワーと連動し、
紅く輝きながらマイミに降り注がれる。
直撃を受ければいよいよ命が危ういため、マイミは全力で避けたが、
地面の方が爆撃に耐えられず、まるで隕石でも落下したかのようにボコボコと大きな穴があいてしまった。
これで坂を登る難易度がさらに上がったことになる。
この程度で諦めるつもりは毛頭ないが、尽く邪魔をされたのでマイミも苛立ちを隠せなくなった。

「な……なんなんだ!」
「何が?」
「お前たちベリーズの目的はなんだと聞いているんだ!
 王とサユを救おうとする我々を邪魔するその行動の、どこに大儀があると言うんだ!!
 我らが戦友ベリーズ戦士団はいつからそんな極悪人になったんだ!」
「……」

チナミはふうっと息を吐き、マイミを睨みつけた。
モモコやミヤビならここで対話に応じなかったのだろうが、
チナミは一つの答えを返すことを決心した。

「ベリーズの目的はまだ言えない。でも私自身の目的なら言ってもいいよ。」
「チナミの目的……!?」
「私の目的は……マイミに勝つこと。」
「なっ!?」

超高音の熱線に似た殺意がマイミの全身に刺さることからも、その言葉に嘘はないように思えた。
チナミは本気でマイミに勝とうとしている。
そのような反逆の言葉には、本来なら怒りで返せねばならないのだが、
マイミはむしろ冷静だった。
その言葉の真意が気になって仕方なかったのだ。

「勝つ……とはどういうことだ?……」
「言葉の通りだよ。持てる力を全部使ってマイミを倒したい。だから私はここにいるんだ。」
「だ、だったら何もこんな事件を起こさなくても、訓練場でいくらでも相手を……」
「訓練と実戦は違う……分かってるよね。」
「!!」

食卓の騎士は幾度も訓練し続けてきたが、
タイマンでチナミがマイミに勝ったことは一度も無かった。
純粋なファイターであるマイミとはそれだけ身体能力に大きな差が有ったのだ。
だが、チナミは敗北を「仕方のないこと」とは一度も考えたことがなかった。
全ては最終的な勝利のために。
シンデレラが21時を、いや、25歳を過ぎる前に勝ち星をあげるために
数多の敗北を糧へと変えたのである。

「私がマイミに勝つのは、この一生で、今しかないんだよ。」

ここでマイミはハッとした。
今のチナミは本物の太陽と同じくらい、熱く燃え上がり、眩く輝いていた。
動機はどうあれ、この戦いに真剣に臨んでいるのは嘘偽りのない事実なのだ。
その思いに自分は答えていただろうか。
全力の更に上の全力を出せていただろうか。

「チナミの思いは理解した……だが、私は負けないぞ!」

いつだって太陽 限りなく私たちを照らしていく。
進め進め進め 弱い自分じゃ 太陽に近づけない。

「キュート戦士団団長マイミ!いざ参る!!」

マイミのテンションの向上とともに豪雨のオーラはその強さを増していく。
そして雨風の激しさは最高潮に達し、やがて嵐となる。

「嵐を起こすんだ!Exciting Fight!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



回収作業のために武道館の敷地内に入ろうとしていた“マジメ”と”ウララ”だったが、
後方で爆発的なエネルギーが発生しているのを感じて、思わずそちらを見てしまう。

「す、凄い……太陽と嵐がぶつかりあってる……」
「このままだと巻き込まれちゃうよ!早く行こう!」

現在の武道館の天候は、快晴のち台風のち快晴のち台風……と目まぐるしく入れ替わっていた。
晴れ女チナミと雨女マイミが本気で衝突しているのだから、このような異常気象が発生しても、なんら不思議ではないだろう。
坂を登ればマイミの勝ち。阻止すればチナミの勝ち。
このシンプルな戦いを制するために、両者バチバチに睨み合っているのである。

「私のダッシュは何人も止めることが出来ない!行くぞ!!」

マイミは両足の義足が破壊されているにもかかわらず、その身体のまま走り出していった。
義足の分だけ走るときのストライドが短くなってしまうが、
マイミは回転力を常人の何倍にも上げることでスピードを保ったのだ。
一歩進むたびに激痛が走るが、そんなことは大した問題ではない。
マーサー王を救うためには、そして、好敵手チナミの敵意に応えるためには、これ以外に道は無いのである。

「マイミがそうくる事くらい予測してたよ!次はこっちが行くからね!
 『大爆発(オードン)、”派生・Bomb Bomb Jump”』!!!」

チナミは球の形をした爆弾を数百単位で坂に転がしていった。
その爆弾は素早くマイミの元に到達し、
一斉にボン・ボン・ボンボ・ボンボンと爆発していく。
この爆破をまともに受ければ普通は即死。マイミ程の化け物でも吹っ飛ばされるのは不可避だろう。

「無駄だ!ハァッ!!!」

爆風に巻き込まれるといったところで、マイミは自身の長髪をブンッと振り回した。
そうして生じる瞬間最高風圧は台風に匹敵し、滝のように流れる汗が消火作用をももたらす。
結果として爆弾による爆風は全てマイミの汗しぶきに負けてしまい、一瞬で鎮火されてしまう。

「どうだ!!」
「あ~!それオカールがよく文句言ってた奴だ!訓練中に汗がとんできて迷惑だって!」
「汗が飛ぶのは仕方ないだろう!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



爆風ではマイミを退けることが出来ないと理解したチナミは、戦略を変えることにした。
操縦桿ではなく、とあるボタンを押下する。

「本気で仕留めるならやっぱり主砲だね。ドカンと大きいの行くよ!!」
「砲撃か!しかし来ると分かれば怖くないぞ!」

戦車の砲台から轟音が鳴ると同時に、マイミはサイドステップをした。
壊れた義足での移動ではあるが、神速の瞬発力を持ってすれば避けるのは容易いのである。
しかし、ここで不思議なことが起きた。
なんと砲台から放たれた弾が、避けたはずのマイミの方へと向かってきたのだ。
突然の軌道変更に対応し切れずにマイミは横っ腹で受けてしまう。

「うわぁっ!!……なんだ?……これはどういうことだ?……」

この時のマイミは二つの点で驚いていた。
一つは真っ直ぐに飛ぶと思っていた砲弾がコースを曲げてきたことだ。
そしてもう一つは、戦車による砲撃が直撃したというのにマイミの身体は無事で済んでいることだ。
もちろん激痛を感じているし、骨が何本か折れているのだろうが、
先ほど見たような、木々を一瞬で燃やし尽くした時の威力と比べると物足りないにも程があるのだ。

「これは……砲弾ではなくて鉄球!?しかもタケの愛用していたものによく似ている……」
「ピンポーン。それはタケちゃんの鉄球と全く同じものだよ。」

なるほど、とマイミは思った。
つまりあの戦車は、タケ・ガキダナーがよくやるように変化球を投げてきたというわけだ。
チナミの戦車の仕組みはよく分からないが、直線的な砲弾と、曲がる鉄球を使い分けることが出来るのだろう。

「タネさえ分かればなんともないな。いくら曲がろうとも、鉄球なら耐えることが出来る!
 なんならキャッチして投げ返してやろうか!!」

マイミは地面の鉄球を掴み取り、逆に戦車の方へとメジャー級のストレートをぶん投げた。
これで機械が破損してくれれば万々歳だ。チナミを外に追い出すことが出来る。
しかしチナミの最高傑作はそう甘くはなかった。

「マイミにボールを渡したら。そりゃそうなるよね。
 もちろん予測してたよ……この”ハロボ”も。」
「!?」

マイミの放ったボールが届くよりも先に、戦車は2発の鉄球を射出していった。
1発はメジャー級ストレートを迎撃し、もう1発はそれに驚くマイミの額にぶち当てられる。

「ぐっ……しまった……」
「よし。上手く行った。試作品ではあるけど、”ハロボ”の調子は上々みたい。」
「ハロボ?……なんだ、それは……」
「なにって?AIだよ。」
「AI?」

チナミのDIY技術はあまりにも未来に行き過ぎていた。
ハロボなる人形はAI、すなわち人工知能を備えている。
このAI技術の備わったドールは、カナナンの持つようなソロバンを20個同時に並列して扱い、
相手の動きの予測や、弾道計算を自在にこなすことが出来るのである。
以前のチナミのDIY技術は「ハロー!SATOYAMAライフ」といったレベルのものだったが、
年月が経ち、今や「AI・DOLプロジェクト」と呼ばれるまでに発展したのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



AIハロボは高速演算を得意とするが、その分エネルギーの消費が激しかった。
活動の維持に膨大な電力を消費し続けるため、
マイミに守りに入られたとしたら、すぐにエネルギー切れになってしまう。
だが、今のマイミは前のめりでやってくることをチナミは確信していた。
味方との合流を早めたいマイミは攻めて攻めて攻めてまくってくるに違いないだろう。

「チナミ!私はその機械のことは全く分からん!
 頭のいいアイリなら理解できるかもしれないが……」
「いやいや、アイリどころか、この世の誰も理解できないモノを作ったつもりなんだけど……
 で、マイミはどうするの?」
「もちろん!強行突破だ!」
「うん、そうだよね。」

マイミはクラウチングスタートの姿勢をとり、よーいドンの掛け声を待たずに坂を駆け上がりだした。
マイミは霊長類最強女子なだけでなく、世界最速の異名もほしいままにしている。
機械仕掛けでは実現できないような脚の回転によって、爆発的なスピードを生み出していった。

「私のこの走り!止められるものなら止めてみよ!」
「言われちゃってるよハロボ。君ならどうする?」

2本の脚を失っている状況で爆速を実現するマイミは確かに規格外ではあるが、
高性能AIから見ればいくらでもやりようがあった。
戦車の砲台をマイミに向けて十数発もの鉄球を連射していく。

「そんなもの、効かないっ!!!」

マイミの鋼の肉体は全ての鉄球を跳ね除けてしまった。
弾の速さ自体は先ほど腹に受けた時と変わらないのだが、
来ると分かっている攻撃であるため、覚悟を持って歯を食いしばり、耐えることが出来たのだ。
また、マイミの全力ダッシュはそれ自体がタックルに似た攻撃手段であるため、迫りくる鉄球にも打ち勝つことが出来たのである。
まさに℃an't STOP!!、今のマイミは誰にも止められない。

「ハロボ、ここまでは想定内だよね?」

チナミの言う通り、ハロボの策はここからにあった。
今のマイミは鉄球程度なら回避する必要がないと考えている。
そこが狙い目。鉄球の連射の中に本気の砲撃を混ぜてやるのだ。
木々をも軽くなぎ倒す砲撃を受ければ流石のマイミもぶっ倒れるに違いない。
勝利を確信したハロボは、モーションを全く変えることなく砲弾をぶっ放していく。

「むっ!これは危険だな。」

しかし、マイミはハロボの隠し球をごく普通に避けてしまった。
鉄球の射出と寸分違わぬ動きで砲弾を放ったと言うのに、マイミに回避されたのだ。
これにAIはひどく混乱する。
鉄球は全て己の肉体で受け続けていたマイミが、砲撃を的確に判別出来たことが分からずにいるのだ。
ただの偶然であることを祈ったハロボは、二度、三度、同じ戦略を繰り返したが、
そっくりそのまま同じようにマイミに避けられることとなった。
見守っていたチナミもこの現象に驚いていたが、やがて解を導き出す。

「あぁ~……ハロボごめん。マイミは私の殺気を感じ取ってるんだ。」

ハロボが何をしようとしているのかは、生みの親であるチナミにはよく分かっていた。
そのため、ハロボがマイミに砲撃しようとするその瞬間だけチナミの熱線のような殺気が増大し、
タイミングがマイミにバレてしまったというワケなのである。

「君は悪くないよ。完璧だった。殺意を抑えられなかった私のミス……でも、こればっかりはどうしようもないかな……」

気持ちを制御できるようならそもそもこの場に立っていない。
チナミはマイミを倒すために今回の役回りを引き受けたのだ。
策のためだと頭で理解していても、殺気をゼロにすることは到底無理な話なのである。
そういった戦士の本質を学習したハロボは一つの結論を出した。
戦車の自動制御を解除して、改めてチナミに操縦桿を託したのである。

「ハロボ?……そうか。」

今のハロボは砲撃の弾道補正のみに集中するモードに切り替わっている。
これまでのようにオートで色々と行うことは出来なくなるが、
消費電力は大幅に減るし、砲撃の軌道はこれまで以上に正確になる。
AIは、強大な殺気を持ったチナミが自らの手でトリガーを引くのがより良い行動だと考えて、
自身はチナミのサポートに回るべきという判断を下したのである。

「うん!行けるよ!次こそ決めるからヘルプよろしくね!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



砲撃を3発も避ける頃にはマイミは戦車のすぐそばまで近づいていた。
長かった坂も残りわずか。あと少しで戦車を、そしてチナミを倒すことが出来る。
そうすればマイミは連合軍のもとに合流し、彼女らの力になれるのだ。
即席のチームではあるが、今やマイミにとって連合軍こそが帰るべきホーム。
しっかりしてるとは言い難い自分にいつも付いてきてくれたキュートのために、
情けない姿を見せた自分を勇気づけてくれた若い戦士たちのために、
そして道を誤ったベリーズ達をぶん殴って目を覚まさせるために。
“絶対に帰ること”がマイミの使命。

「”帰還セヨ!” それが私のミッションだ!」

それに対してチナミは、何がなんでもマイミに勝たなくてはならない。
持てる力を尽くして白星をあげたいという個人的理由のほかに、
何事も規格外なマイミを他の戦地に流してパワーバランスを崩すことだけは避けたいという、チームとしての理由があった。
味方を信頼していないというワケではないが、若い戦士たちが急速に力をつけているのも事実。
シミハム、モモコ、ミヤビ、クマイチャン、リシャコ、誰一人苦しんでいない者はいないだろう。
そこにマイミを向かわせることなんて出来やしない。
“絶対に阻止すること”がチナミの使命。

「”死守セヨ!” それが私のミッションだよ!」

二人の強い思いは具現化され、より一層この世の終わりのようなビジョンを実現していた。
全てを燃やす太陽と、全てを飲み込む嵐、両者の圧の強さは完全に一致している。
全くの互角だとしたら、ここで勝負を分かつのは武具の差だ。
いま、この瞬間、戦車の照準はマイミをしっかりと捕捉していた。
砲台も真っ直ぐにマイミの方向を向いている。
無論、マイミもこれから砲弾が発射されることに気付いているが、
ここまで近づいたのならマイミの瞬発力を持ってしても避けることは出来ない。
チナミは完全なる勝利を確信し、トリガーを引く。

「打てぇぇぇぇぇ!!!」

爆音と共に砲弾が放たれた。
ただでさえ強力なうえに、チナミの純度100%の殺気と、ハロボの弾道補正も相まって、
この世にこれ以上のものは無いといったレベルの殺傷能力を生み出している。
マイミはその身体能力の高さから「霊長類最強女子」として呼ばれていたが、
チナミも自身の技術を総動員すれば、マイミに匹敵、いや、それをも超える「天下無双女子」になれるのだ。
マイミもチナミの技術力を高く評価し、認めていた。
だが、認めていたからこそ、ここでの敗北を信じていなかった。

「チナミ……さっきお前は義足が私の弱点だと言っていたな……
 それは大きな間違いだ。」
「!?」

気づけばマイミの両手には棒状のものが握られていた。
行うべき事、それはチナミの技術を尊重し、チナミの技術力を跳ね除けるのみ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイミが握りしめていたもの、それは折れた義足だ。
この義足は、過去の事件で足を失った自分のためにチナミが造ってくれたもの。
それをバットのようにスイングし、砲弾へとぶつけようとする。

(素手では触れることも出来ないが、チナミの作ったこの義足なら打ち返すことが出来る!!)

マイミはチナミ作の義足を高く評価していた。
また、壊れてしまうのは自分の力量が足りないからだ、とも思っていた。
それだけこの義足には優れた技術が詰め込まれており、正しく扱えば何物にも負けないと信じているのである。
そうしたマイミの思いは掌から義足に伝わり、金属バットの数十倍の硬度をも実現させる。

「はあっ!!!」

力強い掛け声からワンテンポ遅れて、爆発音が聞こえてきた。
マイミが打った砲弾が前方の地面に勢いよく突き刺さったのである。
チナミが面食らっている隙にマイミは戦車目掛けて勢いよく走りだした。
ヒット後にすぐ走るのは野球の基本。その動きはマイミの身体に染みついていたのだ。

「今度こそ終わりだ!私の必殺技”ビューティフルダンス”で戦車を破壊してやる!!」

とうとうマイミに坂の頂上まで到達されてしまったがチナミは焦らない。
マホが使うようなスナイパーライフルと、トモが使うようなボウを取り出し、
いつでもハッチから顔を出せるように準備した。
マイミのビューティフルダンスは前後左右それぞれに重い一撃をぶつける強力な技ではあるが、
先ほど見たように、四撃目の後に一瞬の隙が生じてしまう。
チナミはそこを狙って、弾丸と矢で撃ち抜こうと考えたのだ。

「来るなら来い!返り討ちにするんだから!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



マイミは戦車の左側に跳びかかり、硬く握りしめた拳を装甲にぶち当てた。
そしてそのままの勢いで後側、右側にも流れるようにパンチを放り込んでいく。
先ほども必殺技「ビューティフルダンス」で被害を被ったところに、また同じ技を受けたものだから、
“チナミの最高傑作”と言えども戦車の耐久力はもはや限界に近かった。
だが、あとほんの少し凌げばマイミの隙をつくことが出来る。
そう信じたチナミは、マイミが戦車正面に4発目を当てに来るのと同時に、
ハッチから上半身を出して、スナイパーライフルとボウによる狙撃の構えを取り出した。

(動きを止めた瞬間に撃つ!そうして怯んだところを戦車で轢き飛ばす!
 気の毒だけどマイミにはまた坂を転がり落ちてもらうからね!!)

チナミはマイミの技の全てを把握している。
必殺技の終了後、すなわち4発目のパンチが放たれた直後に動きを止めるのは確定事項。
そこに弾と矢を当てれば勝利は確実だと信じていたが、
マイミは動きを止めなかった。

(えっ!?)

戦車の正面に拳を打ち込んだ時、マイミは自身の身体が戦車の左側に飛ぶように力を加えたのだ。
そして飛んだその先でマイミはまたも戦車をぶん殴る。
同じ要領で後側、右側にまわり、勢いの衰えぬ突きを放ち続けている。
すなわちマイミはビューティフルダンスの二周目を始めたのである。
そしてマイミの超スタミナは二周程度ではへこたれない。
三周、四周とグルグル周回し続けては、戦車の破壊行動を継続していた。
斬新にエンドレスを刻むこの技は、チナミも見たことがないものだった。

「見たか!これが私の『ビューティフルダンス、”派生・夢幻クライマックス”』だ!!!」

無理のある行動のため全身の筋繊維がブチブチと千切れていっているが、
マイミは回り続けることと、殴り続けることをやめなかった。
疲労もなんのそので、最初から最後まで無限にクライマックスのような攻撃を仕掛けている。
マイミは挑戦を諦めない後輩たちを見て、この技を構想し、今この瞬間に編み出したのである。

「こ、これは……まずい!」

チナミの腕前ならばマイミが止まらなくても狙撃するのは容易いはずだった。
しかし、突然の派生技に面食らっているうちに戦車は殴られすぎていた。
戦車の中にいるAI人形ハロボと、いくつかの武器を抱いては、チナミはすぐに戦車の外に飛び出した。
そして、ほぼ同時刻に戦車の耐久力が限界を迎え、大爆発とともに大破してしまった。
爆風と破片によりマイミの身体は大きく傷ついたが、その目はチナミを追い続けている。

「ハァ……ハァ……ここまで苦しかったが、やっとチナミを外に追い出せたみたいだな。
 さぁ、決着と行こうか。」
「……肉弾戦はしたくなかったけど、しょうがないか……」

チナミは細かな針を数十個飛ばし、自身の肩、背中、腕へと刺していった。
これはカリンの針治療と同じ。むしろカリンに教えた張本人がチナミなので、その効果は何倍にも及ぶ。
疲労回復だけでなく、一時的ながらも筋力が増強されて、マイミに近い身体能力を可能としている。
そして右手にはアーリーのトンファー、左手にはサユキのヌンチャクが握られていた。

「いいよマイミ。ここからは正々堂々、力と力の勝負をしようよ。」

マイミvsチナミ
2人の決闘はファイナルを迎える。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



●場面2 : 武道館西口 「チーム河童&ハルナン vs モモコ」
モモコの投げつけた糸は、気を失っているリサ、マナカ、チサキ、マイの身体に巻きつけられた。
その糸はモモコの10本の指に結ばれていて
まるで壊れたマリオネットを操る人形使いのようだった。

「何を?……」

モモコの奇妙な行動を見たハルナンの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいたが、
シバ公園の戦い後の情報共有に参加していたアーリーは、これが攻撃であることに気づいていた。

「危ないっ!避けてください!!」
「ちょっ、アーリーちゃんどうしたの?」

突然アーリーが突き飛ばしてきたので面食らったハルナンだったが、
そのコンマ数秒後に、マイ・セロリサラサ・オゼキングの鋭い蹴りが襲いかかってきたのを見て、
自分は助けられたということを理解する。

「ど、どういうこと?……あの子は気を失ってたんじゃ……」
「モモコが糸で操ってるんですよ!操り人形みたいに!!」
「!!」

以前モモコは、アイリとトモのペアに敗北したミヤビに糸を結びつけて自由自在に操っていた。
そして現在、それと同じ要領でカントリーの4人をコントロールしているのである。
本人が気絶していようが関係ない。
モモコの器用な手捌きによってリサもマナカもチサキもマイも一線級の戦士へと変貌する。
しかし彼女らは新人剣士との戦いで酷く傷ついていた。
すぐにでも安静にしなくてはならない程の重傷だ。
何重にも巻かれた糸が包帯がわりの役目を果たしてはいるものの、真っ赤に滲んでいてとても痛々しい。
これには流石のハルナンもカントリーに同情せざるを得なかった。

「なんて非人道的な……!」
「えっ?そうかしら?」

モモコがとぼけた顔で返し、続けていく。

「リサちゃんは両生類を操る。マナカちゃんは鳥類を操る。チサキちゃんは魚類を操る。
 そして、モモちは人間を操るの。そこに何の違いがあるっていうの?」
「動物と人には大きな違いが……」
「そ~お?みんな同じ地球上で暮らす仲間だよ?赤い血が通ってる生き物だよ?
 なんにも違わないじゃない。違うっていうなら、それは人間様の傲慢じゃない?」
「うっ……」
「それに、マイちゃんは哺乳類を操るけど、それだって自分、つまりは人間を操っているでしょ。
 やっていること変わらないんだけどなぁ~」

ハルナンが言い負かされそうになるところで、地面に横たわったままのアイリが言葉を割り込んできた。

「モモコのペースに乗せられちゃダメ……モモコは嘘をついてる。」
「えっ?」

アイリは弱点を見抜く眼を応用して相手の嘘を見抜くことが出来るが、
今回の嘘はそのスキルを使用するまでもなかった。

「ちょっとアイリ~何が嘘だって~?真実しか口にしてないんだけど?」
「うん……嘘は言ってない。」
「ほぉら」
「嘘をついているのは……感情。」
「……」

モモコはリサとマナカを操作し、アイリの背中を強く踏んづけさせた。
衰弱し切っているところに強烈な打撃を受けたのだから、アイリは絶句してしまう。

「リサちゃん。アイリにお仕置きしてやりな。強烈なビンタでね。」

リサの掌には、モモコから借りたレンタル暗器の一つ「ビンタ強化金属」が装着されていた。
その平手でアイリの頬をパパパパンパパパパンパパパパパパパパンと叩いていく。

「!!……」
「アイリ様!!」

激痛に苦しみ悶えるアイリを見かねたアーリーはすぐさま駆け寄った。
それに対して、ハルナンはその場で立ち止まったままだった。

(感情に嘘をついている?……アイリ様の言葉は、ただの挑発だとは思えない。
 ひょっとして、攻略の糸口だったりするのかしら?……)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



トンファーでリサとマナカを叩こうとしたアーリー・ザマシランだったが、ヒットする直前で躊躇してしまった。
今のカントリーガールズは意識を失ったまま戦わされている。
自分の意思で立っているとは到底思えない少女には、敵とは言え、攻撃なんて出来ないのだ。
だが、この状況でそんな態度を見せるのは命取り。
モモコはマナカに指示を出し、その手に持っていた超強力電磁石をアーリーの顔面に投げつけさせる。

「あっ!!」

すぐに気づいて避けようとするアーリーだったが、決断が遅れたせいかまぶたで受けてしまう。
この一撃自体は致命傷にならないが、どうしても一瞬だけ動きを止めることになる。
このまばたき一回分の時間さえあればモモコの思う通りにコトは運ぶ。
待機時間ほぼゼロという短い間隔でリサがアーリーの腿を勢いよく叩き、
マナカはジャンプと同時にアーリーの首に鋭い蹴りを入れる。

「う゛っ……」

二通りの激痛を同時に受けたアーリーは、意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって耐えた。
そして2人に対して反射的にトンファーによるカウンターを入れようとしたが、
やはり攻撃することが出来ない。すんでのところで腕の力が弱まってしまう。
アーリーが反撃できないことを分かっていたモモコは、ここでマイのキックをけしかけた。
重い飛び蹴りをお腹でモロに受けたアーリーは思わずその場にうずくまる。

「うああっ!!」

味方のアーリーが痛めつけられているというのに、ハルナンは冷静だった。
モモコに、そして意識を失ったカントリーガールズ達に何が出来るのかを観察しているのだ。

「なるほど。身体は3人でも頭脳はモモコ1人のもの。
 自然なコンビネーションを実現することが出来ているのはそういうワケね。
 3人の考えが全く同じなんだからそりゃそうだわ。」

その言葉だけ聞くととても優れているように思えるが、
どんなものにも必ず弱点はあるとハルナンは考えていた。
今のモモコは糸の操作に専念するあまり、自分自身はまるで動けていない。
そこに隙があるのではないだろうか?

「アイリ様、モモコ目掛けて石を飛ばしてください。カントリーの攻撃をアーリーちゃんが引き受けている今がチャンスですよ。」
「えっ、う、うん。」

アイリは限界の近い身体に鞭打って起き上がり、得意の棒術でゴルフボールのように小石を打ち飛ばした。
これでモモコにダメージを与えるか、あるいは糸の操作を妨害できるかもしれないと思ったが、
生憎にもそれすらも叶わなかった。
モモコは近くに待機させていたチサキを動かし、地面をバン!と思いっきり踏ん付けさせることで、
靴に着けられていた暗器「風壁発生機」より空気の壁を作り出したのだ。
小石は風によって無力化されて、モモコには届かなかった。

「チサキちゃんは私のボディーガードなの。残念だけど直接攻撃は無駄よ。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコを狙えばカントリーに阻まれる。
だからと言って、そのカントリーを攻撃するのは躊躇われる。
今のモモコの戦い方は、おおよそそのような形であるとハルナンは認識した。

「モモコを斬るには、あのチサキっていう可愛らしい子に攻撃しないといけないのね。
 胸が痛むわ。そんな酷いこと、私に出来るかしら……」

そう一言呟いては、ハルナンはチサキ目掛けてダッシュで斬りかかった。
ハルナンが持つのは波打つ刃のフランベルジュ。
ハーチンとの戦いでただでさえ大怪我を負っているチサキに対して、
更なる斬り傷を刻ませようとする。

「本当はこんなことしたくないのよ!許してねっ!」

優しい言葉とは裏腹にハルナンの斬撃は鋭かった。
モモコを倒すうえでの唯一と言って良いほどの防波堤を切り崩すために、
チサキの首に切っ先を突き付けていく。

「……遅いよ。」

モモコは2本の指を動かすだけでチサキを右に避けさせる。
そして、空振りに終わったハルナンの剣に対して、マナカ経由で電磁石を投げつけた。
ハルナンは帝国剣士の中では非力であるため、重石の乗ったフランベルジュを満足に振ることが出来ず、
磁石を取り除くのに手間取ることとなった。
だが、この一連のやり取りの中にも収穫はあったとハルナンは考える。

(私が走って追いかけるよりも指を動かす方が速い、か……
 そうなると、意表をついた攻撃でもしないと傷を負わせることは出来なさそうね……
 そして、一つ確定したのは、カントリーの子たちを肉の壁として扱う気は無いということ。
 教え子に対して非情になりきれてないから?
 それともダメージが大きすぎると上手く操れなかったりするの?
 まぁ、どんな理由にせよ、突破口はそこにありそうね。)

真剣な顔で思考を巡らせるハルナンを、アーリーは敵からの追撃に耐えながら見つめていた。
先ほどのハルナンは、ハッキリとした殺意を持ってチサキに斬りかかっていた。
言葉と行動が一致していないので分かり難くはあるが、覚悟が決まっているというのは理解できる。
それに引きかえ自分はどうだったか。
真剣勝負の場なのに、可哀想という理由でカントリーを殴れずにいる。
エリポン、カノン、マーチャンらが、己の身を賭して繋いでくれたのに、
何故、この期に及んでも覚悟を決めきれないのか?

「私に……私に出来ること……」

考えたが、混乱気味の頭では答えを見つけることは出来なかった。
普段KASTで行動するときも他のメンバーの作戦に従うことが多かったので、
この状況下でどう動けば良いのか分からなくなってしまったのである。
ならばどうすれば良いのか。
誰に教えを請うべきかは、アーリーも本当は気づいていた。
選挙戦にて自分だけでなく味方のKASTごと酷い目に遭わされた相手ではあるが、
過去のことは完全に割り切って、指示を仰ぐことが最善手であると理解している。

「ハルナンさん!何をすれば良いのか教えてください!私、なんでもやります!!」
「アーリーちゃん……!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



ハルナンが勝利への道筋を描こうとも、それを一人で成し遂げることは困難だ。
例えるならば、パティスリー(洋菓子店)の店長が絶品ケーキを開発したとしても、
従業員がいなければ作ることも販売することも出来ないことに近い。
言い方は悪いかもしれないが、ハルナンには手足のように忠実に働く手駒が必要だった。
そこにアーリーが「なんでもやる」と言い出したのだから、これ以上の吉報は無い。

(だけど、アーリーちゃんは本当に信頼できる子なの?……)

アーリーの実力は今さら疑いようがない。
フィジカルに恵まれており、そこに必殺技まで修得したのだから戦力としては十分だ。
また、裏表のない、竹を割ったような性格なので、途中で裏切るといったことも無いだろう。
ではハルナンは何を懸念しているのか?
それはアーリー・ザマシランの覚悟の度合いだった。
操られたリサやマナカに反撃できていなかったのは事実であり、
今後もそのような半端な戦い方をするのであれば、モモコに勝利するなんて先のまた先だ。
だからこそハルナンは確認をする必要があるのである。

「アーリーちゃん、信じていいのね?」
「はい!」
「だったら、マナカ・ビッグハッピーの腕の骨をへし折って。」
「!!」
「さっきから石を投げてきて邪魔なのよね……もう何も投げられないようにしてほしいの。
 アーリーちゃんなら楽勝でしょ?」

カントリーガールズの中では、マナカが最も重症のように見える。
包帯代わりに頭に糸が何重にも巻かれているが、それも無意味と思えるくらいに血液で真っ赤に染まっている。
マナカはアカネチンと戦っていたはずなのだが、いったいどんな戦いが繰り広げられた結果、そこまでの傷を負ったのだろうか。
戦闘の内容は想像もつかないが、現時点ではマナカが一番潰しやすいというのは間違いないだろう。
アーリーの必殺技「Full Squeeze!」は超パワーで相手を強く抱きしめる技。
動かされているだけの弱りきったマナカを壊すことは容易だ。

「わ、分かりました!やります!」

アーリーはやるしかないと腹をくくった。
自身に攻撃を仕掛けてくるリサとマイを押しのけて、ターゲットであるマナカに向かって走り出した。
そんなアーリーの目を見て本気度を感じ取ったモモコは、マナカを後方へと引っ込める。
アーリーの必殺技なんかを受けてもらっては困るので、チサキ同様に自分の側に寄せたのである。
そんなモモコの行動を見ながら、ハルナンはアレコレ考えていた。

(妙ね。マナカの腕の骨が折れたとしても、糸の結び方次第では石を投げされることくらい出来るでしょ?
 カントリーの子を必死に護ろうとする理由、いったい何なのかしらね。)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコは後輩たちの怪我の状況を把握していた。
4人とも負傷の度合いは大きいようだが、
ノナカと戦ったリサや、マリアと戦ったマイの傷の箇所が少ないのに対して、
ハーチンに切り傷を刻まれまくったチサキ、
そしてアカネチンの策で天から地に堕とされたマナカのダメージは著しく大きい。

(リサちゃんも、マナカちゃんも、チサキちゃんも、マイちゃんも、
 モーニング帝国の新人剣士にここまでやられるのは予想外だった。
 本当はゆっくり休ませてあげたいところだけど、もう少し辛抱してね。)

マナカはメンバーの中で身体能力が高い方であるため、負傷が大きくても前線に出し続けようとモモコは思っていたが、
アーリーが本気で折りに来ると言うのならば話は別だ。
比較的安全なモモコの周辺に戻ってもらい、投てき等の後方支援に回ってもらうのが得策だと考える。

「待って!今すぐ、今すぐ折ってあげるんだから!」

アーリーの顔は真に迫っていた。
自身に与えられた役割を全うするためにモモコ側に引き寄せられたマナカを必死で追いかけている。
しかしモモコだってみすみすやられるワケにはいかない。
リサとマイをけしかけてアーリーを阻止しようとした。
2人でアーリーの脚を蹴り飛ばし、転倒させようとする。
ところが、目的のために一直線になっているアーリーには通用しなかった。

「邪魔しないでっ!!」

襲いくるリサとマイの頭を鷲掴みにし、勢いよく地面へと叩きつけた。
覚悟の言葉を口にしたとは言え、アーリーがここまで急変するとはモモコも思っていなかったため、
回避させるのが一歩遅れてしまった。
糸の力を保てばリサとマイを落とさせずに留ませることだって出来たのだが、
そうした場合、アーリーの超パワーが首への急激な負荷となって、最悪、折られてしまう恐れがある。
なのでここは流れに逆らわずにアーリーの攻撃を甘んじて受けることとした。
そういったモモコの判断の結果、アーリーは何者にも邪魔されることなくマナカに追いつくことが出来た。
マナカを掴み取ろうと、アーリーは腕を伸ばす。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコはチサキの糸を手繰って、アーリーの肘を殴らせた。
細腕ゆえに相手の腕を故障させることは出来ないが、
マナカがアーリーに捕まるのを阻止してみせる。

「邪魔をっ!しないでっ!!」

カウンターの自主規制を完全に解除したアーリーは、
右拳を強く握りしめて、チサキにぶん殴りにかかった。
アーリーとチサキの体格差や、筋力量の差を考慮すると、直撃を受けた時点でチサキは壊されてしまうに違いない。
だが、モモコだってそう来ることは予測していた。
既にリサとマイを起き上がらせており、こちらへと戻らせたのだ。

「気をつけて!!後ろから来ているよ!」

アイリの助言も虚しく、アーリーは背中でリサの平手とマイの蹴りを受けてしまう。
このまま倒れてしまいたくなる程の激痛ではあったが、
そうなれば何も結果を残せなかった自分を嫌いになってしまうため、ここでも忍耐力を見せつけた。
そして、腰にかけていた2本のトンファーを握りしめては腕を長く伸ばす。

「もうっ!!みんなまとめて倒してやる!!」

この時、モモコを含むカントリーガールズらはアーリー・ザマシランの周囲に密集していた。
これだけ近付いたとあれば、余裕でトンファーの射程圏内だ。
トンファーをリーチいっぱいに伸ばして、ターンを決めるように高速で回転してやれば、
モモコ、リサ、マナカ、チサキ、マイの全員に強烈な打撃を喰らわせてやることが出来るのだ。

「だから甘いっての!攻撃が大振りすぎるのよ。」

トンファーが迫り来るよりも先に、モモコはリサ、マナカ、チサキの3名をその場にしゃがませた。
これでアーリーがトンファーをいくら振り回そうとも当たらなくなる。
それでもアーリーが攻撃を下に向ければ解決されてしまうので、
モモコは攻撃の勢いそのものを消し去ることにした。
マイにレンタルしていた暗器「美脚シークレットブーツ」を動作させて、ただでさえ長い脚を更に長くし、
トンファーにマイのキックを力強く衝突させた。
力のモーメントの関係により、リーチが長くなることによって蹴りは通常よりも数段と力強くなる。
マイが元々備えているアスリートのような身体能力も相まって、
連合軍でも上位のパワーを誇るアーリーに匹敵する破壊力を生み出すことが出来たのだ。
バチンといった大きな音とともに両者の攻撃は弾かれてしまい、
アーリーはその場で尻餅をつくこととなる。

「ぐっ……!!」

モモコは一安心した。
この陣形であればアーリー1人を払い除けることくらい可能だと分かっていたが、
いざ実際にやってみると脳を4重に並行して処理させなくてはならないため、
イメージしていた以上に頭が疲れてしまったのだ。
早くアーリーにトドメを刺して楽になりたいと考えた丁度その時、
モモコは嫌な予感がするのを感じる。

(ハルナン……どこいった?)

アーリーに対処するために4人をフル稼働させた結果、モモコの脳は周囲に気を払うことを怠ってしまった。
つまりは脳のさぼりだ。
モモコは瞬時に頭のモードを切り替えて、些細な殺気もキャッチするように努める。

(いたっ!!)

ハルナンの居場所はチサキのすぐそばだった。
では何故姿が見えなかったのか?
それはハルナンが地面に這いつくばりながら移動をしていたからだ。
決して格好の良いやり方ではないが、任務を確実に成し遂げるには最適だとハルナンは考えている。
アーリーが暴れるのも何もかもオトリにして、
当初の計画通り、チサキを斬ろうとしていたのだ。

(あら、気づかれちゃった?もう遅いけどね。)

ハルナンは強引に押さえつけていた殺気をここにきてムキダシにし、チサキの背中に刃を突きつける。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコの指には合計10本の糸が結ばれている。
それらの糸はメンバ1人に対して2本ずつ伸びており、
親指がリサ、人差し指がマナカ、中指がチサキ、薬指がマイに対応していた。
それでは残る小指はいったい何に対応しているのか。
その小指に括り付けられたその時、モモコ自身の身体が前方へと勢いよく飛ばされていった。

「させるかぁっ!!」

それと同時にチサキを退げることにより、ハルナンの凶刃とチサキの間にモモコが割って入る形となった。
モモコの小指は自分自身に紐づいており、
右小指を使えば前方に、左小指を使えば後方に吹っ飛ぶような仕掛けになっているのである。
複雑なことは出来ないが、緊急時に行える操作としては十分であると考えている。

「!?……」

突然の出来事に面食らうハルナンだったが、今さら刃を止めることは出来ない。
いや、むしろ止める理由が無い。
最終的にハルナンのフランベルジュはモモコの腹にズブリと入っていく。

「ふん、まぁ必要経費として払ってあげるわ……」

口では平静を装っている風なモモコだったが、近くで見れば明らかに滝のような汗をかいていた。
おそらくは激痩せしたカノンに受けた猛攻が身体に響いているのだろう。
となればこれはハルナンにとって大チャンス。
剣を更に深く押し込んで、血反吐を吐かせようとする。

「ハルナンちゃんね、調子乗ってるんじゃ無いわよ」

その瞬間、ハルナンは己の身体が氷づけのようになるのを感じた。
次に迫り来る恐怖に対して、背筋が冷たくなっているのだ。
モモコの小指にはメンバーを操る糸だけでなく、アクリルで出来た指サックが装着されていることは、前にお伝えした通りだ。
モモコはその堅く鋭い小指をハルナンの胸へと突き刺していく。

「お返しよっ!!」
「!!」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコの指がハルナンの胸部にドスッと入っていった。
だが、ここでモモコは違和感を覚える。
胸を刺したにしては硬すぎるのだ。

「鉄?……」
「ふふっ、備えあれば憂いなしとはこの事だわ。」

ハルナンは破れたカノンの鎧の破片を拾いあげ、
モモコの小指を防ぐために胸に忍ばせていた。
普段から凹凸の少ない体型のハルナンであるため、モモコは見破ることが出来なかったのである。

(これで突き指でもしてくれたらいいんだけど、期待できないよね……)

モモコの小指は硬い素材で覆われているので、
鉄に突き刺したとしても痛めるといったことは無かった。
もう少しだけでもモモコを傷付けたいと考えたハルナンはフランベルジュを再度振るったが、
モモコの蹴りを腹で受け、のけ反ってしまう。

「うっ!……」

モモコから離れてしまったことで追撃のチャンスは一旦お預けになったのだが、
ここでハルナンは無理にモモコに飛びかかろうとはしなかった。
むしろ更に距離を取るべくその場から立ち去り、更にアーリーまで呼び寄せていた。

「アーリーちゃん!こっちこっち!」
「は、はい!」

チサキを斬るという目的は果たせなかったが、ハルナンはそれ以上の収穫を得ていた。
その情報を共有するために、ハルナンとアーリーは動けぬアイリの元へと向かっていく。

「ハルナンさん、さっきのって……」
「ええ、間違いないわ。モモコは自分の身体を犠牲にしてでもカントリーの子たちを護る。
 ということは、あの子たちを徹底的に狙えば倒せると思わない?)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



リサ、マナカ、チサキ、マイはシバ公園の戦いにてモモコがミヤビを操る様子を間近で見ていた。
その時モモコが、オカールの攻撃からミヤビを庇ったことが特に印象に残ったようだった。
物言わぬ操り人形を盾にしておけばダメージを受けずに済んだというのに、モモコはミヤビを護ったのである。
それを見てから、カントリーの4名は自分が操り人形になっても良いと考えるようになった。
これが後輩を信頼させるための策略かどうかは定かではなかったが、
リサも、マナカも、チサキも、マイも、先輩が護ってくれるという一点だけは信じたいと心から思ったのだ。
そして、モモコもそれを反故にすることは決してない。
自分も後輩も満足に動けない状態の時にだけ使おうと思ってたこの陣形は、信頼のもと成り立っていることを理解している。
どれだけ苦しい時間だろうと、モモコが後輩を庇わないなんてことはあり得ない。
そして、その事について、アイリは早々に気付いていた。

(ハルナンも分かったみたいだね……モモコは口では嘘をついていないけど、感情に嘘をついている。
 4人を奴隷のように従えているように見えて、実態はその逆なんだよ。
 私が直接教えてあげても良かったけど、自分で気づいた方がこの先のアイデアも浮かぶでしょ?」

“女の子の秘密を明かさないのが女の子
嘘をついてはいないの
それが、宿命よ。”
……今のモモコを表すとしたらそのような表現になるだろうか。
素直じゃないし、可愛くないやり方ばかりとってはいるが、
彼女は常に後輩たちの成長を一番に考えている。
決して口には出さないのだろうが、今回の陣形についても「ゆるしてよ愛ゆえにごめんなさいね」と思っているのかもしれない。
とは言え今現在のモモコは窮地にある。
あともう少しだけカントリーの4人を酷使せざるをえない。

「逃げられるとでも思ってるの!?磁石の雨を喰らいなさいっ!!」

モモコはマナカを経由して残りの3人にも超強力電磁石を持たせて、
走っているハルナンとアーリーに向けて何発も投げつけさせた。

「ハルナンさん!私が守ります!」

ハルナンを信頼しきったアーリーは、トンファー捌きで石を撃墜しようとした。
4人が両手で投げるため、飛んでくる石は計8個。
正直言って全てを打ち落とす事は厳しいが、その何個かはアーリーが大きな身体で受け止めてやれば良いと考えていた。
自分が犠牲になったとしても、指揮官のハルナンが無事なら良いと判断したのだ。
しかし、ハルナンはそれとは別のことを考えていた。

「いい!アーリーちゃんはそんなことしなくていい!」

なんとハルナンは自らアーリーの盾になったのだ。
胸に潜ませた鎧の破片に磁石の大多数が引き寄せられたため大怪我にはならなかったが、
それでもいくつかは脳天や目に衝突してしまう。

「うっ……」
「ハルナンさん!どうして!私の方がカラダ丈夫ですよ!?」
「アーリーちゃんには怪我してほしくないのよ……」
「え!?」
「だって、モモコを仕留めるにはアーリーちゃんのパワーが必要不可欠だから。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



いくつかの石を被弾したが、なんとかアイリのもとに到達することができた。
ハルナンが自分の気づきを報告しようとしたが、アイリは自身の口に人差し指をピタッと当てる。

「状況は把握してる。何をすれば良いかだけ教えて。」

モモコを相手取ってる今、悠長に会議などしている暇はない。
ハルナンが指示を出し、アイリとアーリーが忠実に従うのが最善なのだ。

「分かりました!それではアイリ様は棒術のみに集中してください!」
「はい。ガッテン承知。」

アイリの強みは「雷のオーラ」と「弱点を見抜く眼」と「棒術」の三点だが、
著しく体力を奪われた今は、そのうちの1個しか満足にこなす事は出来ない。
その中で棒術を選択することがモモコを倒す鍵になると、ハルナンは気づいたのである。

「でも、この弱った身体で大地をしっかりと踏み締められるかな……
 ううん、ごめん嘘、指揮官様の命令なんだからキッチリこなさないとね。」
「いえ、アイリ様は地面に足をつけなくても大丈夫ですよ。」
「え?」
「アーリーちゃん!アイリ様を持ち上げて、ゴルフドライバーみたいに思いっきり振っちゃってちょうだい!」
「え?」
「ハルナンさん分かりました!アイリ様ちょっと失礼しますね。」
「え?」

アーリーはアイリの両足をガシッと掴み、ドライバーに見立てて大きく振りかぶった。
ただでさえ身体が弱っているところに急激にGがかかったので、アイリはパニックになりかける。

「ちょっ、ちょっと待って!もっと優しく……」
「アーリーちゃん!相手はモモコなんだから勢いよくアイリ様をスイングするのよ!」
「ハルナンさん了解です!」
「あああああああああああああ!!」

冗談みたいな状況ではあるが、アイリは全てを理解した。
地面にはカントリーが投げていた超強力電磁石が散らばっている。
おそらくハルナンは、アイリが手に持つ棍棒で磁石を打ち飛ばせと言いたいのだろう。
衰弱した今のアイリの身体では地を強く踏むことが出来ず、ショットの威力も半端なものになってしまう。
それを補うのがアーリーのパワーという訳だ。
アーリーがアイリの足首を掴んで、その身体ごと力強くスイングすれば、アイリの棍棒の先端にかなり強力な遠心力がかかる事になる。
そうすれば、普通に打つ時の数倍のパワーとスピードを備えたショットが実現可能となるだろう。

「アイリ様!アイリ様の必殺技トゥー・カップ・ベクトルで確実に決めちゃってください!
 3打でも4打でも5打でもお好きなように!」

ここにきてハルナンの発言がアイリをカチンとさせた。
ハルナンは必殺技トゥー・カップ・ベクトルを使えと言っているが、
あれは弱点を見抜く眼を活用して、どこをどのタイミングで何回叩けば、最終的な弱点を突くことが出来るのかというプランを組み立てる技だ。
「棒術」に集中することを選択した今、「弱点を見抜く眼」に頼る事は非常に苦しいので、
適当なことを言うハルナンに少しイラッときたのである。

(いや、アレなら大丈夫か……)

弱点を狙うためのルートを探すために眼を連続で使用するのは骨が折れる。
だが、今のモモコの弱点自体はアイリは十分に理解している。
つまりはゴール目掛けて真っ直ぐの一直線であれば、眼を使わずとも必殺技トゥー・カップ・ベクトルを使うことが出来るのだ。

「3打?……ハルナンちゃん、ナメてくれるね。」
「ヒッ!?」
「1打で十分よ!!『トゥー・カップ・ベクトル、”派生・エース”』!!!」

アーリーに思いっきり振られたアイリは、渾身の力で電磁石を打ち切った。
狙いは勿論、モモコの弱点。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



“エース”はホールインワンの別名。
1打目でカップインすることを意味する。
相手の弱点が分かりきっていて、一撃で決めることが可能な場合にだけアイリはこの派生技を使うのだ。

(速い!!)

モモコがそう認めるほど、アイリの打った石は高速で吹っ飛んでいた。
アーリーのパワーが味方したというのもあるが、これこそがキュート戦士団アイリの本来の実力なのである。
これまでの戦いではアイリは後輩のサポートをすることが多かったが、
最初からガンガン前に出ていれば、連合軍の”エース”と呼ばれるのは確実だっただろう。
裏方メインだったため、初見の後輩戦士たちには強さが上手く伝わらず、
「アイリを知っていますか?」「アイリを見つけてください」と同期がつい言いたくなる日もあったようだが、
この、全てを震撼させるほどの打球さえ見せてやれば、誰もがエースだと認めることだろう。

「この一撃は絶対に当たる!全部終わりにしよう!」

自分と相手とのDISTANCEを正確に測った上での超強力なショットからは、何人たりともEscapeすることは出来ない。
ましてや、それが意識を失った操り人形であれば尚更だ。

(アイリ様は……マナカ・ビックハッピーを狙っている!!)

トゥー・カップ・ベクトルは相手の弱点に攻撃を当てる技。
そして今のモモコの弱点は、モモコ自身ではなくカントリーガールズの後輩だとアイリは結論づけたのだ。
その中でも負傷の度合いが最もひどいマナカが高速ショットを受けようものなら、下手すれば命までも失ってしまうかもしれない。
ならばこの状況下ではモモコは絶対に後輩を守るはず。
そして、そんなアイリの狙いに気づきながらも、モモコはその通りに動いてしまった。
それ以外の選択肢なんて、一つも無いのだ。

「ああああああああああああ!もうっ!!」

モモコは全力で走行し、マナカに直撃するコンマ数秒前に合流してみせた。
ここから打球を防ぐ術などモモコは持ち合わせていない。
チーム河童らの連携による超強力ショットをノーガードで喰らってジ・エンド。
モモコはそのような結末を覚悟しながら目を閉じた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アイリもハルナンもアーリーもこれで決着がつくと思っていた。
モモコも完全に腹を括っている。
そんな中、この場でただ1人だけ、そうは考えていない人物がいた。

「全部終わったような顔、しないでくださいよ。」

その言葉と同時にドンッと音が鳴り、モモコは胸が痛むの感じた。
この痛みはアイリの打った石によるものでは無い。
どちらかと言えば誰かに蹴れられたような痛みに近い。
その蹴りで倒され、尻餅をついたモモコはすぐに目を開いた。
そして驚愕する。

「マナカちゃん?……」

モモコを蹴り飛ばしたのはマナカ・ビッグハッピーだった。
カントリーガールズの後輩は4人とも意識のない操り人形になっていたはず。
少なくともモモコはそう思っていた。
だが、違ったのだ。
マナカ・ビッグハッピーは最初から最後まで意識を保ったまま、それを隠してモモコに操られていたのである。
モモコはマナカをアイリの超強力ショットから護ろうとしたが、
マナカはそんなモモコを強く蹴り飛ばした。
つまり、高速で放たれた磁石は本来の軌道通りマナカ・ビッグハッピーに衝突することとなる。

「うっ!……」

アイリとアーリーの合わせ技で実現されたこのショットは、銃弾よりも速くて重い。
それが見事に直撃したものだから、無事では済まないだろう。
アカネチン戦での大怪我も影響してマナカは虫の息になっている。
このまま放置したらいよいよ命が危うい。

「どうして!どうして!」

この時のモモコは冷静さを欠いていた。
助けようとしたマナカに、逆に助けられてしまったのだから
現況を把握するのにも時間がかかっているのだ。
アイリ、ハルナン、アーリー達だってマナカに攻撃が当たることは本意ではなかったので、軽いパニック状態に陥っている。
そもそも、何故に誰1人もマナカが起きていることに気づかなかったのか。
戦闘時の人間は誰もが殺気を放つものなのだが、マナカはそれさえも微弱に抑えていたというのがまず考えられる。
そして、ハルナンとアーリーは達人クラスでは無いのでそのような殺気を感じ取るのは難しいし、
アイリも衰弱しきっていたため普段通りに感知することが出来ていなかった。
ではモモコはどうか。
チサキ達がやってくる直前のモモコは、痩せたカノンによる猛攻で頭にも大きなダメージを与えられていた。
そして、後輩を操り人形にしてからはその作業に集中していたため、
脳に負荷がかかりすぎて熱暴走状態となり、
マナカが起きているかどうか判断する程のリソースを残せていなかったのである。
その結果としてマナカの一世一代の策は上手くハマり、
この戦いは決着を迎えず、続行となったのである。

「マナカちゃん……ゲームメイクが見事すぎるわ……」

モモコは気づいた。
マナカ・ビッグハッピーはとっくに、守られるだけの存在では無くなっていたのだ。
この場にいる全ての人間を騙し、一時的にでもモモコの計算を上回る計算力を見せたことからもそれが分かる。
もはやモモコが用意した鳥カゴに収まるような人物では無い。
彼女なら鳥のように一人で巣立つことが出来るだろう。

「……うん、頭を冷やそう。」

モモコは感情の無いサイボーグのよう冷たい顔をして、冷気のオーラの出力を最大限に上げていく。
この時の体感温度は-29℃をも越え、あたかも極寒の世界にいるかのようだった。
そしてモモコはリサ、チサキ、マイにこのように告げる。

「時間が無い。ここからは私も入るから、みんなで瞬殺しようね。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



アーリーは、自身の歯がガチガチと音を立てて震えているのを感じた。
モモコの冷気のオーラが起こした大寒波に凍えているのか、
それともモモコの殺気が強すぎるあまりに恐怖しているのか、原因は定かではないが、
どちらにせよ、ハルナンやアーリーでは対抗しきれないレベルの圧が発せられていることだけは確かだ。

「だらしないね。この子たちはこんなにも元気なのに。」

ハルナンとアーリーの身体が縮こまっているのに対して、
モモコの操るリサ、チサキ、マイは先ほどと変わらぬスピードで襲い掛かってきた。
彼女たちは本当に意識を失っているため、
極寒の世界のイメージを感じておらず、モモコが操るままに動くことが出来ているのだ。
このままだと一方的にやられると考えたアイリはアーリーに指示を出した。

「アーリーちゃん!もう1回私を振って!」
「はい!」

先ほどのように、アーリーはアイリをゴルフクラブのようにスイングしていった。
弱点を見抜くほどの時間は無いためトゥー・カップ・ベクトルは使えないが、
電磁石を強打してモモコにブチ当てることで、カントリーガールズの操作を中断させようと思ったのだ。
寒いながらもアーリーとアイリは上手く身体を動かし、見事な軌道のナイスショットを実現する。

「当たらないよ。だって避けるもん。」
「!?」

なんとモモコは指で後輩たちを操ったまま、自身も動き出したのだ。
マナカ1人が離脱したとは言え、それでも3人を同時に操るのは複雑怪奇な指の動きが必要なはず。
脳の負担がひどく大きいため、モモコは自分が動くのを犠牲にして操作に専念することしか出来ない……アイリはそう考えていた。
だが、頭を冷やしたモモコなら操作と行動を両立させることが可能なのだ。
その理屈をハルナンが突き止める。

「ま、まさか……自分で自分を冷やしている!?」
「「え!?」」

モモコは冷気のオーラの出力をMAXにしていたが、それは相手を妨害するためだけのものでは無かった。
ベリーズやキュートらは、自分たちの出す凶悪な殺気に己が傷つかないように、無意識のうちにセーブやガードを行うものなのだが、
モモコはそのような防衛術を意図的に全部取っ払い、凍てつく大寒波を自らも受けるように仕組んだのだ。
そんな事をしたものだから、ハルナンやアーリーらのようにモモコ自身も耐え難い寒さを感じることになったが、
その代わりとして、複雑な処理をしても脳が熱暴走することなく、いつまでもクールにいられるようになったのである。

「言ったでしょ?私も入って瞬殺するって。
 後輩に指示をだすだけじゃない。上司自ら行動を示すのが本当の"プレイングマネージャー"よ。」

気づけばモモコはアーリー・ザマシランの目の前に立っていた。
これ以上アイリとの連携をとらせないために、必殺技で意識を断ち切るつもりだ。

「『ツグナガ拳法、"派生・貫の構え"』」

高出力となった冷気のオーラのせいか、モモコの小指には大きく鋭いツララが伸びているように見えた。
その鋭利な小指をアーリーの胸に突き刺していく。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



モモコの小指が深くまで入ったため、アーリーは耐え難い激痛を感じていた。
アイリとハルナンがサポートに入ろうにも、既にモモコが先手を打っている。
処理能力の問題を冷気でクリアしたモモコは、自身が攻めると同時に、3人の後輩をけしかけていた。
アイリの背にマイを乗せたり、ハルナンの足をリサとチサキの2人がかりで掴ませたりして、その場に縛り付けたのである。
その結果として、アーリーは誰にも救いの手を求めることが出来なくなってしまった。

(痛い!苦しい!でも……!)

アーリー・ザマシランはこの状況をチャンスだと考えた。
カントリーの3人が他を見ている今、この場はアーリーとモモコの一騎打ちとなる。
いくら敵が食卓の騎士だろうと純粋なパワー勝負なら負ける気はしない。
そう考えたアーリーはモモコの指をあえて抜かなかった。
そして、両方の手でモモコをぎゅっと抱きしめていく。

「このまま折ってやる!!!」
「やってみなよ。我慢できるならね。」

アーリーの捕縛で身動きが取れなくよりも先に、モモコは身体をくるりと回転させて、
自身のお尻による強打をアーリーの腹部にぶつけていった。
これはモモコが得意とする「モモアタック」だ。
マーチャンを仕留めた時のように、お尻に取り付けた暗器からは鋭利な刃物が飛び出すようになっている。
小指で胸をやられたうえに、尻で腹を斬られたものだから、
アーリーは苦悶の表情を浮かべながら血を吐き出してしまう。

「うっ……ぐっ……まだ、まだ……」

背骨さえへし折れば勝利という状況下。アーリーは止まらなかった。
万全のフルパワーとはいかないが、ゆっくりながらもモモコに圧力をかけていく。
このままキッチリとホールドし続ければ、ゆくゆくは敵の骨を粉砕することが出来るだろう。
「1対1の力比べなら……絶対に……負けないっ!」
「うん、1対1ならそうかもね。」
「!?」

アーリーは背中を強く叩かれたのを感じた。
それも一発ではない。二発、三発、四発といったビンタの連打を受けている。
死角ゆえに誰にやられているのかはよく見えないが、
視界の端っこで、操りのチサキがハルナンの顎に強打をぶつけている光景を見て、アーリーは気づいた。
モモコは手の空いたリサ・ロードリソースをこちらに向かわせて、アーリーに攻撃を仕掛けたのだ。
掌に金属を取り付けたリサの平手打ちは想像の数倍も痛い。
このまま貰い続けてしまえば、モモコの骨を折る前にアーリーの意識が飛んでしまうかもしれない。
味方に助けてもらいたいところだがそれも叶わないだろう。
アイリにはマイが、ハルナンにはチサキがマンツーマンでついているので、リサを制する余裕を作ることが出来ないのである。

「もうちょっ……!もうちょっとだったのに……!!」
「うんうん。もうちょっとだったのにねぇ。」

アーリーの心はもはや折れる寸前だった。
それに対してモモコは余裕の表情を浮かべている。
どうやらこのままいけば我慢比べの軍配はモモコに上がるようだ。
ところが、ここで状況が変わり始める。
ハルナンの出した大声がその契機になったのだ。

「ノルマは一人一殺!出来るわよね!?」
「?……何を言って……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



"ノルマは一人一殺"……といったハルナンの言い回しにはモモコも聞き覚えがあった。
ほんのちょっと前に聞いたその言葉の出所をすぐに思い出したのだが、
ノータイムで気づかなかった時点で手遅れだった。

「まさか!?」

後輩たちに繋がる糸を指で引くよりも早く、2人の乱入者が登場した。
その者の名前はモーニング帝国新人剣士のノナカ・チェル・マキコマレルと、マリア・ハムス・アルトイネ
ノナカはアーリーに危害を及ぼすリサの足を払い、
マリアはアイリに乗っかかるマイを突き飛ばす。

「2人とも……そのまま相手をマークし続けて!」
「「はい!!」

新人剣士はそれぞれがカントリーと1対1で戦っていたが、
ノナカとマリアは敵に勝利し、この場に帰ってきていたのだ。
実を言うと、ハルナンは2人が帰還したことにもっと早い段階で気づいていた。
死闘の後ゆえに負傷しているとは言え、ノナカとマリアは貴重な戦力。
戻ってきた時点ですぐにモモコ戦に投入しても良かったが、あえてハルナンは目で合図し待機させたのである。
そして、最も効果的に合流できる時が今この瞬間だと判断し、
新人剣士がカントリーと戦うきっかけになった号令"ノルマは一人一殺"を言い放ったのだ。
それだけでノナカとマリアは自分が狙うべきターゲットを断定することが出来る。

(リサ・ロードリソース!操られている貴女はunmatched……似合わないよっ!)
(マイ・オゼキング・セロリサラサ!痛いかもしれないけどガマンしてね!)

このハルナンの考えが上手くハマり、ノナカとマリアは激戦を繰り広げたライバルに飛びかかった。
これによってアーリー・ザマシランは何者にも邪魔されることがなくなる。

(帝国剣士の子だっけ!?とにかくありがとう!これで力を出せる!)

敵の身体をへし折るためにアーリーは継続してモモコを抱きしめ続けていた。
もうリサに背中を叩かれることは無いので、何も気にせずに力を加え続けることが出来る。
だが、モモコもこのままやられるつもりは毛ほどもない。
アクリルで出来た指サックを装着した右小指を、お次はアーリーの太ももにぶっ刺していく。

「!!!!」
「痛いでしょう?次はどこに穴をあけてやろうかしらね。」

モモコはアーリーが放してくれるまで小指による攻撃をやめないつもりだ。
仮にアーリーが解放してくれなかったとしても、ダメージの蓄積に反比例して力は弱まっていく。
そうすればいつかは力関係が逆転し、捕縛から抜け出すことが出来るようになるだろう。
ノナカとマリアの登場には多少驚かされたが、極寒の冷気で頭を冷やしたモモコは今更パニックに陥ったりしない。
寒さでプルプルと小刻みに震えてはいるが、常にどう動くのが最適なのかをしっかりと考えることが出来ている。

(リサちゃんはノナカちゃん、マイちゃんはマリアちゃん、そしてチサキちゃんはハルナンに抑えられている。
 あの中から一人でもこちらに呼び寄せることが出来たら万々歳だけど、そこは期待しないでおこう。
 アイリだけはフリーにしちゃってるけど、恐れるに及ばずね。
 ハルナンはアイリに"棒術"を選択させた……でも、今のアイリはいよいよ立てなくなっている。
 もうアーリーちゃんの支援なしじゃ球を打つこともままならさそうだよね。
 でも残念。アーリーちゃんは私に夢中みたいよ。アイリを助ける余裕、無いってさ。)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



確かにアイリには立ち上がる気力も残されていない。
だが、そんなアイリにはモモコの弱点がしっかりと見えていた。
今回もまた、弱点を見抜く眼など使っていない。裸眼ではっきりと認識できている。

(……ひどく寒そうだよ。痛々しいくらいに。)

モモコの顔はすっかり青ざめていて、誰がどう見ても病弱そうだった。
全身震えているし、指先もかじかみ、なんとか動かすのがやっとのように見える。
自身のオーラへの抵抗力を全て捨てて、頭を冷やしたところまでは良かったのだが、
極寒のイメージが強すぎた結果、我が身を凍てつかせてしまったのである。

(だったら、この状況で、モモコに最も効く攻撃は!)

アイリは己の両腕を強く地面に叩きつけた。
ただでさえ弱っていたところにそんな仕打ちをしたものだから、
骨折してしまい、腕が曲がってはいけない方向に折れてしまった。
だが、これで思惑通り”棒術”を捨てることが出来る。
単なる自傷行為に思えるかもしれないが、このように強い思いを持って、自ら選択することが肝要なのだ。
今のアイリはもう”棒術”を使うことはできない。
そして、”弱点を見抜く眼”は今更使う必要はない。
ならば残されるのは”雷のオーラ”のみ。
アイリは残る力の全てを費やして、渾身の落雷をモモコに落としていく。

「えいっ!!!」
「!!!」

今のモモコはあらゆるオーラを無抵抗で受けてしまう。
つまりはアイリの放つ落雷も必要以上に効いてしまうのだ。
その時、感じたSHOCK!は本物の雷に打たれたのと同等だった。

「アーリーちゃん……後は任せたよ……」
「アイリ様!」

流石食卓の騎士と言うべきか、
アイリの雷はモモコだけを傷つけて、それを抱いているアーリーには静電気ほどの痺れも伝わっていなかった。
それだけ殺気のコントロールが正確だったのだ。
搾りカスを限界まで絞り切ったようなものなので、この瞬間アイリの意識はプツリと切れてしまったが、
モモコにも大きなダメージを与えることが出来た。
今のモモコは全身が痺れて動くこともままならない。
勝機はアーリーにある。

(このまま抱きしめ続ければいつかは折れる……でも、それで良いの?)

アーリーはアイリが自ら腕を壊したのを見て、思うところがあった。
このままモモコを圧迫するのは楽だ。時間をかければ必ず倒すことが出来る。
しかし、いつモモコが動けるようになるのかは分からないため、確実な方法とは言えないだろう。
ならばアーリーはここでリスクを取らねばならない。
アイリが腕を失うのが致命的であったように、
モモコにも失いなくない部位があるはずなのだ。

(してほしくない攻撃、これでしょ!?)

アーリー・ザマシランは決心した。
モモコを抱くのを止めて、その代わりにモモコの両手を包み込むように握りしめたのである。
そして一気にフルパワーをぶち込んだ。

「必殺!”full squeeze”!!!」
「ちょっと!や、やめ……あああああああああ!!」

モモコの指は、鈍い音をボキバキと鳴らしながら折れていく。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



操られていたリサ、チサキ、マイは糸が切れたかのように一斉に崩れ落ちた。
彼女らに繋がるモモコの指が軒並み折られたため、もう操作することが出来なくなったのだ。
アーリーによる強大な力によってモモコの指は9本が使い物にならなくなっている。
残る1本は、硬いアクリルによって保護されていた右小指のみ。

「ハァ……ハァ……やりすぎよっ!」

モモコはアーリーの手を振り払い、最後に残った1本で斬撃のように胸を切りつけた。
これはカノンを倒した時の『ツグナガ拳法、”派生・閃の構え”』。
光線のように放たれた攻撃にアーリーは耐えることが出来ず、
リサ達同様、糸の切れたマリオネットのように倒れてしまった。
これまでのダメージが蓄積されて、とうとう許容量をオーバーしたのだろう。

(ハルナンさん……ごめんなさい、もうダメみたいです……)

これにてモモコはアーリーによる束縛から解放されることとなった。
だが、描いていた未来とは少し違う。
モモコとハルナンが相対していること自体は想定通りなのだが、
リサ、マナカ、チサキ、マイが倒れている代わりに、新人剣士のノナカとマリアがこの場に現れている。

「相手がハルナンちゃんだけだったら楽させてもらえたんだけどね。
 そっか、2人もいるんだ、これはキツいなぁ……」

この発言にノナカとマリアはムッとした。
今のモモコはどう見てもボロボロだ。
そんな状態なのに帝国剣士団長であるハルナン1人なら余裕だと言うのが許せなかったのだ。
そんな中、ハルナン本人だけは何を言われても気にしないといった顔をしていた。

「とってもお寒そうですね……冷気のオーラ、解いた方が良いんじゃないですか~?」

自身の起こした大寒波にやられたせいで、誰がどう見てもモモコの体調は悪そうだった。
ハルナンは言葉その身を案じているように聞こえるが、実際はそうではないことはノナカも分かっていた。
猛吹雪さえ見えてきそうな冷たい殺気に、ハルナン、ノナカ、マリアの3人の行動が大きく制限されてしまうので、
満足に戦うために冷気そのものを解除させたかったのだろう。

「するわけないじゃない。」

断身刀剣を習得した先輩たちと比べると新人剣士たちは未熟。
それゆえにモモコの冷気をほとんどノーガードで受けているのに近い状態にある。
そしてハルナンの抵抗力も、密度濃いツアーを経てきたエリポン、カノン、マーチャン、アーリーには全然及ばない。
ならばここでわざわざオーラを解除してやる必要はないのだ。

「ですよね~。私が同じ立場でも解除はしません。
 でも、そのうち自分の方が冷気でやられちゃったりして……」
「……」

その可能性についてはモモコも否定し切れなかった。
早期決着をつけようにも、寒気のせいで運動パフォーマンスは著しく落ちている。
蛇が自身の毒で死んでしまうような、最悪の結末だって無いとは言えない。
なのでモモコはここでまずやるべき事を考えた。
近隣国一の瞬馬の名を、精一杯の大声で叫んだのだ。

「サトタ!!!!」
「「「!?」」」

ハルナン、ノナカ、マリアらは驚いた。
サトタと言えば、モモコがサユをさらった時に乗っていた馬の名だ。
その馬がやってきて、モモコを乗せるのであれば話は大きく変わってくる。
圧倒的な機動力、それがモモコに味方してしまうということなのだから。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



すぐにでもサトタが駆けつけてくるのかと思われたが、
数秒経過してもやってくる気配はまるで無かった。
身構えていたハルナン、ノナカ、マリアは拍子抜けしてしまう。

「え?……ええ?……」
「ああ、サトタが来ると思った?来ないよ。」
「???」

モモコの言っていることの意味がまるで分らなかったが、
この数秒間、弄ばれたのだとハルナンは理解した。
先ほどまではこちら側が優勢だったはずなのに、
ほんの少しのやり取りだけでモモコが「騙した側」に、ハルナン達が「騙された側」になったのだ。

「くっ……どうしても主導権を握りたいようね……」
「なんか勘違いしてない?さっき叫んだのは別に騙す騙さないじゃなくて……ま、いいか」

ここでモモコは得意のポーカーフェイスを取り戻した。
肉体的にも精神的にも限界近いくらいボロボロではあるが、
ここで平気な顔をした方がハルナン相手には優位に働くと考えたのである。

「勝手に勘違いして構えてくれたおかげで助かったわ~
 ここは極寒の世界。イメージだからってバカにしないで。ちょっと時間が経つだけで凍傷・壊死のリスクが高まるの。
 見てごらん?ハルナンの後輩ちゃん達、今にも眠っちゃいそうだよ?」
「!」

ノナカとマリアは強大な殺気を前にしてひどく神経をすり減らしていた。
彼女たちはもはや雪山で遭難しているも同然。少し気を抜くだけで眠りについてしまいそうになる。
だが、ここで負けてはいられないことは重々承知している。
苦しさのあまり涙がボロボロとこぼれるが、大声で叫ぶことで相殺させていった。

「ハルナンさん!私たちまだやれます!3人でモモコにWinしましょう!」
「マリアもなんです!足が動かなくなっても、腕が千切れても、最後まで頑張ります!」

士気は十分。しかしハルナンはそれでも満足はしなかった。

(2人がまだやれるのは良かったけど、気合や根性でどうにか出来る相手じゃないのよね……
 指が折れてもまだ使える暗器は残っているんだろうけど、一番怖いのはその"冷静さ"。
 思考がクールでいるうちはどんな攻撃を仕掛けても対策されちゃいそう……
 ……だったら、冷静さを根こそぎ奪い取っちゃうか?)

ハルナンは足元に転がっていたチサキの首根っこを掴み、喉元に刃を突き付けた。
それを見たモモコはゴクリと唾を飲む。

「ねぇノナカ、マリア、果たしてモモコは本当にこの子たちを操れなくなったのかしら?」
「「え?」」
「指の骨が折れたとは言っても、指自体には糸が結ばれているわけでしょ?
 それこそ、気合や根性でチサキちゃん達を動かせそうだと思わない?」

ハルナンの言葉にモモコは背筋が凍るような感覚を覚えた。
猛吹雪よりも、極寒の世界よりも、この考えの方がよほどゾクリとする。

「きっと本当は操れるのに、私たちの裏をかこうとしているのよ。
 だったら確かめましょう。今からチサキちゃんの喉にフランベルジュを突き刺すわ。
 カントリーの子たちをあんなに大事に思っているモモコだもの。本当に操れるなら今すぐにでも逃がすでしょう。」
「や、やめろ!!」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



チナミがマイミに勝利したいと考えていたのと同様に、
モモコも本来の目的以外に、自分だけの目的を持っていた。
それはカントリーの後輩たちに濃密な経験を積ませるということ。
逆算するともう先が長くない自分に代わって、これからはリサ、マナカ、チサキ、マイに頑張ってもらわなくてはならない。
連合軍との死闘を通じて、4人に強くなってもらいたいというのが裏の目的だったのである。
故に、モモコはどんな状況でも彼女たちを守る。

(チサキちゃんを斬らせはしない!!)

モモコは全ての指が折れた左手を強く引き、そこから繋がる糸を無理やりにでも手繰り寄せようとした。
糸の先の後輩たちを引き寄せるだけなら確かに指による精密動作は不要だが、
アーリーによって骨をグシャグシャにされたせいで、モモコは拷問にも近い激痛を感じていた。
だが、ハルナンの凶刃からチサキを守るためにはそんなことを気にしていられない。
そして同じタイミングで右手を大きく使い、モモコは電磁石をフルパワーでハルナンに投げつけた。
これで仕留められるかどうかは分からないが、チサキを取り戻すまでの時間稼ぎにはなると考えたのだ。

「「ハルナンさん!!」」

ハルナンが危険に晒されたと気づいたマリアとノナカはすぐに動き出した。
マリアはハルナンを石から守るために、両手剣を当ててホームランしようとする。
それに対して、ノナカは別のアプローチを見せようとしていた。

(あのチサキって子がモモコの手に渡ったらハルナンさんの打つ手が無くなる!!
 ハルナンさんのtacticsを繋げるためにも、それだけは阻止しなきゃ!)

チサキを人質に取っているからこそ自分たちが優位に立てていることにノナカは気づいていた。
その優位性を維持するために、ノナカは紐に括りついた忍者刀を投げつけようとする。
狙いは、モモコとチサキを結ぶ糸だ。
それさえ切断してしまえば、引き続きチサキの生殺与奪を握ることができる。
ところが、ここでハルナンからの意外な指示が飛んできた。

「ノナカはストップ!マリアはその調子よ!」
「What!?」

命令通り、ノナカは手を止めた。
そして上官の意図が分からぬままマリアがカキーンと石を遠くまで跳ね飛ばす様をじっと見ることとなる。
ハルナンの真意を掴めていないのはモモコも同様だが、
これ幸いと思い、唯一残った右小指を巧みに動かし、糸を操作する。
前にも述べたが、モモコの両小指の糸は自分自身に繋がっている。
右小指を使えばモモコの身体は前方へと勢いよく吹っ飛ぶ。
そうして己を前へと進ませることで、力任せで引っ張ったチサキの元に一瞬にして到達することが出来たのである。
ハルナンから後輩を守りたいという思いが強すぎるあまり、モモコはチサキを思わずギュッと抱きしめた。
I NEED YOU。モモコには後輩が何よりも必要なのだ。

「チサキちゃ……んっ!?……」

その瞬間、モモコの腹部に激痛が走る。
それもただの痛みではない。鋭利な刃物が身体の深くまで突き刺さったような痛みだ。

「こ、これは……まさか……」
「信じてましたよ。モモコ様がチサキちゃんを愛情いっぱい抱きしめるだろうと。」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



カントリーのことで頭がいっぱいになり、冷静さを欠いたモモコには見えていなかった。
チサキの服には、すでにハルナンの愛刀フランベルジュ「ウェーブヘアー」が括り付けられていたのだ。
そんなチサキを抱きしめたものだから、モモコの体内には波打つ刃が深くまで入ってしまう。
強く強く抱くほどに、モモコはその身を傷付ける。

(ハルナンさん!私が糸をcutするのを止めたのはこれが狙い!?
 わざと糸を引き寄せさせることで、モモコとチサキを接触させた……)

モモコは歯を食いしばって耐えようとした。
必死で強がろうとした。ポーカーフェイスも今すぐ見せつけやろうとした。
だが、もう限界が迫っていることはハルナンにも、ノナカにも、マリアにもバレバレだった。

「ハルナンさん!寒くなくなりました!身体がポカポカしてきます!」
「当然よマリア。もう、冷気のオーラを出す気力も残っていないんでしょう。」

そんなマリアとハルナンの会話を聞いて、モモコは強いショックを受けていた。
殺気を振り撒こうとしても全然上手くいかないのが悔しいし、
そして何よりも、一言も言葉を発することが出来ないくらい自分が弱ってしまっていることが口惜しい。
これではもう口八丁で相手を惑わすことも叶わない。
立っている余裕も失われたのか、気づけば地面に横たわってしまっている。

(まだ……まだ……終われない……!
 あの子たちは、もっと面倒見てあげなくちゃ……!!)

せめてもの抵抗でモモコは右手を高く掲げた。
唯一折れずに残っている右小指を立派に立たせたのだが、
チサキに負わされた、否、ハルナンに負わされたダメージが大きすぎたせいで、
モモコの身体は少しずつ、少しずつ沈んでいってしまった。
立たせた小指にもやがて力が入らなくなり、そっと折り畳まれる。

「勝った……勝ったんだ……」

緊張の糸が切れたのか、マリアはすっかり呆けていた。
ノナカも同じだ。今もまだ自分が立っていられるのが信じられない様子だ。
それだけ強大な敵と、この瞬間まで死闘を繰り広げていたのだ。
ぼおっと突っ立っているノナカとマリアとは一味違う行動を見せたのが、モーニング帝国剣士剣士団長のハルナン・シスター・ドラムホールドだ。
ウキウキ顔で、ある地点へとダッシュしている。
その地点とは、今の今までモモコに塞がれていた武道館の入り口だった。
現時点で連合軍は誰一人として武道館の中に足を踏み入れていない。
つまり、ハルナンのこの一歩が連合軍初の第一歩となる。
モモコに勝ったことよりも、武道館に入ったことの喜びが上回っていたのか、らしくない程のはしゃぎようを見せていた。

「ライブハウス武道館にようこそいぇーーーーーーーい!!!!!!」

子供のように無邪気になったハルナンをマリアはぽかんと見ていた。
だがすぐに思い出す。勝利のために非常に徹したハルナンの戦い方を。
勝負の世界は生きるか死ぬかだ。
モモコは強い。この場にいる誰よりも強い。
しかし、情という弱点を自ら作り上げてしまった。
この生き方の是非が問われるかもしれないが、今回の戦いにおいて明確な敗因となったのは確かだ。

(ハルナンさんはとっても凄い……けど、マリアもあんな風になれるのかな……
 大好きな人と戦わなくちゃならない時、マリアは、斬ることが出来るかな……」


  
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